村田製作所 電子部品で脱炭素、注目は全固体電池 -シリーズ・脱炭素企業を分析する(14) | EnergyShift

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村田製作所 電子部品で脱炭素、注目は全固体電池 -シリーズ・脱炭素企業を分析する(14)

村田製作所 電子部品で脱炭素、注目は全固体電池 -シリーズ・脱炭素企業を分析する(14)

「脱炭素企業分析」シリーズ、第14回は、全固体電池でも注目される、村田製作所を紹介する。同社にはどのような文化・DNAがあるのか、そうした点にも注目していきたい。

エナシフTV「脱炭素企業分析」シリーズ

2016年の倍、高値維持の株価と業績

村田製作所の株価は、2020年10月ごろに急伸してから高値を維持している。2016年頃の株価と比べて倍以上の高値となっており、2013年頃の株価と比較すると実に6倍以上の値段がついている。

同社の株価が上昇している要因は、単純に売上が増加している点にある。コンデンサなどやスマホ、自動車等に多く使用される電子機器。その電子機器に必要な部品のメーカーが村田製作所であることから、電子機器の需要が高まれば高まるほど、村田製作所の売上も増加していく。さらに、直近では、2021年6月に開発中の全固体電池が産業用として採用されたことを発表しており、この新技術への期待の高まりも反映されている。

電子部品等の売上や市場は今後、減少するどころか、ますます拡大していく分野なので、村田製作所の今後には期待ができる。

全体の売上のうち、海外での売上が実に9割を占めており、部品によっては世界の市場において村田製作所がシェアの5割以上を占める製品も扱っている。


村田製作所ウェブサイトより

村田製作所の創業は製陶所から

村田製作所の将来を考える上で、創業のストーリーを確認しておくことは欠かせない。以下、簡単に紹介しておく。


村田製作所ウェブサイトより

村田製作所の創業は1944年。当時は創業者である村田昭の実家である村田製陶所としてスタートする。村田氏は結核で学校を中退後、実家の売上増大を目指し焼物だけの取扱いから脱却、コンデンサなど特殊窯業製品の製造に着手していく。

20歳になった時に家業を継ぎ、23歳のときに村田製作所を設立する。

1950年に法人化した後は、焼き物にとって大事な豊穣な土を求め、福井県に工場を設立。コンデンサなど特殊窯業製品と電子部品、この二つには全く接点がないように思われるが、セラミックスも実は陶器である。

こうしたセラミックスの製造技術をもとに村田製作所は大きく成長していくこととなる。1955年にはトランジスタラジオ用のセラミックフィルタを製造した。

1960年代にはカラーテレビ、1970年代にはオーディオビジュアル機器、1980年代にはパソコンを製造。1990年代になると携帯電話の小型化に貢献し、2000年代にはパソコンの高速化に寄与、2010年代からはスマートフォンの時代、2020年代には5Gと自動車の電装化など、それぞれの時代を彩った新製品と共に村田製作所が成長していることが沿革だけでも読み取れる。

村田製作所と脱炭素


村田製作所ウェブサイトより

上図は村田製作所の事業所全体から排出される温室効果ガスの排出の割合を示したものである(スコープ1、2)。

村田製作所は2020年2月にSBT(Science Based Targets、科学と整合した目標設定)にコミットし、同年12月にはRE100に加盟。2050年までに自社で使用する電気を再エネ100%にすることを目標に掲げている。そのほか、TCFDにも対応した経営を村田製作所は行っている。

セラミックコンデンサは製造にあたって、電熱器を使用しており、結果として大量の電力を使用してしまう。すなわち、現状ではCO2も多く排出されてしまうということになる。このCO2の削減が、事業所におけるCO2削減の非常に大きな課題だ。

では、実際のCO2排出量はどうなっているのか。


村田製作所ウェブサイトより

 

村田製作所全体の生産量は増加し続けているが、GHG(温室効果ガス)総排出量は2018年をピークにやや減少傾向にある。とはいえ、GHG総排出量の下げ幅を考えると、現状の数値では物足りないと感じられる。さらなる削減のためにどう行動するかが重要となってくるだろう。

現在、国内外の10拠点で再エネの導入を行っている。代表的な事例を紹介する。


和歌山県の岡山村田製作所の工場

村田製作所は、和歌山県の岡山に1,700台分の駐車場型太陽光発電を設置、出力は3.7MWでCO2の削減効果は年間2,300tを見込んでいる。また、海外ではタイの工場屋根に4.5MWの太陽光発電を設置したケースもある。

製品を通じたCO2削減

製造業である村田製作所が脱炭素していくには、自社製品を通じてCO2削減をしていくことは、より重要だ。例えば、製品を小型化することで、製品に使用する部材を削減し、製品の輸送コストの削減が見込める。同時に、製品に使用する部品の高性能化も重要だ。部品が高性能になれば、不要な部品を省いたりすることで電子機器自身の部品数なども削減できるだろう。

このようにして、部品が小型化、高性能化になればなるほど、製造工程自体でのロスは減っていく。ロスが減ることで省エネルギー効果も見込まれるし、何より生みだす製品の省エネにつながっていく。

また、製品の長寿命化や、機器の耐久性上昇によって生産から廃棄までのサイクルを長くすることも重要だ。一つの製品を長いサイクルで使用できれば、新しく製品を作るといったロスもCO2も減らしていくことができる。

一方、村田製作所はグリーン調達にも取り組んでいる。グリーン調達に取り組む村田製作所にとっては、調達する部品一つをとっても、きちんと環境に配慮した部品を調達してくることが重要となる。極論を言えば、環境に配慮していない商品を村田製作所は買わない、という思いきった選択をすることも大事だろう。

こうした中、村田製作所では全固体蓄電池を開発し、産業用として供給していくことを、2021年6月に発表した。全固体蓄電池は、一般的なリチウムイオン蓄電池と比較して、同じ容積で蓄えられる電力量がおよそ100倍で、高温下でも作動することが特徴だ。今回は、特殊な条件下で使用する小型の蓄電池として供給を開始したということだが、今後は価格の低下と大型化を進めることが必要となってくる。

海外の売上比率の高い村田製作所にとっては脱炭素は死活問題

売上における海外比率が9割の村田製作所にとって、環境対策や脱炭素への取り組みは最重要課題であると同時に死活問題となる。というのも、世界が大企業に求める環境意識の高さは日本国内より海外のほうがずっと厳しいからだ。

近い将来、CO2削減に取り組んでいないとみなされた国からの製品に対して、輸入国が関税を課す、国境炭素税という制度は欧米で導入が検討されている。つまり、村田製作所自身がCO2削減を実現していかないと、輸出において大きなハンデを背負うことにもなりかねない。

また、村田製作所自身がCO2削減に取り組むことはもちろん大事だが、顧客が抱える脱炭素への課題を解決していくことも求められる。この二つの大原則をもとに、どれだけのCO2を今後削減できるかが村田製作所の未来を大きく左右する局面を今まさに迎えている

(Text=MASA)

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もとさん(本橋恵一)
もとさん(本橋恵一)

環境エネルギージャーナリスト エネルギー専門誌「エネルギーフォーラム」記者として、電力自由化、原子力、気候変動、再生可能エネルギー、エネルギー政策などを取材。 その後フリーランスとして活動した後、現在はEnergy Shift編集マネージャー。 著書に「電力・ガス業界の動向とカラクリがよーくわかる本」(秀和システム)など https://www.shuwasystem.co.jp/book/9784798064949.html

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