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コロナ危機でドイツの電力消費量が減少

コロナ危機でドイツの電力消費量が減少

2020年04月28日

激動する欧州エネルギー市場・最前線からの報告 第21回

新型コロナウイルスによる都市封鎖の影響は電力消費量にも及んでいる。工場が稼働しなくなり事業所の電力は低下し、テレワークなどの家庭の電力消費が上がっている。ドイツにおけるコロナと電力消費量の相関から、経済と感染症との難しいかじ取りはこの先どうなるのか。ドイツ在住のジャーナリスト、熊谷徹氏がレポートする。

製造業界の生産停止が最大の要因

新型コロナウイルスの影響で、ドイツなど欧州諸国の電力消費量が大幅に減っていることが明らかになった。
ドイツ連邦エネルギー水道事業連合会(BDEW)が4月2日に発表した統計によると、今年の第13週(2020年3月23日~29日)の電力消費量は、その3週間前、つまり第10週(3月2日~8日)に比べて7.4%少なかった。
また第14週の前半(3月30日~4月1日)の電力消費量は、第10週の前半に比べて8.7%減少した*1

ドイツ電力消費量の推移 BDEWの資料より

BDEWは、「消費量が減った最大の理由は、製造業界の大半の生産活動がストップしているため」と推定している。ドイツでは3月16日に劇場、コンサートホール、酒場が閉鎖された他、3月23日以降、食料の調達、通院、テレワークが不可能な仕事を除く不要不急の外出が法律で禁止された。食料品店や薬局、銀行を除く商店、レストランの営業(テイクアウトは可)も禁止されている。

3月中旬には、政府が企業に対してテレワークの実施を要請。フォルクスワーゲン、ダイムラー、BMWなどの自動車メーカーでも生産活動をストップさせた。その理由は、工場で働く従業員の感染リスクを減らすことだけではなく、各国が国境を閉鎖したために、サプライチェーンが分断され、外国のメーカーからの部品調達が困難になったということもある。

ドイツ商工会議所(DIHK)が4月3日に発表したアンケート結果によると、ドイツの企業・事業所の43%で業務が完全に停止している。飲食店の91%、旅行関連企業の82%が全く営業していない*2

*1 BDEW:Täglicher Stromverbrauch in Mrd. kWh
*2 DIHK:Wansleben: Reise- und Gastgewerbe existenziell bedroht

テレワークにより家庭での消費量は増加?

つまり多くの工場や商店、飲食店が事実上の休業状態となったために、電力消費量が大幅に減ったのだ。
一方、BDEWは「ロックダウンによって家庭での電力消費量は増えたはずだ」と推定する。その理由は、3月中旬以降、多くのドイツ企業が社員の感染リスクを減らすために、テレワークを行っているからだ。ドイツ経済研究所(DIW)によると、2019年の時点ではドイツ企業の40%がテレワークを実施するためのインフラを整えていた*3

在宅勤務を行っている企業は、特にIT業界や金融サービス部門に多い。ドイツIT・通信・ニューメディア連合会(BITKOM)が4月3日に発表したアンケートによると、IT企業の89%が社員にテレワークを行うよう勧告し、3分の2の企業がテレワークを命じている。また回答企業の95%が、「社員や顧客とミーティングを行う代わりに、スカイプやビデオ会議を使っている」と答えている*4

このため、コロナ危機による在宅勤務で、自宅でPCを使う会社員が増加し、家庭での電力消費量が増えた可能性が強い。

*3 DIW:Home-Office: Nicht in der Bequemlichkeit verharren: Kommentar
*4 bitkom:Digitale Wirtschaft schickt ihre Mitarbeiter flächendeckend ins Homeoffice

事業所の消費減が、家庭での消費増を上回った

また外出制限令によって、自由時間の娯楽も大きく変化した。映画館や劇場、レストラン、コンサートホールなどは閉鎖されているので、夕方から夜にかけて外出する人は激減した。ドイツの国立感染症研究所であるロベルト・コッホ研究所(RKI)によると、外出制限令の施行からの半月で、ドイツ人の移動量は約40%減った。このため余暇の時間に自宅でテレビを見たり、ストリーミングで配信される映画や音楽を楽しんだり、テレビゲームで遊んだりする人が増えた。これも、家庭での電力消費量の増加につながっているはずである。

だがBDEWは、「家庭での電力消費量の増加幅よりも、事業所での電力消費量の減少幅が大きかったために、全体としてみるとドイツの電力消費量が減った」と推定している*5。このことから、工場での生産停止や飲食店の営業禁止など、企業活動の凍結が、電力消費をいかに大きく減らしたかが感じられる。

*5 BDEW:Corona-Krise: 8,7 Prozent weniger Strom…

ドイツの消費減は他の欧州諸国よりも小さい

だがドイツの電力消費量の減少幅は、他の欧州諸国に比べるとまだ小さい方だ。BDEWの統計によって第12週(3月16日~22日)の、第10週に対する電力消費量の減少幅を比べてみた。ドイツでは電力消費量は5%減ったが、フランスでは15%、イタリアでは13%、スペインでは7%といずれもドイツを上回っている。

また第14週の前半(3月30日~4月1日)の各国の電力消費量を、第10週の前半と比べると、その減少幅の格差がさらに明瞭になる。フランスの減少幅はドイツの約2倍、イタリアは約3倍となっている。ドイツの消費量の減少率は、調査の対象となった8ヶ国の中で、最も低くなっている。

資料 BDEW

イタリア・フランスの甚大な被害を反映

この格差の理由は、フランス、イタリア、スペインでのコロナ危機による被害が、ドイツよりも深刻だったからである。これらの国々では、感染者数と死者数がドイツを大きく上回っていたため、政府はドイツよりも厳しいロックダウンを実施せざるを得なかった。

たとえばイタリア政府は、食品・薬品製造など生活必需品に関わる産業を除き、全ての企業・工場の営業や操業を禁じている。これに対しドイツでは、食品や製薬以外の部門でも、細々とながら生産活動は続いている。たとえば一部の機械メーカーは、出社する社員数を大幅に減らし、感染リスクを抑えながら生産活動を続けている。

米国ジョンズ・ホプキンズ大学の統計を見ると、4月24日時点でドイツの人口10万人あたりの死者数が他の欧州諸国に比べて大幅に低いことがわかる。

資料=ジョンズ・ホプキンス大学

ドイツ、ロックダウンを一部緩和

ドイツの経済界や学界からは、ロックダウン緩和を求める声が強まっている。日本経団連に相当するドイツ産業連盟(BDI)は、「シャットダウンが6週間続いた場合、今年のドイツの国内総生産(GDP)は3~6%減る」と予測。またミュンヘンのIfo経済研究所は、「経済活動の封鎖が3ヶ月続いた場合、ドイツの今年のGDPは最大20.6%減り、経済損害は3,540~7,290億ユーロ(42兆4,800億~87兆4,800億円・1ユーロ=120円換算)に及ぶ。失業者数は180万人増加する」という悲観的な予測を発表している。

ホテル・飲食業連合会(Dehoga)は4月19日に発表した声明の中で、「4月末までに、我々の業界では100億ユーロ(1兆2,000億円)の売上額が失われる。このままでは、会員企業の3分の1に相当する約7万の企業や飲食店が倒産するだろう」と警告している*6

このためメルケル首相は、4月15日の記者会見で「外出・接触制限令は少なくとも5月3日まで続けるが、ロックダウンを部分的に緩和する」という方針を明らかにした。引き続き市民はお互いに最低1.5メートルの距離を取ることを求められる。また大半の州政府は、商店と公共交通機関の中でマスク着用を義務付けた。

政府は4月20日から、売り場面積が800㎡未満の商店の営業を許可した他、学校についても5月4日から部分的に授業の再開を認める。自動車や自転車の販売店、書店は売り場の面積にかかわらず、営業を許された。

ただしサッカーの試合など多数の市民が集まるイベントについては、少なくとも8月末まで禁止される他、レストランや酒場、喫茶店の営業も、テイクアウトを除いて禁じられる。教会などの宗教施設やコンサートホール、劇場、クラブ、ディスコ、ホテルなどについても閉鎖措置が継続される。政府は企業に対しても、テレワークを続けるよう求めている。

フォルクスワーゲンなどの自動車メーカーも、5月以降部分的に生産を再開する方針を明らかにしている。このため、ドイツでは5月以降、3・4月に比べると電力消費量が増加する可能性が強い。

*6 SPIEGEL Wirtschaft:70.000 Hotel- und Gastronomiebetrieben droht offenbar die Insolvenz

生命保護と経済維持のジレンマ

ただしウイルス学者たちは、「新型コロナウイルスの流行は、まだ初期段階にある」として、外出制限措置を慌てて緩和しないよう警告している。RKIのロター・ヴィーラー所長は、「このパンデミックは2年間続き、ドイツ市民の60~70%が感染する。ドイツでもイタリアのような事態が起こる可能性は否定できない」と警告している*7。他、秋には新型肺炎の第二波がやって来ると予想する学者もいる。

パンデミックの怖い点は、感染拡大を抑えようとすると景気が悪化し、企業活動をあまり早く再開させると、再び感染リスクが高まるというジレンマである。

つまりメルケル政権は、国民の生命を保護しながら、景気後退の深刻化をも回避するという難しい舵取りを迫られている。ドイツ人たちは、この難題に対してどのような解決方法を見出すだろうか?

*7 F.A.Z. :Corona-Pandemie könnte zwei Jahre dauern

熊谷徹
熊谷徹

1959年東京生まれ。早稲田大学政経学部卒業後、NHKに入局。ワシントン支局勤務中に、ベルリンの壁崩壊、米ソ首脳会談などを取材。1990年からはフリージャーナリストとし てドイツ・ミュンヘン市に在住。過去との対決、統一後のドイツの変化、欧州の政治・経済統合、安全保障問題、エネルギー・環境問題を中心に取材、執筆を続けている。著書に「ドイツの憂鬱」、「新生ドイツの挑戦」(丸善ライブラリー)、「イスラエルがすごい」、「あっぱれ技術大国ドイツ」、「ドイツ病に学べ」、「住まなきゃわからないドイツ」、「顔のない男・東ドイツ最強スパイの栄光と挫折」(新潮社)、「なぜメルケルは『転向』したのか・ドイツ原子力40年戦争の真実」、「ドイツ中興の祖・ゲアハルト・シュレーダー」(日経BP)、「偽りの帝国・VW排ガス不正事件の闇」(文藝春秋)、「日本の製造業はIoT先進国ドイツに学べ」(洋泉社)「脱原発を決めたドイツの挑戦」(角川SSC新書)「5時に帰るドイツ人、5時から頑張る日本人」(SB新書)など多数。「ドイツは過去とどう向き合ってきたか」(高文研)で2007年度平和・協同ジャーナリ ズム奨励賞受賞。 ホームページ: http://www.tkumagai.de メールアドレス:Box_2@tkumagai.de Twitter:https://twitter.com/ToruKumagai
 Facebook:https://www.facebook.com/toru.kumagai.92/ ミクシーでも実名で記事を公開中。

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