ここでPrice Capについて説明したい。Price Capは2017年にテリーザ・メイ内閣が導入した制度である。英国には日本の経過措置料金に該当する料金が存在しない。このため、電気料金が青天井になるリスクがあり、小売事業者の最も高い料金メニューに需要家の年間支払額の上限価格を政府主導で課す仕組みである。2017年から段階的に導入され、多くの需要家が利用している標準変動型メニューに対しては2019年1月1日より適用された。
Price Capは2015年総選挙で、当時労働党党首だったミリバンドMPが提案した制度であったが、総選挙で勝利を収め、政権を維持した保守党デービッド・キャメロン政権は導入を見送った。ところが、2017年に実施された総選挙で保守党はマニフェストにPrice Cap導入を記載し、労働党から「政策を盗んだ」と批判されながらも導入した経緯がある。
さて、Price Capは4月と10月の年2回更新される仕組みであることから、機動性の観点で大きなハンディキャップを抱えている。半年間に市場価格の大幅な変動があった場合、小売事業者は超過利潤若しくは巨額の損失を抱えてしまう。この観点では、日本の燃料費調整制度は大変優秀な制度であると言えるだろう。
英国では一定数の需要家が前払い料金メニューを契約している。小売事業者が破綻した場合、当該小売事業者と契約していた需要家は既に料金を支払い済みにも関わらず、契約期間満了まで契約が続けられない状態に陥る。小売事業者の破綻に伴う需要家への電力供給を保証する制度として、英国ではSoLR(最終保証)制度が設けられている。
小売事業者が経営破綻すると、Ofgemは当該小売事業者の小売ライセンスを剥奪した上でSoLRの対象となる小売事業者を指名する。SoLR対象となった小売事業者は需要家に対して電力供給を行う義務を負い、可能であれば前払い料金対象の需要家の残高を保証する必要があるため、財務基盤が強固である大手事業者が指名される(近年ではCentrica、E.ON、EDF、Octopus Energy、Ovo、Shell Energy、Scottish Powerが指名されることが多い)。
近年、旧Big6だけでなく、OvoやOctopus Energyのような新規参入事業者を含めた大手小売事業者への寡占化が進んでいる背景には、SoLRの指名プロセスが大きく影響しているものと考えられる。
しかしながら、足元の価格上昇局面において大手小売事業者も非常に厳しい経営環境に直面している。Price Capにより機動的な価格転嫁が封じられており、かつSoLRに指名されることにより想定より需要が増大することから、スポット調達(スポット市場からの市場価格による調達)に頼らざるを得ないポジションが増加する。大手小売事業者もこれ以上のSoLR引き受けに難色を示している。
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