国内バイオマス熱利用の現場から―兵庫県丹波篠山市― | EnergyShift

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国内バイオマス熱利用の現場から―兵庫県丹波篠山市―

国内バイオマス熱利用の現場から―兵庫県丹波篠山市―

2020年03月18日

温浴施設等にバイオマスボイラーの導入は進んだが

ゼロ年代、国内のバイオマス熱利用は岩手県、長野県を筆頭に、導入が進んできました。特に、自治体による温浴施設や福祉施設へのバイオマスボイラー導入は、バイオマス熱利用を牽引してきた手法のひとつであり、現在も少しずつ増えています。バイオマスボイラー導入後、実際の現場はどのような運営であり、課題はどういうところにあるのか。今回は、丹波篠山市のペレットボイラーを題材に考えてみたいと思います。

2003年開業の「こんだ薬師温泉ぬくもりの郷」でペレットボイラーが運用され始めたのが2015年5月。導入のきっかけは、当施設が避難所として機能するために、非常用発電とセットでのボイラー導入を計画したとのことです。
お風呂は内風呂や露店風呂が複数あり、シャワーは男女14台ずつという設備があって、年間約20万人の利用客数を持つ施設です。

こんだ薬師温泉ぬくもりの郷のペレットボイラー

熱源は、581kWの重油ボイラー2台(開業時から稼働)をメインに置き、ペレットボイラー200kWは補助熱源としてシャワー用のお湯の温度維持の役割を担っています。
一般的には、バイオマスを主要熱源として使うことが多いのですが、篠山では補助熱源として使っており、バイオマスボイラーに何かあっても施設は稼働できる、という面でメリットがあると思います。

ペレット使用量は、補助熱源ということもあって年間150-200t程度と少なめの状況です。ペレット単価は53円/kgで、これはA重油125円/Lと同程度でありますが、実際のA重油単価は64円/Lとのことで、その差額は市役所から上乗せ補助金が出ています。
灰は、非常にきれいな状態で排出され、重量ベースで0.5%程度とのこと。処理方法としては、農家(土壌改良剤)や焼き物作家(釉薬)に差し上げているとのことで有効活用されているそうです。

課題はやはり「経済性」

運用上の技術的な課題は少ないようで、むしろバイオマスボイラーは追加熱源として、朝の昇温(10時開始の営業時間までに浴槽温度を回復させるなど)が非常に楽になっているとのこと。

課題は「経済性」にあります。
まず、ペレット単価が高いということです。前述したように、A重油に対して熱量換算で2倍の単価となっており、補助が出ているのです。
また、燃料製造にも補助が出ています。木の駅プロジェクトという原木収集プロジェクトがあり、原木買取単価は6,000円/tで住民から「木の駅プロジェクト実行委員会」が買い取っているのですが、市役所はこれに3,000円/tの補助を出しています。
つまり、燃料には「原木調達補助」と「化石燃料の差額補助」という2重の補助金が出ているのです。

実際に使われているペレット

更に言えば、ペレット燃料の7割は市外から購入しているようで課題といえます。市内の事業者は、木の駅プロジェクトで集まった原木をペレットにしていますが、必要となるペレット150-200t分の原木が集まらない、ペレット製造能力もそこまではあげられないなど、生産体制に課題があります。

もうひとつは、メンテナンスコストについて。現在は、市役所がボイラーのメンテナンスや大きな修繕費を負担していますが、これを温泉施設の指定管理者へ移管したいと考えています。もちろん、指定管理者としてはこれを受けることは難しいと考えている。となると、結局は重油ボイラーのみしか使わなくなる。非常に大きな課題と感じました。

エネルギーだけではなく産業全体のビジョンを示そう

今回の事例は、地域内で最初に設置したバイオマスボイラーが課題を抱えてしまった場合、次のプロジェクトに移ることができない典型的な例と言えます。そして、そういう事例は非常に多い。どうしても、ひとつ目のプロジェクトを成功させようとあれこれやるのですが、ブレークスルーできずに収束していくことがよく起こっています。

その理由の多くとしては、まずビジョンがないことです。今回も、市内では100tに満たないバイオマス量の中で議論が進んでいます。用材利用も含めて、森林・林業の大きなビジョンが必要です。また、手法にこだわりすぎて自分の首を絞めることもあります。納入先、燃料の種類を限定してしまっては、大きく広がりません。

西粟倉村のような森林・林業のビジョンがあれば、いくつもの手法を試し、アップデートすることができます。今回、訪問時に薪やチップの可能性も検討すべき、という提案を市役所でさせていただきました。小規模なペレット製造は経済面で非常に難しい手法ですから、もっと可能性を広げるべきです。

読者の皆様の中には、バイオマス熱利用は技術的な課題があるように考えられている方も多いと思います。しかし、技術的な課題よりも、経済性や取り組む姿勢、大局観などが普及の阻害要因になっていることが多いのが実情です。今回はボイラー設備費には触れていませんが、これが非常に高価であることも普及の阻害となっています。

丹波篠山市もこれがゴールとは思っていません。しっかりとサポートできればと考えています。

井筒耕平
井筒耕平

1975年生。愛知県出身、神戸市在住。環境エネルギー政策研究所、備前グリーンエネルギー株式会社、美作市地域おこし協力隊を経て、2012年株式会社sonraku代表取締役就任。博士(環境学)。神戸大学非常勤講師。 岡山県西粟倉村で「あわくら温泉元湯」とバイオマス事業、香川県豊島で「mamma」を運営しながら、再エネ、地方創生、人材育成などの分野で企画やコンサルティングを行う。共著に「エネルギーの世界を変える。22人の仕事(学芸出版社)」「持続可能な生き方をデザインしよう(明石書店)」などがある

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