米国の小売り大手ウォルマートは、2022年4月6日、サプライチェーンのCO2排出を削減する「プロジェクトギガトン」が目標の半分に到達したことを発表した。プロジェクトとして重要なマイルストーンを超えたということになる。
ウォルマートは米国を中心に27ヶ国で約1万1,500の店舗を持つ小売り企業で、日本では西友の親会社だった時期もある(現在も株式は保有)。2040年カーボンゼロを目標としており、再エネの導入をはじめ、廃棄物の削減などにも取り組んでいる。
こうした中、課題となっていたのが、サプライチェーンにおけるCO2削減だ。近年は、事業所から直接排出されるCO2のみならず、スコープ3とよばれる、サプライチェーンや製品の利用・廃棄によるCO2排出削減も求められるようになっている。
実際に、小売業におけるCO2排出量の大部分はスコープ3によるもので、これを削減しない限りは、効果的なCO2排出削減となっていないという見方もできる。ウォルマートによるCO2排出量のおよそ95%はスコープ3によるものだという見積もりもある。実際に、2020年のCO2排出量は、スコープ1(事業所からの直接排出)とスコープ2(電力などによる間接排出)の合計がおよそ16.4Mトンだったことに対し、スコープ3は164.2Mトンと推定し、金融系の国際環境NPOであるCDPに報告している。
こうしたことから、ウォルマートではサプライチェーンのCO2排出削減に向けたプロジェクトギガトンを2017年にスタートさせた。サプライチェーンからのCO2を2030年までに1Gトン(10億トン)削減することを目標にしたものだ。
10億トンというのは、日本における1年間のCO2排出量よりわずかに少ない量だ。
今回の発表では、累積のCO2排出削減量が0.574Gトン=5億7,400万トンに達したという。これはおよそ2,500社におよぶサプライヤーからの報告によるものだ。
Project GigatonTM action areas302
Million metric tons (MMT) CO2e
出典:ウォルマートHP
プロジェクトギガトンにおいては、さまざまなプログラムが提供されている。そのうちの1つが、エネルギーコンサルティング会社のシュナイダーエレクトリックとの提携によって推進している、ギガトンPPAだ。これは、サプライヤーにもPPAを通じて再エネの電力を利用してもらうというもので、2021年からPPAの発電所の開発が進められている。中小企業にとっては、大規模な再エネ発電所とPPAを締結することは簡単ではない。そこで、サプライヤー向けの再エネを開発し、それぞれのサプライヤーの実状に応じた形で契約してもらうというものだ。これにより、サプライヤー企業はPPAを利用しやすくなる。すでに約4,500社が契約しているということだ。
また、HSBC(香港上海銀行)が開発したサプライヤー融資プログラムの活用も該当する。このプログラムを拡大し、気温上昇1.5℃未満に対応したCO2排出目標を設定したウォルマートのプライベートブランドのサプライヤーに対して、融資や事前の請求書の発行による先払いを提供するというものだ。
プロジェクトギガトンは一定の進捗を見せているものの、スコープ3の排出量算定はまだ確立されたものではなく、正確な測定は簡単ではない。ウォルマートでは引き続き、スコープ3における算定をより精緻化していくとしている。また、そのことによって、削減量も上方修正していく見込みで、数ヶ月以内にスコープ3の目標を改訂する予定だとしている。
日本でもスコープ3への取組みはなかなか進まないのが現状だ。また、大手企業がサプライヤーに対してCO2排出削減を求めたとしても、削減そのものを支援するケースは少ない。
そうした中にあって、ウォルマートによるサプライヤーのCO2排出削減の支援プロジェクトは、日本の大手企業にとっても参考になるだろう。同じ業種でいえば、イオンやセブン&アイがサプライヤーとPPAをシェアするということも考えられる。
その意味では、ウォルマートの取組みは日本企業においても参考にすべきものではないだろうか。
エネルギーの最新記事