都市封鎖続くニューヨーク:コロナウイルスでストレスフルな現場、感染で死亡の報道も。社会支える「必要不可欠な」エネルギー従事者たちの現在 | EnergyShift

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都市封鎖続くニューヨーク:コロナウイルスでストレスフルな現場、感染で死亡の報道も。社会支える「必要不可欠な」エネルギー従事者たちの現在

都市封鎖続くニューヨーク:コロナウイルスでストレスフルな現場、感染で死亡の報道も。社会支える「必要不可欠な」エネルギー従事者たちの現在

2020年04月10日

毎日数千人のペースで陽性反応が出て、ウイルスが蔓延するニューヨークにあっては、エネルギーの供給を担う従業員らは常に感染の危険と隣り合わせにあり、ストレスフルな環境で作業に当たっている。彼らの中から感染者、死者までもが出ているとの報道は、あまり知られていないかもしれない。
緊急事態宣言が出された日本でも、電力やガスの供給を支える現場で、米国と類似の事例が出るとも分からない。ニューヨーク在住のジャーナリスト、南龍太氏がニューヨークを中心にエネルギー企業の現状を紹介していく。

24時間体制で安定供給

「パンデミックの間も安全で途絶えることないエネルギー供給を確保するため、約200人の従業員を管内の重要な場所に派遣しました」

そうフェイスブックに投稿したのは、電力やガスを各家庭に届ける英国系のナショナル・グリッド。米北東部諸州から成るニューイングランド地域とニューヨーク州を営業エリアに持つ。同社は供給先、特に病院や医療機器メーカーなどに電力やガスを安定的に送り続けるための特別措置として、日本の電力会社の「中央給電指令所」に当たるような現場に、専従の従業員を配置した。

(WRGBのウェブサイトより)

現場の様子を伝えたCBS系のWRGB(https://cbs6albany.com/news/coronavirus/employees-living-at-work-to-keep-the-power-on-during-a-pandemic)によると、任務を命じられた従業員らは12時間交代制のシフトを組んで対応に当たっている。ナショナル・グリッド東部地域コントロールセンターでは、従業員が24時間体制で安定供給を監視している。

こうした社員らの貢献に対し、同社は「病院やクリティカルケア(重症患者向け看護)施設を含むお客様にガスと電気が行き渡るよう、彼ら(従業員)と彼らの家族が捧げている犠牲に感謝しています。今日、そして毎日称賛しています」と伝えた。ツイッターには「従業員とお客様の健康と安全が最優先です」と投稿している。
https://twitter.com/nationalgridus/status/1238813158283849728

ニューヨーク州南東部ロングアイランドで電力事業を営むPSEG(Public Service Enterprise Group)Long Islandも同様に、現場で作業する社員の写真をツイッターに掲載。「地元病院の要望に応えるため、作業員は一生懸命働いています!」

https://twitter.com/PSEGLI/status/1245045518079864832

全米各地で新型コロナウイルスが猛威を振るい感染者が40万人を超える中、最も多いニューヨーク州は感染がピークを迎えつつあり、今が正念場だと言われる。
多くの人々が1日のほとんどを家に閉じこもって過ごす生活を送る非常時の下、今まで通り電気が使え、コンロには火が付くのはありがたく、当たり前のことではない。これはひとえに社会インフラとして「必要不可欠な仕事」と指定されたエネルギー産業に従事する人たちの支えがあってこそだ。

エッセンシャルな仕事

ニューヨーク市を中心とした地域が営業エリアのコン・エジソンも、自社の作業員らを「必要不可欠な社員」(essential personnel)と呼び、ツイッターで奮闘ぶりを紹介している。

https://twitter.com/ConEdison/status/1247629376591728641

コロナウイルスの感染拡大で州が非常事態宣言を出した3月7日以降、住民や企業にさまざまな規制や感染防止策が設けられる中、世の中の仕事は、Essential(必要不可欠)かNon-Essential(必要不可欠でない)かに二分された。

ニューヨークでは、病院や高齢者施設などの「必要不可欠なヘルスケア」(Essential Health Care Operation)分野を筆頭に、食料品店や薬局などの「必要不可欠な小売業」(Essential Retail)や「金融機関」(Financial Institutions)、「メディア」(News Media)などが指定され、発電や燃料供給、水道などといった分野も「必要不可欠なインフラ」として対象となった。Non-Essentialの業種が業務の停止を求められる一方、Essentialとされた業種は例外的にそうした規制を受けない。

ニューヨーク州ウェブサイト:「ニューヨーク州の休止」行政命令に基づく必須サービスに関するガイダンスを発表

業務を継続できると言っても平常時よりも余計に神経を使うことが多いようだ。現場の様子を伝えるコン・エジソンの公式映像によると、作業員らは青い手袋をぴっちりとはめ、ペンチなどの工具や作業車のハンドルをこまめに拭いて消毒している。ある社員は「CDC(米疾病対策センター)のガイドラインに従って皆、他人と6フィート(約1.8メートル)の距離を取るようにしている」と話す。同社はそんな「必要不可欠な社員たちの勇気を称える」と鼓舞する。

170人感染、3人死亡も

州の非常事態宣言とは別に、ニューヨーク市も12日、独自に非常事態宣言を出し、警戒態勢を一段と強化した。感染拡大を受け、15日にはビル・デブラシオニューヨーク市長が「戦時中の精神で応じなければ」(we must respond with a wartime mentality)と気を引き締めていた。病院では人工呼吸器の不足や医師の疲労の限界などで医療崩壊の危険が叫ばれ、ボランティアや病院OBを募るなどして凌いでおり、綱渡りの日々が続く。

エネルギー企業の現場もやはり、犠牲を強いられている。コン・エジソンは売上高1兆円を超す巨大エネルギー企業だが、コロナウイルスとの闘いは想像以上に険しいようだ。

エネルギー関連の専門メディア「ユーティリティー・ドライブ」は、4月3日までにコン・エジソンの社員170人がコロナウイルスに感染、3人が亡くなったと伝えた。報道によると、同社の約半数は在宅勤務をしているが、感染経路を特定するのは難しいとされる。
(記事:https://www.utilitydive.com/news/con-edison-reaches-142-confirmed-covid-19-cases-2-deaths-as-risks-rise-fo/575417/

(コン・エジソンのロゴをあしらったマンホール、筆者撮影)

同社は従業員、そして地域の顧客に感染を広めない目的で現在、検針作業を取りやめている。また、非常事態宣言とその後の感染防止策に伴い、休業や失業で収入が得られずに電気代が払えない人が増えていることを踏まえ、滞納しても供給を遮断しないなどの特例措置を講じている。

この措置の背景には3月19日、電力会社の業界団体のEEI(エジソン電気協会)が「滞納による供給遮断の見送り」措置を取るよう、加盟企業に求めたことがある。

EEIウェブサイトより

ナショナル・グリッドもまた、同様の措置を取っている。ただ、経験したことのないような異常事態を前に、安定供給に支障が出ている様子もうかがえる。
同社のツイッターアカウントには、顧客とみられるアカウントの利用者とのやり取りが多数掲載され、「コロナ危機になってから、どういうわけか2回目の停電。なんでなの?」「人々のためにもっと仕事して」といったクレームや不満も散見される。そうした声に対し、公式アカウントから逐一、おわびや釈明のメッセージが返されている。

ナショナル・グリッド公式アカウントはカスタマーと直接やり取りをしている。

現場で支える人がいてこそ

異例の事態に見舞われる中、電力やガスの供給設備を整える現場も、内部の人も、さまざまに苦労を抱えながら事業を続けている。
そうした事情を察してか、EEIもエールを送る。2日の同協会のツイッターにはこう綴られていた。
「我々の産業の架線作業員は安全で、適正価格で、信頼できる電気をお客様に提供すべく取り組んでいます。もし今日、どこかで彼らを見掛けたら、どうか彼らの献身に遠くから『ありがとう』と伝えてください」

EEIのTwitter

ニューヨークでは非常事態宣言が出されて約1ヶ月がたった。スーパーに入店するのに2時間、3時間待ち、公園も閉鎖されてしまうような異常さが続く。ブロードウェイは6月まで閉鎖の報道も出ている。それでも市民は従来通り電気やガス、水道が使える。これは決して当たり前のことではなく、現場で支えている人たち、Essentialな仕事の現場で汗を流す人たちがいてこそだとあらためて実感する。

ニューヨークでは3月の下旬ごろから、夜7時になると、医療現場などの第一線で身を粉にして働き、感染拡大を防ごうとしている人たちに対して数分間、拍手や歓声で称えるようになり、市民の習慣となった。
「今日も電気、ガスを届けてくれてありがとうございます」そうした思いも込めながら、筆者は拍手を送っている。

(自宅から拍手を送る人々、筆者撮影)
南龍太
南龍太

政府系エネルギー機関から経済産業省資源エネルギー庁出向を経て、共同通信社記者として盛岡支局勤務、大阪支社と本社経済部で主にエネルギー分野を担当。現在ニューヨークで執筆活動を続ける。著書に『エネルギー業界大研究』、『電子部品業界大研究』(いずれも産学社)など。東京外国語大学ペルシア語専攻卒。新潟県出身。

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