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拡大する米国EV市場の行方 好調テスラに忍び寄る包囲網

拡大する米国EV市場の行方 好調テスラに忍び寄る包囲網

2019/11/12

テスラの売り上げが好調だ。今年(2019年)7−9月期には周囲の予測を裏切る黒字決算を出し、VW(フォルクスワーゲン)社CEOは「テスラは最早ニッチ企業ではない」と、メジャーの自動車メーカーの一角になりつつあることを示唆した。実際、販売台数は順調に伸ばしている。一方、他の自動車メーカーも、EV市場でテスラに追いつき、追い越そうとしている。今回は、テスラを中心とした米国EV市場の今後について、報告する。

大衆車・量販車へと向かうテスラのモデル3

テスラのEV事業はどうなっているのか。まず米国での販売台数を見てみよう。同社のベストセラーカーであるモデル3は今年1月と2月はそれぞれ6,500台、5,750台だったが、3月以降はすべて1万台を突破、9月には19,100台と、月間販売2万台も見えてきた。モデルXとSを合計するとテスラの今年1−9月の販売台数は13万台を超える。昨年同様に第4半期に販売台数が増加すれば、今年中に年間販売台数が20万台に到達するという可能性も見えてきた。

これを受けてテスラ株は10月に入り前月比で36.2%の上昇を見せた。テスラが6−9月期の決算報告を出したのは10月23日だが、その後株式が急上昇となった。同社の報告によると同期の収益額は1億4,300万ドル(GAAP:公正妥当な会計原則ベースによる)で、イーロン・マスク氏自身が3−6月期決算報告で予告した数値を上回った。

テスラ モデル3

テスラ株が市場で好感された背景は、この決算数値だけではない。モデル3の価格を下げたことにより、販売価格平均が下がっているにもかかわらず販売マージンを上げることに成功したこと、キャッシュフローが大幅に改善されたこと、マスク氏が新しいモデルであるモデルYの発売時期を2020年夏頃になる、とそれまでより時期を早めて発表したこと、さらに欧州でのギガファクトリーの建設候補地を年内にも発表する、としたことなど、多くの要因がある。とりわけ、世界中でモデル3、Yの生産体制が揃い、テスラが今後黒字企業であり続ける体質作りが出来つつあることが評価されたといえるだろう。

これにより、今後のテスラは利益を生み出すことができるモデル3、Yの比較的安価なモデルを中心に発展することになるということだ。一方、モデルX、Sに関しては、マスク氏は「作り続けるのは主に感傷的な理由から」と自ら認め、販売価格が10万ドルに迫るモデルがEV市場の中心ではないことを明らかにした。

これが何を意味するのかといえば、EVがまさにVW社CEOが語った通りのニッチからメジャーに転換する、ということだ。モデル3の平均的な購入価格は5万ドル程度。米国では「ちょっと高級な車」の価格帯だ。EVであることが特別であり、10万ドル程度を投じてセレブが買う車から、庶民が少し頑張って買う車へと変貌を遂げつつある。今後大量生産体制が整い、さらに価格が下がれば「普通の人が買える普通の車」になる可能性もある。

テスラのグローバル化と自動運転化

大量生産への道のりだが、中国でのギガファクトリー工場はすでに建設が順調に進んでいる段階だ。またテスラは中国で生産されたモデル3を(トランプ大統領の対中関税政策にも関わらず)米国に輸入販売することも発表済みだ。今後は欧州にも同様の工場を建設し、世界中にテスラ車を現地生産販売できる体制を作り出す。まさにメジャー並みのグローバル体制だ。

さらにテスラの強みは自動運転の分野でも業界をリードしている、という点にある。すでにテスラオーナーはソフトウェアのアップデートにより、一部の自動運転機能を手に入れている。高速道路での自動運転システムであるオートパイロットはもちろん、最近話題になっているのは車を駐車場から呼び出し、自分の目の前に呼び寄せる、という機能(Smart Summon:スマート・サモン)だ。

テスラ社の紹介ビデオより

この駐車呼び寄せ機能は事故が多いことも話題だが、他社がコンセプトとしては実現していても市販に至っていないものをいち早くユーザーに提供する、という姿勢は評価されている。この呼び寄せ機能は9月にリリースされたばかりだが、すでに50万回以上の使用実績がある。実績があることでデータの回収が行われ、今後の改良に役立てることが可能であるため、やはりテスラの自動運転機能は業界を一歩リードする存在であり続ける。

EV分野でテスラを追う勢力

このようにポジティブなニュースが続くテスラだが、その存在を脅威と感じる大手自動車メーカーからの今後さらなる逆襲、包囲網が築かれる可能性もある。VW社CEOははっきりと「脅威を感じる存在」と言及した。世界一の自動車メーカーが、テスラを「EV生産メーカーとしては世界一であり、今後のライバルになりうる存在」と認めたのだ。

もちろんこれまでも「テスラキラー」を名乗る車は数多く作られてきた。代表的なものが、モデル3よりも早く「4万ドルを切るEV」ボルトの販売を始めたGMだ。しかしボルトは今年1−9月の販売台数が13,111台と苦戦、テスラの牙城を崩すには至っていない。

現在注目されているのはフォードの存在だ。国内での乗用車のガソリンモデルカー生産は2つのモデルを除いて廃止し、すべてEVに移行する、という大胆な計画を遂行中のフォードは、11月のロサンゼルスオートショーに合わせ「マスタングからインスピレーションを受けたEVのSUV」を発表する。

Ford社の特設ティザーサイトより

フォードによれば「EVのSUVは、テスラモデルXも含めすべて『ありきたり』なものだった。フォードの新しいEVはこの事実を覆す」という。まだ車の詳細は発表されていないものの、マスタングのデザイン、パワーをベースとする全く新しいタイプのEVによるSUVだという。

フォードがSUVにこだわるのは、米国ではSUVやピックアップトラックを含めたライトトラックが新車販売台数の過半数を占めるためだ。米国人は根本的に大きくてパワーがあり、搭載能力の高い車を求める傾向がある。乗用車が売れない時代でも、ライトトラック人気は健在だ。

これに対し、テスラではSUVと呼べるモデルはXのみであり、しかもSUVとしては小型で搭載能力も少ない。そこにパワーの代表でもあるマスタングをベースとしたSUVが登場すれば、少なくともXのようなタイプを求めるユーザー人気をさらえる可能性はある。

EVのSUVやピックアップではこのほかにもジャガーI-PACE、アウディe-tron、さらに日本の日産やマツダも続々と新モデルを投入している。巨大な米国のライトトラック市場を狙い、この分野での競争は今後ますます激しくなると予想される。

スタートアップにも注目すべき企業がある。昨年デビューを果たしたRivian社は、SUVとピックアップ、2つのEVモデルを同時に発表して注目を集めた。しかも販売価格は5万ドル前後と、価格面でもテスラに競合する。特にピックアップトラックに関してはGM、フォード、日産も市販化に向けてプロトタイプを発表しており、テスラでも今後発売に向けて開発中、という噂がある。

今後大手自動車メーカーが次々にEVモデルを発表していく中で、テスラはその独自性を守り、EVメーカーとしてのリードを保つことが出来るのか。テスラの生き残りをかけた競争はまだまだ続く。

土方細秩子
土方細秩子

京都出身、同志社大卒、その後ロータリー奨学生としてボストン大学大学院留学、同大学コミュニケーション学科で修士号取得。パリに3年間居住後ロサンゼルスに本拠地を置き、自動車、IT、政治、社会などについての動向について複数のメディアに寄稿。

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