2020年2月20日、太陽電池モジュールの設計と安全の適格性に関する日本産業規格(JIS規格)が約10年ぶりに改定された。この規格改定によって何が変わったのか、新旧規格が混在する中でどのように対応していけばいいのか。株式会社afterFITの柴田 憲司朗テクニカル ディレクターが解説する。
太陽電池モジュールの認証制度とは
電気製品や工業製品などには、国などで定められた公的な規格に準拠していることを認証する制度がある。求められる性能や安全性が一定の水準を満たしていることを担保するため、あるいは他の製品と規格を統一して利便性などを確保するためなどの理由があってのことだ。
太陽電池モジュールも例外ではなくIEC(国際電気標準会議 International Electrotechnical Commission)の規格やJIS(日本産業規格 Japanese Industrial Standards)が存在し、その規格に合格している製品が太陽光発電に使われることになる。
規格改定がもたらす影響
今年2020年2月、この太陽電池モジュールのJISが約10年ぶりに改定された。これによって、2016年に改定されていた最新版のIEC規格との整合が図られることになった。
発電事業を行う際に必要な事業認定申請に於いては旧規格の認証品でも、或いはIEC規格とJISのどちらか一方のみでも支障をきたすことは無いものの、最新版の認証規格では定格出力の測定方法や安全性に関する規定の厳格化が図られている。
① 定格出力値の測定方法が厳格化され、出力の高いモジュールの認証取得や出力の低いモジュールの継続販売が困難になった。
- 定格出力測定の際のUVプレコンディショニング(紫外線暴露による前処理等)の条件が厳格化され、製品初期の出力低下が大きい製品では旧規格による試験に比べ、定格出力の認証値が低くなる場合がある。
- 実際に製造できる出力のモジュール製品しか認証を取得できなくなった(旧規格では、半年先や数年後などの出力向上を織り込んだ近い将来の開発予定品も認証取得ができた)。
- 認証試験に使われる複数モジュールの実測出力の平均値が定格値以上となるように規定された。
- 認証時に出力公差を規定することが求められるようになった(旧規格では、出荷検査値に対してメーカーが任意に大きな公差を設定することで、実際に製造できなくなった定格出力のモジュールを出荷することが可能であった)。
② 安全性に対する考え方が厳格化され、項目によっては旧規格よりも表記上のスペックが下がることもある。
- 太陽電池モジュールの耐荷重について、「試験荷重」とその値を安全率(1.5以上)で割った「設計荷重」の2種類が定められた(旧規格での耐荷重は試験荷重に相当し、安全率は考慮されていなかった)。
- Voc(開放電圧)やIsc(短絡電流)などの定格値に対して、設置時には公差や温度特性によって定格値を超えた電圧、電流になりうることを明示するように定められた(例えば、設置要領書等に「設計時には安全係数1.25を掛けるなど、充分な余裕を考慮する必要が有ります」等の文言を記載することを求めている)。
- モジュール内部配線の絶縁距離に関する細かい規定(絶縁協調手法)が導入され、従来の「適用等級」の代わりに「感電保護クラス」が採用された※。
※太陽光発電に用いられる一般的な太陽電池モジュールは、新規格では「感電保護クラス(Protection Class):2」、旧規格では「適用等級(Application Class):A」に該当している。これらは仕様書および銘板ラベルで確認できる。
まとめ:質の高い太陽光発電事業に向けて
新規格は旧規格よりも信頼性や安全性への配慮がなされるようになり、より安心して太陽電池モジュール製品を使うことができるように改定されたと言えよう。しかしながら、旧規格で認証を受けた製品も引き続き事業認定を受けられるし、その品質を見極める力があり適切な設計ができるようであれば、基本的には旧規格品でも問題無いと言える。
例えば、安全適格性試験のなかで定められている降雹試験では、太陽電池モジュールに打ちつける氷球の最小直径を12.5mmから25mmへと改定されているが、そもそも、殆どのモジュールメーカーが旧規格に於いても25mm以上で試験をしていることが製品仕様書から確認することができるはずである。あるいは、荷重試験や電気特性の定格値に対する安全率や係数の考え方は、きちんとした設計業者であれば従来から織り込んでいたはずである。
しかしながら、品質面以外に注意すべき点もある。
例えば、新規格では出力と公差の考え方が厳密になったことで、モジュールメーカーは今までのように将来販売できる見込みの高出力の太陽電池モジュール製品を予め認証取得しておくことが出来なくなったし、出荷時の実測値に対して出力公差を広げることで出力の定格値を任意に設定する、いわゆる「ラベルダウン」が出来なくなった。そのため、着工がかなり先になる発電所に於いては、事業認定時に申請した太陽電池モジュールが、着工時にはすでに高出力帯の製品に移行して販売終了してしまうリスクが高まったと言える。このリスクを抑えるためには、製品のライフサイクル管理が的確にできるモジュールメーカーを選ぶことと、なるべく+側の出力公差が大きいモジュール製品を選定することが大切である。
なお、今回紹介した太陽電池モジュールの規格は工業製品としての一定の品質基準を評価するものであって、規格改定によって多少の改善は期待できるものの、基本的には20年以上の期間にわたって不具合なく安全に運用できる長期信頼性を担保するものでは無い。
太陽光発電事業者にとっては、太陽電池モジュールの価格だけでなくその製品の長期信頼性に対する目利きも大切であり、そうした配慮をとおして脱炭素社会の推進に向けて質の高い太陽光発電事業が普及できれば幸いである。
Appendix(付録)
1)規格体系の変更内容
IEC規格およびJIS規格ともに、新しい規格体系において結晶系規格と薄膜系規格が統合および細分化された。新規格と旧規格の対応は下記のとおりである。
※もともとIEC61730のなかで火災試験の試験内容が規定されていたが、2016年版の改定で「火災試験は試験内容を各国の国内規格で定める」とされ、試験内容が削除された。これを受け、2005年版IEC61730の火災試験およびANSI/UL790 のClass C以上を要求する内容の火災試験JIS C8993が新たに制定された。2) 設計適格性確認及び型式認証の主な変更内容(IEC 61215/JIS C 61215)
- ① 認証試験開始時のUVプレコンディショニング手順を初期安定化プロセスに変更(5kWh/m2×2回以上照射、照射前後での出力低下が1%未満となるまで照射プロセスを実施)
- ② STC公称最大出力に於いて、2種類の合否基準「Gate」を設定
Gate #1:STC公称最大出力の初期値測定値 / 銘板値の検証
Gate #2:各試験後のSTC出力低下の検証(要求値:出力低下5%未満) - ③ 最大出力測定条件のNOCT(公称動作セル温度)をNMOT(公称モジュール動作温度)に変更
- ④ ホットスポット耐久試験に於いて、セルのサブアレイ形態によりCase S(series)、Case PS(parallel-series)、Case SP(series-parallel)に分類し、最も影響が出る部分影の条件で評価するように変更
- ⑤ 端子強度試験に於いて、ケーブルとジャンクションボックスも評価に包含するように変更
- ⑥ 静的機械荷重試験に於いて、設計荷重に安全係数(1.5以上)を乗じた試験荷重で実施するように変更(最小試験荷重2400Pa)
3) 安全性適格性試験の主な変更内容(IEC 61730/JIS C 61730)
- ① 絶縁協調および感電保護に関する規格との整合を図った感電保護クラス(Safety Class)の採用(従来は「適用等級」)
- ② 部品機器に関する要求事項の明確化
- ③ 各種安全性試験の追加および変更
- ④ 火災試験の試験内容を省略し、各国の国内規格(日本の場合JIS C 8993)への準拠することに変更※
※モジュール材料の難燃性と、モジュール製品の着火試験を規定(バーナで表面加熱と端部加熱を行い15秒間の接炎時間で着火しない、または接炎開始から20秒以内に接炎箇所から垂直に150mmを超える火炎伝播があってはならない)
4) 新規格準拠のモジュールの銘板ラベル情報例
5) 「適用等級」と「感電保護クラス」の比較
感電保護に主に用いられる内部絶縁のレベルは次の通り