最近のニュースで、サブスクの映像配信の大手ネットフリックスの料金が円換算してもほぼアメリカと変わらなくなったこと、最新のiPhoneの最上級モデルの値段が日本の平均月収の6割にも達したことなどが、続けて取り上げられた。
日本が世界とは別に生きていて、モノの生産や消費、賃金の支払いなどが完全に独立して行われているのであれば、心配する必要はないかもしれない。サービスだけならその国の賃金水準が影響する割合は比較的高いし、さらにモノも自国産の原料だけで出来るのであれば、くだんのコメンテーターの考えはある程度は理解できる。
しかし、食料を始め各種の自給率が低いことで日本は突出している。多くの原料などを海外からの輸入に頼っているこの国では、海外の物価の影響をもろに受ける。なにより、日本のGDPは増えておらず成長のない国なのである。たまたま円の評価が低いのではない。日本の国力の落ち込みが前提にある。これを無視するかのコメントは、ミスリードであろう。
中でもエネルギーの自給率は1割程度しかなく、圧倒的に海外に依存している。このところの円安が追い打ちをかける。1ドル100円程度から115円に10%程度も下落している。それもほぼ円だけの独歩安である。同じものを日本だけが高く買うことになる。国全体の力が落ち、その影響も受けて為替の力も下がるダブルパンチである。
「原油の値上がりによるガソリン代上昇が消費者を直撃」と十年一日のような表面的なニュースを繰り返していてよいのだろうか。円安が値上がりに輪をかけていること、背景にある経済力低下をはっきり伝えなければマスコミの意味はない。
カーボンニュートラルは、一種の消耗戦である。
省エネやエネルギーの効率化、脱炭素の技術が、最終的にはエネルギー費を抑えたり、またビジネスチャンスを生んだりすることに必ずつながると私は考える。しかし、その果実を得るまでには、大きな先行投資やファイナンスを要し、タイムラグもある。再生エネも一気に増やせるわけではなく、その過程では化石燃料などに頼る時期がある。
今、欧州などで起きている化石燃料などの価格上昇は、その調整面で起きる一種の摩擦である。しかし、体力がない国はそのつなぎの時点で経済力を落とし、貯えを減らして来るべき投資の余裕を失う可能性さえある。
一方、脱炭素を遅らせると日本への投資や経済流入が滞り、さらに国力の低下を招くのは確実である。脱炭素に戻る道や撤退はあり得ない。ある経済週刊誌は、これを『脱炭素地獄』と書いた。
とにかく、将来は自ら切り開くしかない。具体的に言えば、まず可能な限りのリソースを使って再生エネの導入を図ることである。そこでは、国内の力を結集する必要がある。落ちた国力をさらに分割しコップの中の争いをしながら脱炭素を成し遂げるパワーはもはや日本には残っていない。エネルギー課題の解決は、不毛な論争ではなく、実践で勝ち取るしかない。その結果はポジティブで、脱炭素と経済的利益のダブルの効果を生む。再生エネ電力の拡大は、17兆円ともいわれる化石燃料の輸入による代金流出を食い止めることにもつながる。
原発は脱炭素のメインイシューではない。再生エネがカバーできない部分があればそれをどうするかの一つのパート、選択肢でしかない。
また、地域や新電力に深く関わる立場から口をはさむと、新電力を転売ヤーなどと呼ぶレベルの低い勢力と無駄なやりとりに時間を費やしたくない。再生エネ発電の拡大と安定的な供給をどのように達成するか、旧一電であろうと新電力であろうと一緒になって取り組むしか、日本に残されたすべはないと考える。
例えば、発電や入札など各種の情報公開の不足を含めて、疑心暗鬼を生むばかりの一連のJEPXの動きは、日本の電力システムの信頼を失うだけである。このままでは脱炭素にとって必要なプレーヤーが戦列から離れることになる。
もう一度、脱炭素の重要性と日本の現状に立ち返って、考える必要がある。
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