容量市場見直し議論ひとまず決着も、試行錯誤は続く | EnergyShift

脱炭素を面白く

EnergyShift(エナジーシフト)
EnergyShift(エナジーシフト)

容量市場見直し議論ひとまず決着も、試行錯誤は続く

容量市場見直し議論ひとまず決着も、試行錯誤は続く

2021年05月14日

2020年度の容量市場オークションは、上限近くなった約定価格など、制度におけるさまざまな問題を露呈させた。そのため、見直しが行われ、2021年度は新たな制度でオークションが行われる。しかし、新しい容量市場制度についても、まだまだ問題があるという。それがどういうことなのか、エネルギージャーナリストの木舟辰平氏が解説する。

電力政策の基本的観点から問題があった容量市場

2020年度に実施された初オークションで、約定価格が上限価格に張りついた容量市場。今年度オークションでの同様の事態を回避することなどを目的に、資源エネルギー庁が昨秋から行っていた制度見直しの議論がこのほど決着した。

電力・ガス基本政策小委員会の制度検討作業部会は4月26日(第50回)、容量市場の見直しを主とする第4次中間取りまとめ案を大筋で了承した。

だが、これで容量メカニズムの理想形に辿り着いたわけでは無論ない。試行錯誤は今後も続いていく。

容量市場は、電力政策の基本「3E(供給安定性、効率性、環境性)」の全ての観点から問題があると指摘されていた

まず「環境性」の観点では、市場創設前の制度設計を終えた後の地球温暖化政策の強化により、看過できない問題が顕在化した。電源種によって発電事業者が得る収入に差を設けていないことと、昨年7月に打ち出された非効率石炭火力フェードアウト政策との整合性が問われたのだ。

そこで今回の制度見直しでは、非効率石炭火力について、設備利用率低減のインセンティブが発電事業者に生まれる仕掛けが盛り込まれた。非効率と区分された石炭火力は、設備利用率が50%を超えた場合、容量収入が20%減額される。

次に「効率性」の観点での問題は、言うまでもなく、初オークションの約定価格が上限に張りついたことに起因する。

発電事業者の収入は主に小売事業者が支払う容量拠出金によって賄われるため、約定価格の想定外の高値は、自社電源を持たない新電力に重い負担がのしかかることを意味した。そのことは自由化の進展を大きく阻害しかねない事態だと捉えられた。

追加オークション分の2%確保などで約定価格の引き下げを

今回の制度見直しでは、約定価格引き下げのため、大手電力など市場支配力を有する発電事業者の入札行動について、量と価格の両面から踏み込んだ対応を取ることになった。

量については、まず入札量を増やすために、いわゆる「埋没電源」を掘り起こす。例えば、大手電力等の休廃止予定電源は修繕工事などを施すことで原則的に全て応札を求める。

それに加えて、目標調達量の2%分を確保する追加オークションを実需給1年前に実施することで、一層の需給緩和を図る。追加オークションでは、再稼働プロセスにある原子力発電所などの入札が見込まれる。

入札価格については、事後監視に加えて、事前監視を実施する。具体的には、500万kW以上の発電規模を持つ市場支配的な事業者の電源のうち入札価格が指標価格を上回るものについて、取引前に問題がないか確認する。

制度検討作業部会では、これらの見直しにより「約定価格は相当下がる可能性がある」と期待する声が相次いだ。ただ、今回の見直し事項全てが関係者から一様に歓迎されているわけではない。新電力の負担軽減を目的とした激変緩和措置も一新されるが、これには「効率性」と「供給安定性」の両方の観点から疑問が呈されている。

容量市場の是非も含めたタブーなき議論を

従来の激変緩和措置は、2010年度末以前に建設された電源への対価を一定期間減額するもので、減額された容量収入では維持コストが賄えない電源は本来の入札価格に控除率の逆数をかけた入札を認めていた。この「逆数入札」が、約定価格を吊り上げる要因になりかねないと問題視された。

そのため、新たな措置では逆数入札を認めない一方、2010年度末以前に建設された電源の減額幅を圧縮。その分、入札価格が約定価格を一定比率下回る電源に対して、容量収入を一律に減らすことにした。

だが、その結果、小売事業者の恩恵は従来の措置に比べて小さくなった。自社電源を持たない新電力の不満はくすぶっている。これが「効率性」の観点での問題だ。

供給安定性」の観点では、2010年度末以前に建設された電源の減額幅を縮小することが「老朽電源を温存するだけで、電源の新陳代謝は期待できない」という容量市場への以前からの批判の説得性を高めている。

容量市場の存在意義に関わる根深い問題とも言えるが、こうした「欠陥」は実はエネ庁自身も認めており、すでに別途手を打っている。4年後の発電能力に対する対価を1年だけ支払う容量市場では発電事業者の新規投資は促せないとして、新設電源に限定した新たな容量確保の場の創設に乗り出しているのだ。

この新たな場で確保される容量は容量市場の目標調達量から控除する方向で、容量市場の今後の在り方にも影響を及ぼすことが避けられない。

自由化の進展や再生可能エネルギーの導入拡大といった発電事業を取り巻く環境変化の中で、発電能力に経済的対価を支払う何らかの措置が必要になることは、関係者の共通認識と言っていい。

ただ、その具体的な仕組みとして容量市場がさまざまな課題を抱えていることも事実だ。まずは12月に公表される今年度取引の約定価格が注目されるが、その結果いかんに関わらず、日本の電力システムにとって最適な容量メカニズムの在り方はその後も模索され続ける必要がある。場合によっては、容量市場の存否も含めたタブーなき議論も求められるだろう。

 

*EnergyShiftの「容量市場」関連記事はこちら

木舟辰平
木舟辰平

エネルギージャーナリスト。1976年生、東京都八王子市出身。一橋大学社会学部卒 著書:図解入門ビジネス 最新電力システムの基本と仕組みがよ~くわかる本

エネルギーの最新記事