2022年3月22日、東京エリアに対し、経済産業省は電力の需給ひっ迫警報を発令した。制度ができて以来、初の警報となった。電力会社や経済産業省は節電をよびかけ、あるいは自家発の焚き増しを要請した結果、最終的に乗り切ることができたが、節電が不足したら計画停電を行なう可能性もあった。3月25日に開催された、経済産業省の第46回電力・ガス基本政策小委員会では早くもひっ迫の検証が行われた。何が問題であり、ひっ迫は今後も起こるのだろうか。
電力・ガス基本政策小委員会(以下、小委員会)では、「2022年3月の東日本における電力需給ひっ迫に係る検証について」の資料を提出している。最初に、この資料に基づいて、解説していく。
今回のひっ迫は、3月22日に突然発生したわけではなかった。3月16日に最大震度6強となる福島県沖地震が発生し、計14基、発電容量647.9万kWの火力発電が停止した。その結果、東京エリアで最大約210万戸、東北エリアで最大約16万戸の停電が発生したが、運転中の火力発電所の出力増加や被害を受けた設備の改修によって停電は解消された。
その後、およそ半数の火力発電所は復旧したものの、3月18日の時点でなお、7基合計約440万kWの発電所が停止中となっており、同日夜、東京電力パワーグリッドは21時~22時に供給力不足に陥る可能性が出てきたため、節電の呼びかけを行なった。
3月22日になってもなお、335万kWが地震の影響で停止しており、その影響もあって東北から東京に向かう送電線の容量は250万kWにまで半減していた。これに追い打ちをかけるように、電源開発(Jパワー)の磯子火力など計134万kWが地震の後で計画外停止となっていた。
電源が不足した理由はそれだけではない。冬の電力高需要期(1・2月)が過ぎたことで、発電所の計画的な補修点検が開始されていた。2022年1月6日には、今冬最大需要として東京エリアでは5,374万kWの需要があったが、十分に供給できていた。この日と比較すると、3月22日には511万kWの発電所が計画停止していたということになる。
こうした状況にあって、3月22日は真冬並みの寒さと雨ないしは雪という天候となり、想定された最大需要は4,840万kWとなり、およそ400万kW、6,000万kWhの不足が見込まれた(表1)。
表1:3月22日の需要見通しの変化と対応策
見通し策定時刻 | 3月19日20時 | 3月20日21時 | 3月21日17時 | |
需要見通しの変化 | 最大需要 発生時刻 | 11~12時 | 16~17時 | 16~17時 |
最大需要電力 【万kW】 | 4,300 | 4,694 | 4,840 | |
最高気温/最低気温 【℃】 | 9.4/6.7 | 3.8/3.1 | 3.8/2.0 |
出典:経済産業省HPをもとに編集部再編集
需給ひっ迫警報の発令は前日の20時と、直前の発令となった。3月19日の時点では、最高気温、最低気温とももう少し高い気温という予報だった。22日に近づくにしたがって、予報における気温が下げられ、それにともなって最大需要電力の予測が大きくなっていったということになる。3月19日20時の時点で、東京エリアの最大需要電力は4,300万kWと予測されていた。最大需要電力の見通しが4,840万kWに修正されたのは、前日の17時だった。
東京エリアの電力需要の見通しと実績を示したものが、図1である。これを見ると、午前中は目標とする節電量が不足していたが、15時以降になって節電量が急速に拡大したことがわかる。
図1:3月22日(火)東京電力サービスエリア内の需給状況
出典:経済産業省HPをもとに編集部再編集
需給ひっ迫警報が発令されたのは、前日の20時だった。その後、23時には電力広域的運営推進機関(OCCTO)から全電気事業者に対し、発電出力増と需要抑制の依頼がなされた。この日は祝日であり、また発令が夜ということもあって、各自治体や商工団体、業界団体などへの節電の依頼は翌朝となった。
結果的に初動の遅れとなったが、そうした理由もあってか、22日9時から13時までは節電達成率は目標に対して20%台から30%台で推移していた。前日までに準備していた揚水発電可能量も予定以上に消費することになる。東京電力は当初、計画停電は予定していないとしていたが、荻生田経済産業大臣は14時40分の緊急会見で計画停電を行なわざるを得ない状況が近づいていることを述べている。
14時以降、節電達成率は60%台を超え、16時台以降は100%を超えた。こうしたことによって、計画停電は回避され、22時頃には停電回避の目途が立ったことが報道された。さらに翌23日11時になって、需給ひっ迫警報が解除された。
この間、東京電力エナジーパートナーは次のような対策を行っていた。
まず、素材系メーカーを中心とした需要抑制(DR:デマンドレスポンス)を活用した。対象軒数は約400軒で、調整規模は最大で30万kW~50万kWに相当する。
自家発の増出力は35軒に依頼、最大で24万kWとなった。
その他にも、契約電力500kW以上の需要家約5,000軒に対し、節電要請を行ない、約540kWhが節電された見込みだという。kWは明らかになっていないが、数十万kW~100万kWの規模だろうか。実際に節電されたものとしては、スカイツリーや東京タワーなどのライトアップの停止が行われたことや、一部鉄道の運休などが人々の目に触れているが、かなり大胆な節電が行われたといえるだろう。
発電事業者側では、JERAは火力発電所の増出力運転(定格出力を上回る出力での運転)で26.5万kW、火力発電所の補修時期の調整で171.2万kWを確保した。
また、東北東京間の約250万kW、東京中部間の約180万kWという地域間連係性の活用も行った。
結果として、東京電力パワーグリッドをはじめとする関係者の必死の努力により、計画停電は回避されたものの、あらためて東京エリアの電力供給の脆弱性が示されたと言えるだろう。
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