英国では2020/21年冬において、風力出力が例年より低い状況が続き、また寒波による需要上昇も相まって電力市場価格が高騰した。1月下旬より市場価格は落ち着きを見せたものの、ガス価格の上昇を受けて再び電力市場価格も4月頃より上昇、9月に入って更なる急上昇を見せた(図2参照)。
2021年に入って1月に2社、8月に1社のエネルギー小売事業者が事業撤退したが、9月7日以降事業者の撤退が相次ぎ、冒頭に述べた通り、本稿執筆時点(10月28日)では夏以降14社のエネルギー小売事業者が事業停止に追い込まれている。いずれもその調達をスポット市場に頼り、中長期のヘッジ策を講じていなかった事業者とみられている。
政府は当初静観の構えであったが、9月9日(木)にインバランス価格が過去最高のGBP4,037.80/MWh(日本円換算で632.81/kWh)を、9月15日(水)に前日市場価格がGBP2,500.01/MWh(同391.87/kWh)を記録してから、所管官庁のビジネス・エネルギー・産業戦略省(以下、BEIS)やガス・電力市場規制庁(以下、Ofgem)は対策を迫られた。
図2 2016年以降のN2EX前日市場における月平均価格推移
20日にクワシ・クワーテングBEIS(ビジネス・エネルギー・産業戦略)大臣はエネルギー小売事業者と面談し意見交換を行ったほか、ノルウェーのティナ・ブルー石油エネルギー大臣と電話会談を行い、10月1日からノルウェーのガス・天然ガス企業Equinorの英国向けガス供給の増量について合意した。また、同日クワーテングBEIS相は庶民院(下院)本会議場で閣僚声明演説を行い、以下の点を強調した。
その上で、ガスに依存するリスクが明らかになったとし、更なる非化石電源導入拡大の必要性について触れ、原子力発電所建設について触れた(実際、10月下旬にCGN(中国広核集団公司)の排除を条件にSizewell C原子力発電所建設計画に対するRABモデル(規制資産ベースモデル、総括原価に基づく売電価格の設定)のスキームが承認された)。
尚、筆者はこの9月20日の庶民院本会議をWebで傍聴したが、本議題の一つ前の議題である防衛問題(特に中国の対外膨張政策・戦狼外交に対する英国の対応策や豪州の原子力潜水艦導入問題)についての口頭質問では大変に紛糾していたが、本議題ではBEIS相に対する野次はほとんどなかった。
労働党はシャドー・キャビネットBEIS相のエド・ミリバンド庶民院議員(以下、MP)が質疑に立ったが、国民生活が危機に直面している点を問いただし、Covid-19ロックダウンのタイミングから料金支払い延期措置により小売事業者の財務基盤が著しく悪化していた事実を指摘した上で、政府が小売事業者の経営状況のチェックを怠っていなかったか質問したに留まり、野党の追及もそれほど激しいものではなかった。
22日に庶民院で開催されたPMQs(首相への公開質疑)においても質疑に立った労働党シャドー・キャビネット ランカスター公領大臣のアンジェラ・レイナーMPも国民生活への影響を問いただしたにとどまった。
尚、英国では9月下旬より風力出力が戻り、市場価格は高止まりしているものの、極端なスパイクは減少した。クワーテングBEIS相は10月中旬にMet Office(気象庁)のブリーフィングを受け、メディアに対して今冬の風況は比較的強い傾向にあるとコメントした。
労働党ミリバンドMPはこれに対し、Price Cap上昇により需要家への経済的打撃が深刻化している点を指摘した上で、エネルギー安全保障を軽視したエネルギー政策を採ってきた保守党政権を厳しく批判、「BEIS大臣は天気予報士ではなく、国民生活を守る役割である」「政府のエネルギー政策が最低ラインまで落ち込んだことを指し示している。BEIS大臣は暖冬を祈っているが、保守党政権10年間のエネルギー政策によって安定供給がどれほど損なわれたかを示しているものである」とコメントしている。
いずれにせよ、野党の主張は小売事業者救済を求めるものではなく、政府外からは安定供給と国民生活への影響を抑える声が高まっていると言えよう。
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