戸田建設に聞く(2)実用化が進む洋上風力発電~戸田建設が挑む「浮体式」とは
2019年にRE100イニシアチブに参加するなど、積極的に気候危機対策に力を入れる戸田建設。再生可能エネルギーを利用するばかりでなく、風力を使った自家発電も開発している。同社が開発を挑む浮体式洋上風力発電とは?
いま、再生可能エネルギーのなかで太陽光を上回るポテンシャルがあると言われ、期待が高まる洋上風力発電。欧州では次々と大規模洋上風力発電所が建設され、洋上風力発電の導入が急速に進んでいる。
日本でも、再生可能エネルギーの導入ポテンシャルの4分の3を占めるのは洋上風力発電とされる。洋上風力発電のポテンシャルは太陽光の10倍以上、地熱や中小水力の100倍以上となり、圧倒的に大きい。
とりわけ、水深の深い場所でも設置可能な浮体式のポテンシャルは大きく、着床式の年間2,900憶kWhに対し年間16,000憶kWhと5倍以上になる。浮体式への期待はいっそう高まる。
政府も2018年に閣議決定された第5次エネルギー基本計画で再生可能エネルギーを主力電源に位置づけるとし、洋上風力発電の開発を重点的に支援する方針を打ち出している。それにともない、各企業が次々と風力発電に参画している。
そんな中、いち早く洋上風力発電に取り組んできたのは戸田建設株式会社だ。2007年から京都大学と共同研究を開始し、2013年に長崎県五島沖に国内初の商用浮体式洋上風力発電施設「はえんかぜ」を設置した。すでに実証事業を終え実用化し運転を継続中である。
洋上風力発電には、着床式と浮体式がある。着床式は風車の基礎を海底に固定するもので、浮体式は海上に浮かべておくもの。欧州など世界で普及しているのは「着床式」洋上風力発電だ。
一方、戸田建設が取り組んでいるのは、「浮体式」洋上風力発電である。 「水深の深い日本では浮体式の方が向いているのです」とエネルギー事業部副事業部長の佐藤郁氏はいう。
日本では、気象や海象の条件が異なり、欧州の着床式の事例をそのまま適用するにはリスクがある。そのひとつが水深である。水深が概ね50m以下の浅い海底が広がる欧州に対し、日本の近海の水深は50m以上のところが多く、深い。
また、比較的単調な地質構造が続く欧州の海底は地盤も安定しており、地震もほとんどない。日本は、地盤が不規則で地震も多い。台風があるので砕波の影響も大きい。これら地震や砕波、地盤の影響をうけやすい着床式では、設置する海域の状況にあわせて特注で設計する必要がある。
浮体式ではこれらの影響を受けにくいので、同じ仕様の風車が設置できるというメリットがある。たとえば、着床式ならば水深によって設計が異なるが、浮体式ならば風車を支える係留索の長さを変えるだけでよい。「同じ設計で日本全国に設置することが可能なので、浮体式の量産効果はかなり大きい」と佐藤氏は続ける。
戸田建設は早くから浮体式に注目していた。その開発を始めたのは、エネルギー資源が乏しく、水深の深い日本では浮体式の風力発電を実現することが必要だと見抜いたからである。世界でもまだ事例が少なかったこともある。
「いわば、ゼロからの出発です。苦労は多いですが、開発に成功すれば、アドバンテージを取れると確信しています」と佐藤氏は話す。
すでに実用化が始まっている着床式に比べて、浮体式洋上風力発電は開発が遅れてスタートしている。商用浮体式風力発電は2009年に開始したノルウェーのHywindプロジェクトが最初で、次に2011年に開始したポルトガルWindFloatプロジェクトだ。それに続くのが、戸田建設が五島沖で行うプロジェクトである。これは浮体式では世界で3番目につけている。
洋上風力発電の導入がイギリスを中心に拡大し、2017年までに1,578万kWにまで達した。しかし、欧州の着床式はそろそろ頭打ちだ。次を狙って世界各国の参入が始まったものの開発に10年はかかる。
実用化のレベルにかなり近づいた3つの先頭集団に追いつけと日本の福島プロジェクトを始め、フランスやカナダ、スペインなどが開発を進めているが、その差を縮めるのにはまだ時間がかかりそうだ。
「世界的に見れば、日本も含めて水深の深い海域が多いので、今後は水深100m以上の深いところに設置する浮体式が洋上風力発電の主流になるでしょう」と佐藤氏は推測する。
洋上風力発電の難点はコストが高いことである。海上に基礎や風車、海底ケーブルを設置するには陸上の倍はかかるといわれる。設置後も維持や管理にも多大なコストがかかる。洋上風力発電を普及させるためにはコストを下げることが重要な課題なのだ。
その点、着床式に比べて、浮体式は設置コストが安い。この強みを生かして、どこまでコストを下げられるかが実用化へのカギを握っている。次回ではコスト削減への取り組みとその実績を紹介する。
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