トヨタは、これまでEV普及に懐疑的な姿勢を見せてきた。4月22日には、トヨタ自動車の豊田章男社長がオンライン会見で「われわれが目指すゴールは、EVの販売促進やガソリン車の禁止、燃料電池自動車(FCV)推進ではなく、カーボンニュートラルだ」と強調していた。
同氏は、ガソリン車で使用可能な水素と二酸化炭素の合成液体燃料「イーフューエル(e-fuel)」に期待を寄せる姿勢を示すなど、自動車産業の脱炭素はEVに限らない方針を示していた。その背景には「カーボンニュートラル戦略は欧州の方が2周、3周先に行っている。(中略)電力事情も違えば、日本には安価で大量の再生可能エネルギーもない。日本には日本が取り組むべきカーボンニュートラルの道筋があるはずだ」という考えがあった。
そんなトヨタが、今回、2035年までにゼロエミッション車へ完全移行すると表明した最大の理由は、やはり「European Green Deal」だ。欧州の主要18ヶ国の新車販売に占めるEVの比率は2021年7~9月に13%となり、前年同期から7%分も急伸している状況。規制を乗り越えてその波に乗らない手筈はないわけだ。
だが、トヨタを駆り立てたのはそれだけではないだろう。「トヨタはEV反対派」というイメージを払拭したい。そんな思いも今回の表明に込められていたのではないだろうか。
今年の11月4日の決算会見の場では、トヨタ自動車の長田准執行役員が電動化戦略について下記のように述べている。「残念ながらトヨタはハイブリッドの擁護派じゃないか、あるいはEVの反対派じゃないかと言われるが、決してそういうつもりではない。なかなか思ったことは伝わらないなあと、時々つらくなることも事実だ。」
経営陣の耳にまで届いていた、トヨタはEV反対派という声。同じく11月には、国際環境NGOのグリーンピースが、世界の自動車大手10社の気候変動対策について、トヨタを最下位に位置付けており、そうした悪い声が大きくなりかねない状況だ。
そのグリーンピースの評価の中では、内燃機関車(ICE)の廃止を世界のどの市場においても約束していないとして、批判的なコメントがなされている。またそこでは、2020年の世界販売台数に占める排ガスゼロ車の比率が0.12%と最低レベルであるともしている。
グリーンピース・ジャパンHP「自動車メーカーの気候対策ランキングで、なぜトヨタが最下位に?」
とはいえ、先述のように、トヨタはカーボンニュートラルに無関心なわけではない。水素などEV以外の道筋で脱炭素を目指しつつ、EVに用いる蓄電池に1.5兆円を投資することも発表している。それも金額ばかりが先立つわけでなく、バッテリーについて包括的な戦略を打ち立てている。実は電池関連の特許数で世界1を誇るトヨタがその本気度を示した形だ。
にもかかわらず、反EV派として扱われている現状。それを打破するために、今回、2035年までにゼロエミ車へ完全移行すると表明したわけだ。
トヨタはEVに関しては、確かに後発組で、年間販売台数が100万台に迫る米テスラや、15車種以上を販売する独フォルクスワーゲンなどそのライバルたちも手ごわい。それでも、トヨタ自動車の長田准執行役員が「電池、EVについても他のOEMの皆様に我々は決して劣っていない」と語ったように、技術力において分がないわけではない。
だからこそ、余計な外野の声を封じたい。そのための一大声明が今回の発表なのだろう。
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