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カーボンプライシングの導入進捗を世界銀行が報告 だれが負担するのかがEUでも議論に 日本も無関係ではいられない

カーボンプライシングの導入進捗を世界銀行が報告 だれが負担するのかがEUでも議論に 日本も無関係ではいられない

5月25日、世界銀行はカーボンプライシングに関する最新の報告書を公開した。報告書によると世界でカーボンプライシングの導入は進んでいるが、パリ協定達成に寄与するにはまだ遠い。世界銀行はさらなる導入を呼びかけるが、国境炭素税や税負担の課題もでてきている。

カーボンプライシング導入国は増加 排出権取引は高騰

世界銀行が発表したのは「カーボンプライシングの現状と動向 2021年(State & Trends of Carbon Pricing 2021)」。各国の導入動向をまとめたものだ。この報告書によると、カーボンプライシングを導入している国、または地域は64。

いわゆるカーボンプライシング制度には、大きく炭素税と排出権取引(排出量取引とも)の2種類がある。排出される炭素に課税される炭素税を導入しているのは35の国、または地域。企業に排出枠(キャップ)を設けて剰余分を取引できる排出権取引(ETS)を導入しているのは29の国または地域になる。10年前(合計して21)に比べて3倍になった(EU加盟国は炭素税と排出権取引の両方を導入している国も多い)。

カーボンプライス導入国(2021)


The World Bank. 2021. “State and Trends of Carbon Pricing 2021” (May), World Bank, Washington, DC. Doi: 10.1596/978-1-4648- 1728-1. License: Creative Commons Attribution CC BY 3.0 IGO

このカーボンプライシングのカバーする量は、世界の温室効果ガスの21.5%に及ぶ。特に2021年2月に中国で開始された国の排出権取引市場は発電事業者2,225社を対象としており、中国国内の排出量の30%、約4,000MトンCO2になる。この排出権取引市場は世界最大のものであり、世界のカーボンプライシングの取扱量を大きく引き上げた。

2020年の世界のカーボンプライシングの収益は530億米ドルにのぼった。前年比17%増だが、報告書ではまだそのポテンシャルを引きだせていないという。収入の増加は主にEUでの排出権価格の上昇によるものだ。この収益はEUグリーンディールと新型コロナウイルスからの回復にもつなげられるとしている。

EUの排出権価格は非常に高騰している。2020年は1トンあたり21ユーロだったのが、2020年末から上昇し、現在は55ユーロ前後と過去最高になる。これはつまり、企業が先を争って排出枠を買っていることを意味する。スイスも46ドル/トンと高い。

炭素税もかなりの開きがある。スウェーデンは137ドル/トン。スイスとリヒテンシュタイン101ドル、フィンランド73ドルと続く。

各国政府など官民で作られた「カーボンプライシング導入推進企業団体(Carbon Pricing Leadership Coalition・CPLC)」の炭素価格に関するハイレベル委員会によれば、炭素価格がパリ協定の目標達成に効果があるのは40ドル/トンから80ドルだとするが、世界銀行の報告書ではその価格は9の国や地域にとどまる。ちなみに日本は286円/トンが地球温暖化対策のための税(温対税)として設定されている。

カーボンプライス各国の金額(2021年)

The World Bank. 2021. “State and Trends of Carbon Pricing 2021” (May), World Bank, Washington, DC. Doi: 10.1596/978-1-4648- 1728-1. License: Creative Commons Attribution CC BY 3.0 IGO

排出権取引で儲けるのではなく、排出量そのものを減らすことを金融も求めている

報告書では今後、各国のカーボンニュートラル政策が加速するに従って排出枠取引の需要は増えていくだろうと予測している。それに伴って金融の関心も高まり、新しい金融商品になることも考えられる。

しかし報告書によると、排出権を金融商品化することのリスクも織り込まれてきており、金融セクターとしては排出権取引で儲けるのではなく、補完的な役割を果たすべきというコンセンサスが生まれていると報告書は述べている。つまり、企業は排出権取引でのネットゼロ(実質ゼロ)を目指すのではなく、実際に企業の排出量を削減しなければならないということだ。

これはスコープ1、スコープ2だけではなく、サプライチェーンを含むスコープ3にも適用されるため、排出権の購入で賄おうとすれば膨大になり続けるだけであることも理由としてある。

そこで各企業が導入し、日本でも注目を集めるのが内部炭素価格、インターナルカーボンプライシング(ICP)の設定だ。これは企業内での購買、設備導入、投資などに独自で炭素価格を設定し、企業の低炭素投資、対策を促すもので、日本でも導入済みは86社、2年以内に導入予定は79社と言われている(2019年 環境省資料より)。

世界銀行の報告書では、世界の時価総額順位上位500社のうち、約半数の企業がすでに社内で設定しているか、2年以内に導入するとしている。報告書ではこの内部炭素価格の導入はさらに進んでいくとしている。

それで、だれが払うんだ?

この報告書を受けて、6月1日の英フィナンシャルタイムズは「だれが払うんだ? 欧州の排出権に関する大胆な計画は政治的な反発を招く恐れがある」という特集記事を出した。記事によるとドイツでは今年1月からガソリン、ディーゼル、暖房用のオイル、ガスに対して、炭素1トン当たり25ユーロの税金を導入し、生活者に負担が増えているという。これは欧州全土にこれから拡大するだろうと見解を述べている。

その上で、2018年にフランスで起きた黄色いベスト運動(燃料価格高騰に端を発した)を引き合いに出し、ガソリンに頼らざるを得ない社会的弱者、貧困層から強い反発を起こすのではないかと指摘している。そのため、この逆進性を解決しないことにはカーボンプライシングは拡大しないのではないかとの論調だ。

記事の中でフランスの欧州議会議員であり、欧州議会の環境委員会のパスカル・カンフィ氏は「今のところ、欧州の炭素価格によって直接影響を受けるのは何百万人の市民ではなく数千社の企業になる」と述べている。EUが消費者への打撃を軽減しなければ、「最も貧しい家庭に大きな経済的ショックを与える恐れがある」とも述べた。

ドイツ消費者団体連盟の幹部は「ヨーロッパが大規模なカーボンプライシングへ移行するには最も被害を受ける家庭に直接補償する方法について、各国が真剣に話しあわなければならない」という。

この問題に対してロンドン経済大学の研究*では、時間をかけて炭素税を導入すること、炭素税の税収を低所得者層の負担軽減のために再分配することで解決できるとしている。また、炭素税の税収は炭素排出削減のための再エネへの切替えに活用することでも負担が減るという。つまり、CO2の少ない商品が安く買えるからだ。同じ電力でも再エネの方が安く手に入るような、政策デザインでこの消費者保護の問題を回避できるとしている。

*How to make carbon taxes more acceptable (Stefano Carattini, Maria Carvalho and Sam Fankhauser, December 2017)

国境炭素税は国際協調がカギ

もう一つの論点が国境炭素税だ。5月28日のブルームバーグによると、イギリスは国境炭素税の導入を検討しているという。マーティン・キャラナン英気候変動担当大臣はブルームバーグTVに出演。脱炭素の企業の取り組みは、製造段階で多くの炭素排出がある鉄鋼やアルミニウムなどの重工業を炭素税の低い海外に流出させる恐れがあると述べた。

国境炭素税は、気候変動対策が弱い国で、CO2排出が多くかかる輸入品に適用されるもの。炭素税のかかっている国とかかっていない国との産業の不均衡を正常にし、他国にも気候変動対策を促す目的のものだ。

EUは早ければ2023年から特定の物品にこの国境炭素税を導入するかどうかを検討しており、アメリカのバイデン政権も導入を検討している(バイデン米大統領は昨年の選挙時にこのアイデアを支持している)。

国境炭素税の導入は、気候変動対策を世界中の国に求めるものになる。以前からのアイデアではあったが、国際的な協調が必要だったので長らく実現は難しいのではといわれていたが、ついに機が熟したのかもしれない。


気候変動問題は国境を越える

日本も対岸の火事、ではいられない

日本のカーボンプライシングは地球温暖化対策税として炭素1トンあたり286円が課せられる。明示的ではない石油・石炭税なども含むといわゆる環境税はもっと高くなると国の資料ではしばしば言われる。だが、それが国際的な議論に通用するかどうか。実際に、今回の世界銀行の報告書では286円/トンとだけ記述されている。

日本の環境省ではカーボンプライシングの議論をおこなう「カーボンプライシングの活用に関する小委員会」を今年2月、1年半ぶりに再開した。国のカーボンニュートラル目標に向け、議論が活発になってきている。

EUの現在検討している排出権取引の拡大には国際航空便や海運を追加対象としている。現在はEU域内の航空便・海運が対象だが、域外への拡大も見据えており、そうなると日本の国際運輸旅客にも係わってくる。

なにより、グローバル企業にとっては前述のスコープ3も対象となるので、製造業のサプライチェーン構築にも影響が出るだろう。

カーボンプライシング、炭素税というと、国民負担に直結して考えがちだが、日本だけが回避できるものではなくなってきている。国民負担は政策デザインによって回避できるという前述の研究もあり、さらなる議論が日本にも求められることになる。

*EnergyShiftの「カーボンプライシング」関連記事はこちら

(Text:小森岳史)

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