オクトパスエナジー 「ビッグ6」に迫る再エネ新興勢力 | EnergyShift

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オクトパスエナジー 「ビッグ6」に迫る再エネ新興勢力

オクトパスエナジー 「ビッグ6」に迫る再エネ新興勢力

2020年11月25日

シリーズ "イケてる"英国の電力会社 その1

英国は電力自由化以降、2000年代までは「ビッグ6」と呼ばれる大手6社が独占していた。だがこの10年間、新規参入の小売電気事業者が台頭し、大手6社のシェアは9割を切っている。新規参入者の魅力は、料金ではなくサービスだ。再エネ100%の電力で顧客を伸ばすOctopus Energyは、シンプルな契約と透明性を武器に英国市場で存在感を増している。

急拡大する再エネ100%の電力会社

英国の電力小売自由化は1990年から段階的に実施され、1999年には一般家庭を含むすべての需要家が電力会社を選択できるようになった。現在は、自由化の初期に生まれた「ビッグ6」と呼ばれる大手電力会社6社がシェアの9割を占めている。「ビッグ6」とは、英国資本のBritish Gas(Centrica)とScottish and Southern Energy(SSE)、ドイツ資本のE.ONとNpower、スペインのIberdrolaの子会社となったScottish Power、そしてフランス資本のEDF Energyの6社だ。

そこに最近になり、新たな小規模の電力会社の台頭が目覚ましくなってきた。今回はその中から、2016年に電力市場に参入し再エネ由来の電力を販売する「Octopus Energy」を紹介する。

Octopus Energyは、太陽光発電をベースとした再生可能エネルギーの電力を約150万世帯に供給しており、市場シェアは5%を超えている。電源の調達は、2000年に設立のOctopus Group傘下で、同グループのOctopus Investmentsが管理する電源などだ。Octopus Investmentsは英国最大級の再エネ投資企業でもある。

2018年2月には、Octopus Energyは日産自動車らとともに、2,700台のEVを活用したV2G(Vehicle to Grid)実証実験に参加 。2019年12月にはロンドンの自治体新電力「London Power」の事業パートナーとなった。さらに2020年1月には、フランスENGIEの英国内の顧客7万軒を買収によって獲得している

オクトパスエナジーの価格競争力は?

Octopus Energyは、電気だけではなくガスも提供している。では、どのような料金メニューを提供しているのか?

料金そのものは、卸電力・ガス市場に連動した形で提供している。したがって、料金メニュー別の単価は開示されていない。メニューごとに更新頻度は異なるが、月単位や年単位で料金単価は変わっている。その上で、料金の支払い方法やサービスについて、いくつかのメニューがある。

代表的な料金メニューは、次の3つがある。
料金が12ヶ月間固定される「Octopus 12M Fixed」、電力卸取引所の価格に応じて時々変動する「Flexible Octopus」、そしてガスでもCO2をオフセットできる「Super Green Octopus」だ。加えて「Octopus Tracker」という同社オリジナルのシステムによる卸価格に応じて毎日変動するメニューがある(後述)。

いずれも日本にはないユニークな料金メニューだ。

メニュー名Super Green OctopusOctopus 12M FixedFlexible OctopusOctopus Trackerサービス利用
再エネ比率100%100%100%100%
特徴ガスのCO2排出量をオフセット12ヶ月固定料金卸価格による変動料金(30日前通知)卸価格による変動料金(毎日変動)
月額*£80.64(約11,128円)£78.86(約10,882円)£80.13(約11,057円)£68.79(約9,493円)


(Octopus Energyウェブサイトをもとに筆者作成 月額は参考)

それぞれの料金メニューについては、ウェブサイトでは見積を簡単にとることができる。

筆者は実際に、ロンドンの一般的な家庭を想定した条件で電気とガスの見積をとってみた。3~5人構成、年間の電気使用量が2,900kWh、ガス使用量が12,000kWhという条件だ。

Octopus Trackerを利用すると、月額68.79ポンド(約9,493円、1ポンド=138円換算、以下同)、年間で825.43ポンド(約11万3,909円)となった。ビッグ6の平均的なメニューより26%安い年間222.48ポンド(約3万702円)の節約となり、CO2の排出削減量は年間574kgだ(2020年11月18日現在)。

また、他の料金メニューでは、「Super Green Octopus」で月額80.64ポンド(約1万1,128円)、「Octopus 12M Fixed」で同78.86ポンド(約1万882円)、「Flexible Octopus」で同80.13ポンド(約1万1,057円)だった。


(出典:Octopus Energyウェブサイト)

「公平性と透明性」が信条

「Octopus Tracker」と「Agile Octopus」という2つのサービスには、同社の考え方がわかりやすく表現されている。

2017年にスタートした「Octopus Tracker」は、電力卸取引所の価格に追従するシステムだ。価格は毎日更新され、ビッグ6の平均的な料金よりも安く提供できる。同社イチ押しのシステムで、他の3つの料金メニューとは異なった位置づけがされていることが見積画面からも見て取れる。

アプリとしても提供されているため、スマートフォン上で電力料金の確認や比較ができる。毎日の卸電力・ガス市場に連動した電気料金をリアルタイムでチェックできる上に、ビッグ6の平均的な変動料金と比較した削減額も確認できる。さらに、電源コストや送配電コストなどの電力料金の内訳や、向こう1年間の電気料金の予測シミュレーションも見ることができる。

こうしたサービスを通じて提供されるエネルギー料金は、Octopus Energyによると「イギリスで最も公正なエネルギー料金」だという。

「Octopus Tracker」デモ画面(出典:Octopus Energyウェブサイト)

「Agile Octopus」は、電力卸市場がスパイクするタイミングを避けピークシフトを促すためのサービスで、2018年にローンチされた。スマートメーターの設置が必須となるが、卸市場の価格が急落し、マイナスの料金(電気を使うとお金がもらえる)になると、アラートで知らせてくれる。また、「price cap protect」という上限価格が設定され、需要家の電力単価が35ペンス/kWh(約48円)より高くなることはない。

このサービスを利用することで、英国の典型的な家庭では年間約210ポンド(約2万8,980円)、ピークシフトを行うことでさらに120ポンド(約1万6,560円)を節約できるという。

これらの2つのサービスが示す通り、Octopus Energyが重視しているのは電力料金の公平性と透明性(fair and transparent)だ。同社の契約には契約期間の縛りや解約違約金がなく、いつでも解約できることがセールスポイントのひとつだ。英消費者団体『Which?』 から3年連続で推薦された唯一の電力会社である点にも注目したい。

EV向けダイナミックプライシングやP2Pサービスも展開

電気自動車向けとして、「Octopus Go」というメニューも展開している。毎晩0時30分から4時30分の間の電気料金を格安の5ペンス/kWh(約6.9円)で提供する。

前述のV2Gの実証だが、こちらは実証試験に参加する世帯に、日産リーフを月額およそ250ポンド、V2Gが可能な充電器を無料で貸与した上で、電気料金も毎月30ポンド割り引く。電気自動車は午後4時から午後7時という電力のピーク時に放電し、需給を緩和することになる。


Octopus Energyのヴァンに乗るボリス・ジョンソン英首相

また、住宅用太陽光発電や蓄電池ユーザー向けのメニューである「Outgoing Octopus 」は、電力のP2P取引だ。固定制と変動制があり、固定制では5.5ペンス/kWh(約7.6円)で売電できる。Amazon AlexaなどのAIアシスタントやIFTTT(イフト)というWeb連携サービスなどと組み合わせることで、スマートグリッドの世界が実現する。

このように、Octopus Energyは再生可能エネルギー100%というだけではなく、顧客にとっても透明性で公正なサービスを提供し、将来に向けたサービスの開発もすすめている。

環境問題に積極的な英スーパーマーケット、Marks & Spencerの子会社であるM&S Energyは、供給元を変更し、現在はOctopus Energyの電気を自社ブランドで販売している。

この他、プロサッカーチームのアーセナルFCと提携し、サッカーファンにも再生可能エネルギーや環境問題にも関心を持ってもらうような取り組みを行っている。日本では湘南電力と湘南ベルマーレの組み合わせが知られているが、サッカー大国の英国でも、同じような取り組みがなされているという。

Octopus Energy


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山下幸恵
山下幸恵

大手電力グループにて大型変圧器・住宅電化機器の販売を経て、新電力でデマンドレスポンスやエネルギーソリューションに従事。自治体および大手商社と協力し、地域新電力の立ち上げを経験。 2019年より独立してoffice SOTOを設立。エネルギーに関する国内外のトピックスについて複数のメディアで執筆するほか、自治体に向けた電力調達のソリューションや企業のテクニカル・デューデリジェンス調査等を実施。また、気候変動や地球温暖化、省エネについてのセミナーも行っている。 office SOTO 代表 https://www.facebook.com/Office-SOTO-589944674824780

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