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中国EV:「電池シェアリング」は他国メーカーの参入障壁になるか

中国EV:「電池シェアリング」は他国メーカーの参入障壁になるか

EV(電気自動車)の大きなデメリットは電池の充電時間である。ガソリン車のようにスタンドで簡単にフル充電された電池と迅速に入れ替えられたら非常に便利であるが、残念ながらこれまで自家用車で成功した事例はない。 しかし、このたび中国で始まったEV電池シェアリングの取り組みは世界で初めて定着する可能性を秘めており、場合によっては他国EVメーカーを排除してしまうかもしれない。中国EVの最新動向を日本サスティナブル・エナジー株式会社の大野嘉久氏が紹介する。

中国では交換インフラを整備することで電池シェアリングを加速

中国では2019年7月に“新エネルギー車”への補助金を削減したことでEVの販売数が大きく落ち込んだ。その回復という意味も込めて、同国政府の工業情報化部が目指しているのが「EVと電池の分離」である。

メーカーは“電池のないEV”を販売することで価格を大幅に引き下げることができ、またユーザーは共通の電池をスタンドで補充することによって電池の劣化を心配しなくてよくなる。現在はまだ実証段階だが、政府は次のステージを「電池交換技術のさらなる発達」とし、(EVなどを含めた)新エネルギー車の満足度をさらに高めるビジネスモデルにする、としている。

国有自動車メーカー、北京汽車集団(BAICグループ)傘下の北京新能源汽車(BAIC BJEV)は中国・国内15の都市において既に13,000台の電池交換型のEVタクシーを運行させており、電池交換スタンドも187箇所を設置している。また、EVスタートアップ企業の上海蔚来汽車(NIO)も2019年時点で100箇所以上のEV電池交換スタンドを設置しており、2020年内には1,100箇所まで拡大させる計画を立てている。
つまりEV電池シェアの前提となる交換インフラをまず整備してしまうことで普及を加速させる方針だが、この動きは先例を参考にしているのであろう。その先例とは何か。

北京新能源汽車(BAIC BJEV)の電池交換型EV 北汽新能源-北汽EU快换版 ウェブサイトより

これまでのEV電池シェアリングは事業化が困難

かつて世界各地で始められたEV電池のシェアリング事業が成功しなかった最大の理由は、電池を短時間で交換するための設備投資額が膨大になるからである。ガソリンスタンドであればノズルを人が給油口に差し込むことができ、燃料は液体なので車体の内部にあるガソリンタンクまで届いた。
しかしEV電池はかなり大きくて重く、高い気密性も要求されるため、スタンド建設が一箇所でも相当な費用がかかってしまう。そのうえ、スタンドは幹線道路沿いや高速道路など、広範囲に多数を建設しなければならなかった。

象徴的な事例とされるのは米国の電池交換ベンチャー企業「ベタープレイス」である。同社は仏ルノーの協力を得て2008年頃から米国やイスラエルそしてデンマークなど世界各地で事業を展開。日本でも2009年に横浜で交換スタンドを設置したほか、経済産業省・資源エネルギー庁の「電気自動車普及環境整備実証事業」に採択されて六本木にも設備を完成させたが、資金の枯渇によって2013年に破産してしまった。

その2013年には、米テスラ・モーターズが電池を交換できる充電スタンドをロサンゼルス - サンフランシスコ間に建設し、同社のEV“モデルS”所有者に「通常の充電(自社で提供している充電設備のスーパーチャージャー)なら40分間、無料」「電池交換なら90秒、ただし有料(60ドル~80ドル)」という条件で利用を呼びかけた。
ところがほとんどのユーザーは興味を示さず、2015年に同社は事業の失敗を認めた。イーロン・マスクCEOは株主総会にて「スーパーチャージャーで十分に速く充電できるため、交換スタンドはいらないと判断されたのではないか?」と分析しているが、そもそもスタンドが1箇所しかなかったことや、初期投資を回収するために設定した1回あたり6,000円~8,000円という高額の交換費用が大きく影響したのではなかろうか。

台湾やインドでは二輪車・三輪車の電池交換が定着

このようにEVの電池シェアリングは技術面や資金面での問題が大きく、これまで成功例はないが、二輪車や三輪車では事業化されている。例えば台湾では2011年に設立されたゴゴロ(Gogoro)社が電池交換式の電動スクーター「ゴゴロ スマートスクーター」を発売したが、その充電スタンドは全国に拡大し、今では従業員数1,200人規模の会社に成長している。

同社の「スマート・バッテリー」の交換にかかる時間はわずか6秒だが、1回の充電で170kmの走行が可能である。また電池の状態は全てゴゴロ社が常時モニタリング管理しているため、ユーザーは性能の劣化を気にすることなく利用できる。充電スタンド「GoStation」は台湾全土の駐車場・駐輪場、駅、学校、スーパーマーケットやコンビニエンスストア、ガソリンスタンドなどに合計1,581箇所も設置されており、一日あたり19万個の電池が充電されているという。

Gogoro社電池交換ステーション「GoStation」

このほかインドでも、サンモビリティ(Sun Mobility)社が二輪車や三輪車向けのEV電池シェアリング事業を営んでいる。台湾のゴゴロがスクーターと電池の両方を提供しているのに対して同社は電池に特化することで事業を広く拡大させており、電池や充電システムの最新技術を開発している。

サンモビリティ社電池交換ステーション「Quick Interchange Station」

四輪車でのバッテリーシェアは成功するか

これらの事例を通して分かることは、電動車の電池交換そのものには需要があり、交換コストが低い二輪車や三輪車では事業化の可能性はあるものの、自家用の四輪車ではそれが採算に合わない、ということである。加えて電池が統一されると車の性能やデザインの差別化が難しくなり、自動車メーカー各社の優位性が大きく崩れてしまうので、その意味でも自家用車EV電池のシェアリングは普及しないだろう。

ただし今回、中国では国の方針に沿って政府系EVメーカーが電池交換スタンドを既に設置したほか、自社製のEV以外でも電池交換が可能なように設計したモデルを発売するため、世界で初めて四輪車の電池シェアリングが定着するかもしれない。
そして仮にこのタイプのEVが中国で主流になってくると、日欧米の自動車メーカーは中国市場のために全く違った仕様の車を開発しなければならなくなるかもしれない。事態の推移を注視したい。

プロフィール

大野嘉久(おおの よしひさ)

経済産業省、NEDO、総合電機メーカー、石油化学品メーカーなどを経て国連・世界銀行のエネルギー組織GVEPの日本代表となったのち、日本サスティナブル・エナジー株式会社 代表取締役、認定NPO法人 ファーストアクセス(http://www.hydro-net.org/)理事長、一般財団法人 日本エネルギー経済研究所元客員研究員。東大院卒。


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