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卒 FIT向けのバリューチェーン構築を目指す丸紅の戦略
再生可能エネルギーに関して、さまざまな角度から取り組んでいるのが大手商社だ。中でも丸紅は国内外で太陽光発電、風力発電、水力発電、地熱発電、バイオマス発電などの再生可能エネルギーも含めた多種多様な電源に依るIPP事業に取り組む一方、火力・地熱を中心とする発電所の設計や建設などを行うEPC事業にも取り組んでいる。さらには電力の小売事業も手掛けるなど、電力での総合バリューチェーンを構築してきている。
昨年末、丸紅ソーラートレーディングという新会社を設立し、卒FITユーザーを対象とした電力の買取ビジネスにも参入した。これがどんな意味を持つものなのか話を伺った。
今回、取材に対応していただいたのは丸紅株式会社 国内電力プロジェクト部企画チーム長の椎橋航一郎氏、同企画チームの吉野美佳氏、そして丸紅ソーラートレーディング 取締役の青木健治氏だ。(役職は取材当時)
− 丸紅は電力ビジネスに幅広く組んでいる商社というイメージがありますが、再生可能エネルギーとしては、どんな展開をされているのですか?
椎橋航一郎氏:当社は国内の商社の中では、最も電力に力を入れているところだと自負しております。とくにIPP事業(Independent Power Producer:独立系発電事業者)を世界で展開しており、日系ではNo.1(注:持分発電容量ベース)のIPP事業者として、国内外で再生可能エネルギー事業にも積極的に取り組んでいます。
このIPPというのは自らが所有・運転する発電設備で作った電力を電力会社等に売電する事業を意味しているのですが、そうした発電設備の再エネ比率の向上を図っており、当社が保有する発電設備のうち再エネ比率(持分・容量ベース)を2023年までに現在の倍の約20%へ拡大させることを目指しています。
吉野美佳氏:もともとEPC(Engineering / Procurement / Construction)事業にも幅広く取り組んできたのも当社の特徴です。IPP事業が2000年代に本格化する以前より広く取り組んできたのが発電所や変電所、送電網の設計や建設を行うEPC事業です。
丸紅は、欧州で2000年代に始まり瞬く間にアジア・米国へと拡大している洋上風力事業の工事に欠かせない風車据付用の特殊船を保有する会社を傘下に所有しており、洋上風力据付事業では、従来のヨーロッパ拠点に加え、アジア市場への展開も図ってきているところです。
− 発電に対し、小売のほうはいかがですか?
吉野氏:小売についても国内外で取り組んでいます。2001年に英国で設立したSmartestEnergy社においては、再エネ電源を中心とした調達・小売事業を手掛けています。
国内では電力小売自由化が開始された2000年以降、PPSとして丸紅新電力を設立し、電力小売事業に参入しました。
当社保有の発電所からの電力調達による需給バランス調整も自社内で行うなど、豊富な需給運用スキル、電源取り扱い実績を保有しています。さらに地域社会の課題解決に向けた地域密着型電力・サービス事業の推進も目指しています。
− 地域密着型電力・サービス事業とは、どういうことですか?
吉野氏:総人口の約76%が未電化であるタンザニアにて太陽光パネル/充電式ランタンによる地域電化事業を進めるWASSHA社への出資参画を通じ、アフリカ未電化地域での地域密着型電源事業を推進しています。
一方、国内においても再生可能エネルギーや分散型電源によるエネルギー自治への関心の高まりを受け、2018年6月に丸紅伊那みらいでんきを長野県伊那市に設立しました。ここはエネルギーの地産地消を目指し、地域の再エネを活用すると同時に、再エネ事業の収益の一部を地域に還元していく仕組みをつくっています。中期的には、小水力発電やバイオマス発電への事業投資、観光や農業など新規事業を通じて、地域雇用の創出や産業構造の拡大に寄与し、長期的には地方創生、地域の生活をより豊かにすることを目指しています。
椎橋氏:その延長線上の一つとして、卒FITユーザーをターゲットに余剰電力の買取を行う新会社、丸紅ソーラートレーディングを設立したところです。
− 改めて、丸紅ソーラートレーディングとはどんな会社なのか、その概要を教えてください。
青木健治氏:丸紅ソーラートレーディングは2018年11月に設立したばかりの会社で、今年(2019年)11月からスタートする卒FITの余剰電力の買い取りを主な目的としています。資本構成は丸紅100%ではなく、丸紅新電力が60%、新電力のパネイルが40%という比率になっています。
なぜ、この2社という組み合わせになったのかというと、今後の分散型電源サービスを形にしていく中でIT技術が非常に重要になってくるわけですが、パネイルはITを活用した小売電気事業者としての経験があり、DeNA出身の名越社長を中心とするIT系人材を豊富に抱えている。卒FITユーザーから購入する余剰電力の商品設計等の事業運営に於いて、そうした経験と人材を活用・内包化して行きたいと考え、協業に向けた協議の結果、タッグを組むことになったのです。
− 卒FITをターゲットとした事業展開をする会社は、かなりの数にのぼります。その中で、丸紅ソーラートレーディングはどんな特徴を出していくのでしょうか?
青木氏:各社がどんどん名乗り出ている中、メディアが取り上げるのはほとんどが価格のみ。その意味では、価格訴求に対して取り組む必要があります。当社としてはシャープと提携をし、最大で14.6円/kWhでの買取価格を打ち出しました。おそらく、これは業界内で3位の高値だと思います(取材時)。また、中期的には価格以外の付加価値による差別化も必要と考えており、スタートアップから大手企業まで、様々な事業者との間で協議を進めております。
− シャープと組んだというのは、どういう意味を持つのでしょう。
青木氏:今年中に約53万件の太陽光発電設備が卒FITを迎えると言われていますが、そのうち約半分のパネルはシャープ製と言われております。そのユーザーにアプローチできるというのが大きなポイントです。
当社としてはより多くの卒FITユーザーにアプローチしたいと考えており、シャープ様としては、蓄電池など自社製品をシャープ製PVパネルオーナーに提案するにあたり卒FIT買取サービスを全国規模で展開したいとのご意向があり、両者の利害が合致したのです。
結果として蓄電池を導入するユーザーに対し、最大14.6円/kWhという単価を提案することができました。われわれとしては、今年の卒FITユーザー53万件のうち3万件を獲得することを目標に進めていきます。
エリア | SHARPプラン (通常買取単価) | SHARPプラン蓄電池プレニアム (プレニアム単価) |
北海道電力管内10.6円/kWh14.6円/kWh | ||
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東北電力管内9.3円/kWh13.3円/kWh | ||
東京電力管内9.5円/kWh13.5円/kWh | ||
中部、北陸、中国、四国電力管内8.4円/kWh12.4円/kWh | ||
関西電力管内8.5円/kWh12.5円/kWh | ||
九州電力管内7.0円/kWh11.0円/kWh | ||
沖縄電力管内7.6円/kWh11.6円/kWh |
− 蓄電池も安くなってきたとはいえ、一基で100万円、200万円もする商材。高単価での電力買取とセットで売るとしても、そう簡単に売れる商材ではないようにも思いますが。
青木氏:この11月に卒FITを迎える方々はFIT制度導入前から太陽光発電設備を導入された環境意識の高い方々ですのでそのため、蓄電池導入による再エネ電力の自家消費への関心もかなり高いはずだと考えております。
現状で蓄電池を導入すれば経済的なメリットがでるかというと、まだ難しいのが実情ですが、自然災害への備えなどを考慮して、導入される方も一定数いらっしゃるものと考えております。
− 卒FITユーザーへのアプローチに絞る会社というのは、非常にユニークだと思いますが、丸紅グループとしてみた場合、どのようなメリットが考えられますか?
椎橋氏:環境意識が高く、購買意欲のある顧客、プロシューマーと呼ばれる人たちとのチャネルが欲しいという思いがあります。丸紅ソーラートレーディングがアプローチしているのは、まさにそうした人たちなので、顧客接点という点で重要な役割を担い、今後の新しいビジネスが展開できるのではと考えているところです。
− ありがとうございました。
(取材・執筆:藤本健 撮影:寺川真嗣)
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