世界のグリーン革命
2021年1月21日、日本でもエビアンやダノンヨーグルトで知られる世界の食品大手・フランスのダノンが、スペインの大手電力会社イベルドローラと電力購入契約(PPA)を締結した 。舞台は、スペイン・エストレマドゥーラ地域の590MWの太陽光発電所だ。総建設費は3億ユーロ(約383億円)。15世紀に名をはせたコンキスタドールにちなみ「フランシスコピサロ・プロジェクト」と呼ばれる。再エネ事業を拡大するイベルドローラにとっても、重要なプロジェクトとなっている。
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RE100に参加する仏・ダノンとスペインの大手電力会社イベルドローラとの間で、ヨーロッパ最大規模の590MWの太陽光発電所による電力購入契約(PPA)が締結された。
契約では2022年4月から10年間にわかって、スペインにあるダノンの29ヶ所の事業所に、年間73GWの電力が供給される。これにより、スペインにあるダノンの事業所が使用する電力は再エネ100%となる。
このプロジェクトは「フランシスコピサロ・プロジェクト」とよばれ、イベルドローラが2019年から取り組んできた。スペインのエストレマドゥーラ地域に立地し、総工費は3億ユーロ(約383億円)となる。
ダノン・イベリアのCEOであるPaolo Tafuri氏は、今回の電力購入契約について「私たちの野心的な環境への取り組み、およびグローバル戦略の一部であり、バリューチェーン全体に影響を与える目標を達成するのに役立つものである」と述べている。
イベルドローラ・スペインのCEOであるÁngeles Santamaría氏は今回のプロジェクトについて、「電力購入契約を通じて、我が国のエネルギーの現在と未来を変革し、経済回復に貢献する再エネ開発には、多くの機会が開かれています。長期のエネルギー売買契約は投資に安定性をもたらし、クリーンで持続可能な消費に取り組む大口消費者に電力を供給する手段となりました。今回の合意は、再生可能エネルギーの競争力と、手頃で安定した価格でエネルギーを供給する能力を示しています」と述べている。
電力購入契約を積極的に取り入れたダノン。同社について、ヨーグルトを思い浮かべる人は多いだろう。他にもエビアン、ボルビックなど、ミネラルウォーター事業も有名だ。日本では、ダノンジャパン株式会社として事業を展開している。
パリに本拠を置くダノンは、自らを単なる食品メーカーではなく、「世界中のより多くの人々に、食を通じて健康をお届けする」と、自社のミッションを定義している企業だ。同社は「One Planet, One Health」を合言葉に、2050年のカーボンニュートラルを目標に掲げている。
ダノンのコーポレートロゴにもOne Planet. One Healthが書かれている
フランスでは、2019年11月の法改正により2050年カーボンニュートラルがエネルギー政策の目標に追加されている。ダノンは2030年までの中間目標として、排出係数を2015年比で50%低減、スコープ1(直接排出)およびスコープ2(間接排出)の排出量を30%削減し、100%再エネ由来電力への切り替えを図る。今回のイベルドローラとの電力取引はその一環だ。
ダノンはRE100のメンバーであり、CDPの気候変動、フォレスト、水セキュリティの3分野すべてで最高のAランクを獲得した優良企業でもある。全分野でAランクを達成した企業は、世界に10社のみだ。
2020年7月には、マイクロソフト、メルセデスベンツ、スターバックスら大手企業9社とネット・ゼロ達成に向かって企業の変革を促すイニシアチブ「Transform to Net Zero」を設立。「科学によるデータ主導」「強力なガバナンス」といった原則を掲げ、ネット・ゼロの達成を急ぐとともに経済界に対するインパクトを強めている。
再エネの導入にあたっては、売電事業者と需要家の直接の電力購入契約も積極的に取り入れている。2019年には、ダノン北米法人がイタリアの大手電力会社傘下のエネル・グリーン・パワーと長期の電力調達契約を締結した。テキサス州の工場向けに、2ヶ所の風力発電所から合計20.6MWを調達している。調達された電力は、ヨーグルト8億カップ分と牛乳8,000万ガロン以上の生産に必要な電力に等しいという。
Transform to Net Zeroウェブサイト
一方、スペインの大手電力会社、イベルドローラといえば、世界中で電力ビジネスを繰り広げる“スーパー”多国籍企業だ。ヨーロッパ初の民間電力会社という170年超の歴史を誇り、今や時価総額で世界第3位とされる。
1990年代からイギリスのScotish Power、ブラジルのElektro、アメリカのAvangridといった電力会社を次々と買収した。スペインとメキシコでも電力を供給している。
2020年には、イベルドローラの再エネ開発企業に的を絞った買収劇が繰り広げられた。5月には、スコットランドの2つの陸上風力発電プロジェクトを1億9,000万ユーロで買い取り、7月にはフランスのAalto Powerを1億ユーロで買収。Aalto Powerは、陸上・洋上風力による636MWのポートフォリオを有している。さらに今後4年間でフランスの再エネ開発に30~40億ユーロを投資するという。もはや国家予算のような巨額の投資だ。
10月には、米南部のニューメキシコ州、テキサス州の電力会社PNM Resourcesを傘下に納めている 。同社を前出のAvangridに統合することで、ニューヨーク、コネチカット、メイン、マサチューセッツ、ニューメキシコ、テキサスにわたる6つの州での電力供給が可能となった。これはアメリカの再エネ電力会社として、なんと第3位の規模だ。北米におけるイベルドローラの存在感が一層大きくなった。
イベルドローラはすでにスペインをはじめ、イギリス、アメリカ、メキシコ、オーストラリアで6,500MWの電力購入契約を締結済みだ。
昨年末公開のRE100の年次レポートでもPPAによる再エネ調達は順調に増加傾向にあることが報告されており、今後さらに拡大の一途をたどるだろう(参照『世界からみた日本の再エネ調達の障壁は「高コストと調達手段の不足」か RE100年次報告書を読む』)。
今後も、2020年から2025年の間に750億ユーロの投資を計画しており、再エネの容量を倍増していくという。また同社は2030年にカーボンニュートラルを実現する予定だ。
2020年9月には日本で洋上風力発電開発の合弁会社を立ち上げると発表し、話題を呼んだイベルドローラ。今後の日本でのビジネス展開が注目される。
イベルドローラのIgnacio Galán CEO
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