新型コロナウイルスの感染拡大への対策として、多くの企業でテレワークが進んだ。そこで気になるのが、在宅による家庭の電気代だ。アイ・グリッド・ソリューションズでは契約者に対しテレワークと電気代に関するアンケート調査を実施。さらにその結果に合わせて、テレワークを支援する料金プランを提案する。ポストコロナ時代の電力ビジネスについて、アイ・グリッド・ソリューションズ常務取締役の秋田智一氏に話をおうかがいした。
お得な電気は夜から昼へシフト
― 御社では、「新型コロナ対策によるテレワークと電気代の関係性に関する調査」を実施し、結果を発表されました。全体の約半数が在宅時間増で、月平均1,700円増加したということです。最初に、この調査結果について、どのようにとらえているのか、お話しください。
秋田智一氏:我々が考えていたユーザーのテレワークの印象からすると、想定と大きくずれた結果ではなかったと思います。
ただ、注意しなくてはいけないのは、今回の調査が4月から5月、すなわち電力需要でいえば中間期での調査だったということです。
今後、夏になってくると、空調需要が増えてくるので、金額も大きくなってくると思います。
ですから、今回の調査で電気代に影響しているのは、テレビや照明などでしょう。いわゆる巣ごもり需要ということになります。
― 昼間の需要増に合わせて、電気料金メニューも影響を受けるのではないでしょうか。
秋田氏:一般世帯向けの「スマ電」料金プランで、「どーんと!夜得ホームプラン」というのがあります。これは共働き世帯を想定した、夜間を安くしたプランなのですが、こうした世帯は少なからず影響を受けると思います。
そこで、今回の調査結果を受けて、日中が割安になるようなプランを提供していきます。
我々の一般世帯向けの「スマ得ホームプラン」の場合、大手電力会社と同じ3段料金制になっています。1段目の安い価格帯はほぼ同じですが、2段目、3段目を安くすることで、使わなくても安いけれど、使うともっと安いという形になっています。日中ご家庭で過ごす時間が増えることで、電気使用量が増えてしまったとしてもお得なプランになっています。
実際にお客様の反応として、「夜得」から「ホームプラン」に移行する方は多少いらっしゃいます。
*スマ電:アイ・グリッド・ソリューションズの提供する家庭用電気プラン
テレワークで電気代・通信代を負担する企業も
―テレワークで電気料金の負担が増えるということは、個人だけの問題ではなく、法人の問題でもありますね。
秋田氏:確かに、テレワークに対する手当を支給する企業も出てきています。そうした意味では、企業の福利厚生に対応した、テレワークプランの提供も考えられると思います。
企業にとってもオフィスの賃貸料は高いですし、フリーアドレスのオフィスにして、一定の従業員を在宅勤務とすれば、オフィスコストを下げることができます。その分個人の電気代や通信代への負担にまわすということはあるでしょう。
新型コロナウイルスという脈絡ではありませんが、今後、生活スタイルが変わるので、電気の使い方も変わるということは、想定しています。
新型コロナ対策によるテレワークと電気代の関係性に関する調査 より― 法人の話が出たので、そちらに話を移します。新型コロナの影響は、電気事業にもありましたでしょうか。御社の場合、顧客にはスーパーマーケットも多く、他社とは状況が違うのではないかと思うのですが。
秋田氏:確かに商業施設は我々のお客様です。その中には飲食店も多く、電気代の支払いに猶予が必要なお客様もいます。新型コロナの影響で企業体力が消耗している中小企業も多いと思います。そのため、当社では現在新規でご契約いただいた中小企業様に対して、一ヶ月分の電気代を無料にするキャンペーンを実施しています。
スーパーマーケットは営業を継続していましたが、営業時間を短縮したり、パチンコ店のように休業したりしたお客様もいました。そのため、電力需要ということでは、高圧は約2割の需要減でしょうか。
低圧についても、一般家庭こそ需要は増えましたが、物販店や飲食店の需要が下がっていますから、全体としてはトントンといったところです。
気候変動への関心がPPA需要を高める
―法人に対しては、電力供給だけではなく、PPAやVPP(バーチャルパワープラント)といった事業も行っています。こうした事業についてはいかがでしょうか。
秋田氏:太陽光発電によるオフグリッド電力供給サービス(PPA)はおかげさまで順調に伸びています。スーパーを中心に、事業として市民権を得てきたと思います。
お客様に選んでもらえるのは、これまでは経済的メリットあってのことだと思います。
とはいえ、昨年はグレタ・トゥーンベリさんが話題になり、今年は海外で大規模な森林火災がありました。気候変動問題に対する意識は、日本は欧米より低いのが現状ですが、それでも意識する経営者は増えていると感じています。同時に、今回の新型コロナの感染拡大もしかり、自然災害時に、スーパーマーケットは人々の食と地域を支える重要なインフラだという認識が高まりました。レジリエンスとして、小売を止めないためには、今後は台風による災害があっても、一定量の電気が使えるようにするため、蓄電池との組み合わせに対するニーズが高まっています。
―しかし、業務用の蓄電池はまだ高いのではないでしょうか。
秋田氏:どの規模で蓄電池を入れるかにもよりますが、お客様の反応としては、電気の供給単価がそれまでと同等、ないし少し高いくらいであれば、蓄電池付きの料金メニューで納得いただけるようになってきました。
蓄電池を入れることで、太陽光発電の過積載分を充電できます。その分だけ、CO2が削減できるということにもなります。
今後、蓄電池の価格が安くなってくると、一般的なサービスになってくると思います。
VPPということであれば、PPAの余った電力を卸電力市場で販売することや、融通することなど、VPP連係ということができるようになるといいのではないでしょうか。
夏のテレワークによる空調需要増はスイッチングのチャンス
―コロナ危機後の電気事業ということになりますが、今後、どのような展開を考えているのでしょうか。
秋田氏:引き続き、家庭用には注力していきます。家庭用については単価がすべてではないので、差別化できると考えています。まだまだ試行錯誤が続くと思いますが。
タイミングとしては、この夏、テレワークで電気代が増えると思いますので、ここでの切り替えを促していきたいですし、関心も高まると思います。
―法人向けの事業はどうでしょうか。
秋田氏:PPAを含むVPPサービスと、『エナッジ』というエネルギーマネジメントシステムを通じて、我々の付加価値を提供していきます。
エナッジについては、関西電力と共同開発しており、引き続き関西電力と協力して事業展開を拡充していければと思います。
―VPPなど新しい事業を拡大していくにあたっては、政策面での課題などもあると思います。
秋田氏:PPAにおいて、近接する地点間での託送料金については、ご検討いただきたいと思います。お客様の事業所でのPPAからの余剰電力を他の事業所に自己託送するような場合です。今後、VPPをネットワーク化して運用する場合、近接での託送コストが高いとメリットが出ません。現状では、高速道路と一般道で同じ料金をとられているようなものです。
それから、エネルギー高度化法に対応するにあたって、非化石電源の割合が義務付けられるのですが、電気を供給する側としては、PPAで供給する電気についても考慮していただきたいと思います。
―最後に、目標についても教えてください。
秋田氏:家庭用については、現在約14万世帯なのですが、これを2024年までに30万世帯まで拡大したいと思います。そこまでいくと、小売電気事業者として存在感を示せるのではないでしょうか。
一方、VPPサービスについては、2024年までに1,500ヶ所、24万kWが目標です。また、今年度末(2021年6月末)までには、500ヶ所、10万kWを達成したいと考えています。