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テスラのビットコイン買いは、ドル離れ容認を中国にアピールか

テスラのビットコイン買いは、ドル離れ容認を中国にアピールか

2021/02/16

2021年2月8日、テスラがビットコインに15億ドル投資したことが明らかとなった。さらにテスラは、ビットコインでの決済も可能にするというニュースが駆け巡った。これはテスラのデジタル資産への投機のようにも見える。しかし、中国を含めた世界市場への展開を考えると、テスラのドル離れ容認という戦略が見えてくる。大野嘉久氏が解説する。

基軸通貨ドル体制に不満を抱える中国

中国政府は現在の国際決済システムに対して強い不満を抱いており、中国の大手商業銀行である中国銀行(*中国の中央銀行ではない)は2020年7月に発表されたレポートで「中国は独自の国際送金通信ネットワークを構築し、米国の経済制裁を回避できるような体制をつくるべきだ」と主張している

それもそのはずで、いま世界の銀行間における国際金融取引で使われている決済システム「SWIFT(Society for Worldwide Interbank Financial Telecommunication)」では基軸通貨のドルを介して送金が実施されるため、米国と関係ない取引でも米国の銀行を使わなければならない。

例えば、日本の企業が海外企業の口座へ送金する場合、複数の仲介銀行(コルレス銀行)を経由しないと着金できないため手数料がかさむうえ、決済はある米国銀行口座から別の米国銀行口座へとドルを送ることになり、送金の情報は全て米国側に把握されてしまう。

ドイツのニュース誌「デア・シュピーゲル」は2013年9月、「米国家安全保障局(NSA)がSWIFTのシステム上における送金取引とクレジットカードの取引を監視している」ことを報道している。

経済制裁のツールとしての国際金融取引

さらにこうした仕組みは、経済制裁のツールとして使われてしまう懸念もある。実際にトランプ政権が2018年にイランへ経済制裁を課した際はイランの銀行がSWIFTの決済ネットワークから遮断されて送金情報を相手先に伝えられなくなった。

こうして国際送金が強制的にストップさせられたわけだが、中国は何としてもこのような事態を避けたいと考えているようだ。

つまり中国は国内の情報を厳格に統制している一方、ドルを介した国際送金は米国に筒抜けとなっていて、さらに米国を怒らせたら経済制裁まで課されてしまう。中国からすると極めてアンフェアな状態であり、是正したいと思うのも当然であろう。

 

「SWIFTは"民主的すぎて"支配できない」

では、中国が経済力と政治力を駆使してSWIFTから米国の影響力を陰に陽に下げることができるかと言えば、むしろ非常に民主的な組織であるため、難しいだろう。

まず、SWIFTの所有者は米国政府ではなく、3,500を超える世界各国の金融機関が株主となっており、理事会も各国の金融機関から25人が選出される。現在、日本からは三菱UFJ銀行のトランザクション・バンキング部マネージングディレクターがSWIFTの理事になっており、中国からも前掲した中国銀行の決済部門責任者が理事に選出されている。

そのうえ20ヶ国(米国、英国、日本、中国など)および欧州中央銀行(ECB)の監督下にもある。

そもそも本部が米国ではなくベルギーにあるため、ベルギーの国内法ならびにEU規制を遵守しなければならないが、逆に言えばEU規制で経済制裁が決められたらSWIFTは必ず従うことになっている。

このとおりSWIFTは政治的に決定されていない経済制裁を独自で課したり、あるいは政策で決められた制裁を勝手に無視することはできない。同時に米国政府からは非常に独立した組織となっており、中国政府もSWIFTの運営を牛耳って仕組みを変えることはとても難しい。かといって基軸通貨をドルから人民元に変えるのも、すぐには無理である。

そこで、非常に戦略的な中国は将来を見据えて、まずはドルを介さない人民元だけで決済できる仕組みの構築に乗り出した。

中央銀行を介さない決済手段としての仮想通貨

その一環として、中国の中央銀行である中国人民銀行(PBOC)は2015年、人民元の国際銀行間決済システムである「クロスボーダー人民元決済システム(RMB Cross-Border Interbank Payment System/CIPS)」の運用をスタートさせた。

これは中国政府が人民元の国際化を狙って発足させた決済システムであり、日本の銀行ではみずほ銀行と三菱UFJ銀行がCIPSへの接続を開始させている。

続けて中国政府は上海国際エネルギー取引所(INE)において石油の人民元建て決済を行う「ペトロユアン」を2018年3月に開始した。原油がドル建てで取引されていると(いわゆる“ペトロダラー”)、その代金決済には必ずSWIFTを利用しなければならないが、現状だと経済制裁対象国に指定されたイランやイラクなどから原油が買えなくなる。

しかし世界最大の原油輸入国である中国としては少しでも調達先を確保したいところであり、また経済制裁されている産油国も米国を通ることなく中国に大量の原油を売ることができれば国庫が潤うため、ペトロユアンは開始して3ヶ月後の2018年6月には世界の原油取引の1割を超えたと報じられた。

他方、世界最大の原油輸出国であるサウジアラビアでも、国営石油企業サウジアラムコが「将来的に中国人民元建ての社債を発行する可能性がある」と2020年11月に表明したが、他の産油国も追随すれば「オイルダラー」の様相も大きく変わるであろう。

また、近年では中央銀行を介さない決済手段として仮想通貨も大きく注目されている。なぜなら、ビットコインを始めとした多くの仮想通貨は「ブロックチェーン」というプログラミング上に構築されており、取引の当事者同士がインターネット上で直接決済ができる仕組みとなっているため、これも同様にSWIFTを通らない非ドル決済の有力な手段となっている。

テスラのビットコイン買いは「投機」ではなく「投資」

1977年の運用開始以来、国際決済を完全に支配してきたSWIFTは中国が進めている非ドル決済の動きに強い警戒感を募らせており、中国の中央銀行である中国人民銀行の子会社である「Digital Currency Research Institute/DCRI、デジタル通貨研究所」および決済部門と共同で「Finance Gateway Information Services Company」という合弁事業を登記したことが2021年2月3日に報道された。合弁会社の最大株主は550万ユーロを出資したSWIFTであり、中国人民銀行決済部門の出資額は340万ユーロとされる。

米電気自動車(EV)大手テスラが15億ドル(約1,600億円)のビットコインを購入したことが米国証券取引委員会(SEC)に報告されたのは、SWIFTと中国人民銀行の合弁事業設立が報道された翌週明けの2021年2月8日であった。また、テスラは商品の支払い手段としてビットコインも使えるようにすると明言している。

したがってテスラは今回、ビットコインを大量に買ったうえビットコイン決済を公認することで、早くドル決済から抜け出したい中国に対して「ドル離れ容認」を効果的にアピールしたのではないか。少なくとも中国マーケットを狙っている世界の自動車メーカーの中では、同国へのコミットメントを最大限に示すことができた、と言えよう。

テスラのビットコイン買いについて、国内外の分析記事はほぼ全て「投機」だと論じているが、そんな目先の短期的な損益ではなく、中国の自動車マーケットで良い位置に着くための「投資」ではないかと推察される

なぜなら、その方が「投機」で得られる利益よりはるかに大きいからだ。決済取引の全てが米国に分かってしまう自動車メーカーと、分からない自動車メーカーのどちらを中国政府が重用したいだろうか。

参照
Chinese banks urged to switch away from SWIFT as U.S. sanctions loom

大野嘉久
大野嘉久

経済産業省、NEDO、総合電機メーカー、石油化学品メーカーなどを経て国連・世界銀行のエネルギー組織GVEPの日本代表となったのち、日本サスティナブル・エナジー株式会社 代表取締役、認定NPO法人 ファーストアクセス( http://www.hydro-net.org/ )理事長、一般財団法人 日本エネルギー経済研究所元客員研究員。東大院卒。