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ロシアのウクライナ侵攻の裏で石油業界にも大きな異変 日本の大手商社にも影響か

ロスネフチの株式を売却するbp

2022年2月27日には、bpはロシアの国営石油大手ロスネフチの株式(19.75%)の保有を終了することを発表した。また、これにともなって、bpのCEOであるバーナード・ルーニー氏と、元bpグループCEOのボブ・ダドリー氏も取締役を辞任した。株式の扱いとしては、直ちに売却するのではなく、資本勘定から金融資産に移すということになる。

bpのヘルゲ・ルンド会長は「ロシアのウクライナへの攻撃は、地域全体に悲劇的な結果をもたらしている攻撃行為です。bpはロシアで30年以上事業を行なっており、優秀なロシア人の同僚と協力しています。しかし、この軍事行動は根本的な変化を表しています。bpの取締役会は、徹底した検討の上、国営企業であるロスネフチとの関わりを単純に継続することはできないと結論づけました。bpの代表がロスネフチの取締役を務めることは、もはや支持できません。ロスネフチの株式保有はbpの事業および戦略と一致しなくなり、現在はbpのロスネフチ株式保有を終了することが取締役会の決定となっています。bp取締役会は、これらの決定がすべての株主にとって長期的に最善の利益となると考えています」と述べている。

また、CEOのバーナード・ルーニー氏も「多くの人々と同様、私もウクライナで起きている状況に深い衝撃と悲しみを受けており、影響を受けたすべての人々に心を寄せています。この事態を受けて、私たちはbpとロスネフチの関係を根本的に見直すことになりました。取締役会として下した決断は、正しいだけでなく、bpの長期的な利益にもつながると確信しています。私たちの当面の優先事項は、この地域にいる素晴らしい従業員へのケアであり、彼らを支援するために最大限の努力をするつもりです。また、bpがより広範な人道的努力をどのように支援できるかも検討しています」と述べている。


出典:bp

bpは、これにともなってロシア国内の事業を終了させる。また、余剰キャッシュフローの60%を自社株買いにあてること、および原油価格60ドル/バレルを見込むことで、2025年までに約40億ドルの自社株買いを行なうことにより、資本格付けを維持するとしている。

石油メジャーではこの他、2022年3月1日に、フランス系のトタールエナジーズも、ウクライナの人々と苦しむロシアの人々との連帯を表明し、ロシアにおける資本の提供を取りやめることを発表している。

勝者のいない戦争とエネルギー

欧州は冷戦時代から、当時の旧ソビエト連邦からガスパイプラインによる天然ガスに依存してきた。ウクライナは東西をつなぐガスパイプラインの要所だったといっていい。

しかし、ウクライナは2004年のオレンジ革命に示されるように民主化が進み、国境を接するロシアとの関係が悪化してきた。そのため、ロシアはウクライナ向けの天然ガス価格を引き上げるなどの措置を行なってきた。一方、西ヨーロッパはウクライナ問題に由来する天然ガスの供給途絶を緩和するために、ドイツとロシアを直接結ぶノルドストリームのようなガスパイプラインの敷設などを進めてきた。同時に、ロシア以外の天然ガスの供給先の拡大も進めてきた。さらに、こうした対策をとることで、西側からウクライナへの天然ガスの供給が可能となってきた。そのため、ロシアのウクライナへの影響力は低下することになる。

ロシアとしては、天然ガスの新たな販売先として、東アジアに注目し、シベリアガスパイプラインを中国に伸ばし、あるいはサハリンの開発も進めてきたといえよう。

一方、欧州としても、天然ガスのロシア依存度はおよそ4割と高い。地政学的なことはさておいても、エネルギーと経済の分野では相互依存は続いていた。ノルドストリーム2の開発は、こうした相互依存の延長にあった。ロシアは天然ガスの販売を拡大したいし、ドイツは温室効果ガス排出削減のための石炭火力代替として天然ガスを必要としていた。

こうした中、ロシア政府・プーチン政権はウクライナにおける民主化の流れがロシアに及ぶことを懸念していたのではないだろうか。ウクライナのEU加盟やNATO加盟はこれを促進することになる。また、OPEC+の重要な産油国として石油や天然ガスによる利益を守っていくことも必要だったはずだ。


参照:Kremlin.ru, CC BY 4.0, ウィキメディア・コモンズ経由で

結局、西側諸国はロシアを説得することができず、ウクライナ侵攻が現実のものとなってしまった。その結果、何よりもウクライナ人とロシア軍兵士が命を落とすという悲惨な結果を招くことになった。同時に、ロシアは石油や天然ガスの販売先を失うと同時に、経済制裁でルーブルが下落、ロシア国民の生活にも影響を与えることとなった。国民の政府に対する不満が拡大していく可能性もある。ロシア政府としては今回の判断が裏目に出たことになる。

とはいえ、国際的なエネルギー価格の上昇は、欧州のみならず、アジアへも大きな影響を与えることになる。こうした意味において、今回のロシアによるウクライナ侵攻は、勝者のいない戦争だといえるだろう。

何よりも、これ以上の人命が失われることのない解決がなされることを祈りたい。

もとさん(本橋恵一)
もとさん(本橋恵一)

環境エネルギージャーナリスト エネルギー専門誌「エネルギーフォーラム」記者として、電力自由化、原子力、気候変動、再生可能エネルギー、エネルギー政策などを取材。 その後フリーランスとして活動した後、現在はEnergy Shift編集マネージャー。 著書に「電力・ガス業界の動向とカラクリがよーくわかる本」(秀和システム)など https://www.shuwasystem.co.jp/book/9784798064949.html

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