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Energy Impact Partnersの投資動向から見る再生可能エネルギービジネス:気候変動の脅威をビジネスで凌駕し綺麗な地球を子供たちに残すために

Energy Impact Partnersの投資動向から見る脱炭素ビジネス:気候変動の脅威をビジネスで凌駕し綺麗な地球を子供たちに残すために

2020年06月24日

再生可能エネルギーの分野は、市場が拡大するだけではなく、新しい技術を携えた多くのスタートアップ企業も登場している。そして、そうした企業を支えているプレイヤーのひとつが、環境やエネルギー分野に明るい投資ファンドの存在だ。海外では再エネのどのようなビジネスに投資され、進んでいるのか。株式会社afterFITの安達愼氏が紹介する。

再生可能エネルギー分野で、未来のマーケットを生む

2020年6月9日の古河電工と古河電池が共同発表した、「バイポーラ型蓄電池」実用化の発表による連日の株価ストップ高などにみられるように、株式市場は未来を創造する新技術に旺盛な好奇心を抱いております。

気候変動問題とリンクするこのような再エネ関連の技術開発研究は日本のみならず、各国盛んに行われており、この分野での新しい経済成長は黎明期を迎えております。また、再エネの世界は、女性や学生の素晴らしい活躍も目立ち、まさに、この分野は、地球平和と経済成長と新規雇用を導く投資、イノベーション、新産業を創出しております。

さて、皆さんは、Energy Impact Partners(以下、EIP)というアメリカの投資会社をご存じでしょうか? CEOハンス・コブラー氏が率いるEIPは、再エネの未来をリードするグローバルな投資プラットフォームを提供しています。そこでは世界有数の公益事業会社や事業会社が起業家・ベンチャー企業に投資することで、イノベーションを推進しています。

Energy Impact Partners ウェブサイト

15億ドル以上の運用資産を持つEIPは、再エネ分野でグローバルに投資を行っており、ニューヨーク、サンフランシスコ、パームビーチ、ロンドン、ケルン、オスロのオフィスを拠点に50人以上の専門家で構成されるチームを擁しています。

彼らの活動に賛同をしている企業も、Ameren Corporation(NYSE:AEE)、 Avista Corporation(NYSE:AVA)、Fortis Inc(TSX:FTS)、Madison Gas and Electric Company、National Grid Partners、National Grid plc(LSE:NG)、The Southern Company(NYSE:SO)、Tokyo Electric Power Company Holdings, Incorporated(TSE:9501)、Xcel Energy Inc(NasdaqGS:XEL)、 Great Plains Energy Incorporatedなど、ビックネームが並びます。

*()内は上場企業ティッカーシンボル。

筆者作成

エネルギー分野専門の投資プラットフォームEnergy Impact Partners(EIP)の投資先

CEOハンス・コブラー氏の講演(Ecosummit Berlin 2017 / 2019*)を視聴すると、ファンド、CVC等、エネルギーベンチャーに「投資する側」の再エネ各種関連事業に対する興味がわかります。下の図表は、その順位をまとめたものです。

EIP CEOハンス・コブラー氏のYoutube講演(2017 / 2019)から筆者作成

日本ですとFIT制度の名のもとに、まだまだ土地取得と設備品のコストや投資回収率の議論が、融資と絡めて、不動産取引っぽく語られていることのほうが多いと思われます。
しかしこれを見ると、欧米の再エネ分野では、いわゆる分散型エネルギーの供給制御技術や、それに伴うサイバーセキュリティシステム、マイクログリッド、EV、蓄電技術など、再エネ効率的かつ安全的に、産業や生活にどのように役立てるか? という、活用マネジメントのステージに、欧米のエネルギー事業家や投資家は興味を持っていることがわかります。

そこには、再エネを常時使うことを大前提とした、新しいビジネスがどんどん創出されております。当然、そこには新しい雇用も生まれることでしょう。日本の再エネ業界の何年も先を進んでいる印象を受けます。欧米における再エネの分野では実際にどのような投資が行われているのか、ウォッチしておく価値はあるでしょう。

そして、EIPの主な投資先の内容ですが、この図表のようになっております。

報道、各社プレスリリース等より筆者作成

このように、EIPの投資先であるどのベンチャー企業も、再エネ活用の先を見据えた、スマートライフなどの事業を行っており、大変興味をひきます。

今回はそのうちから2社をご紹介します。

再生可能エネルギーの貯蔵と取引を最適化するプラットフォーム:AMS

最初にご紹介するのは、社員数90名、2014年創業のサンフランシスコにあるベンチャー企業、Advanced Microgrid Solutions(以下、AMS)です。

分散型エネルギー資源の管理と市場最適化アルゴリズムを開発していた同社は、2017年にEIPから7社共同で3,470万ドルの投資を受けました(投資ラウンドB)。このラウンドで資金調達総額は5,200万ドルに達しました。

AMSは設立時からDERに注力し、カリフォルニア独立系統運用者(CAISO)向けにバッテリー管理と連動した入札ソフトウェアを投入していました。

2018年には、太陽光と風力の自然エネルギーが拡大し、電力網に負荷がかかり、エネルギー市場価格の乱高下を引き起こしているオーストラリアで、AI搭載の卸売取引プラットフォーム「SigmaOne」を立ち上げました。このプラットフォームは再エネとバッテリーの価値の最大化に貢献しています。

急速に変化するエネルギー市場の中、AMSはエネルギー資産の管理・売買を自動化・最適化することで、複雑な管理をサポートしています。風力発電所や太陽光発電所とともに、AMSプラットフォームは世界最大の分散型エネルギー貯蔵管理システムとして認知されるようになりました。

世界エネルギー市場は、分散型発電をグリッドや市場運営に最適化していくという大きな課題に直面しております。AMSはその課題に果敢に挑戦しているベンチャーで、現在順調に成長を見せています。

Advanced Microgrid Solutions 動画より

新型コロナウイルスで需要高まるスマートホームオートメーション:SmartRent

次にご紹介するのは、スマートホームサービスを提供する、SmartRentという会社です。2017年創業、アリゾナにある社員数50名のベンチャーです。
居住者だけでなく家主側の管理経費削減までを可能にしており、各種センサーを通じてユニットを監視、保護する新しい手法をより高度に展開しております。

Eコマースの隆盛による商品や食品の配送の爆発的成長や、入居希望者だけで内覧が可能なセルフガイドツアーなど、非接触での建物への入場はニーズが高まっており、SmartRentの需要をさらに牽引しています。2019年だけでもユニット販売数がなんと前年比600%の成長を遂げました。COVID-19により、こうした非接触機能はさらに伸びております。

EIPは同社に対し、2020年5月に6,000万ドルの投資を行いました。ラウンドはC、協調投資社は9社です。
SmartRentのようなスマートホーム技術は、DERのフレキシビリティ運用につながるもので、EIPはそこまでを見据えた投資を行っているといえます。

地産地消の分散型エネルギーを使って、こんなにも地球に優しい、かつ衛生的な、スマートホームやスマートシティが構築されるのであるならば素晴らしいですよね。ちゃっかり、アマゾンアレクサチームも、SmartRentへ投資を行っております。

すでにUDRという老舗賃貸不動産業とコラボレーションをしており、動画でその一部が確認できます。

UDRは、45年以上にわたり、個性的で綺麗なアパートメントハウスと模範的なサービス、アメニティを提供することに注力しています。UDRのアパートコミュニティは、ニューヨークのアッパーウエストサイドからサンフランシスコのミッションベイ地区まで、全米でも有数の好立地で展開されています。SmartRentの技術を取り入れ、スマートライフの実現を目指しております。

UDRでのSmartRent活用シーンの動画

金儲け主義ではない、未来を創造する世界の力を

EIPという15億ドルの運用資産をもつ投資プラットフォームと、その投資先を2社、見てみました。さらに興味をひく投資先ベンチャーがまだまだありますので、また次回、ご紹介させていただきます。

世界の再エネを取り巻くベンチャー企業の動きは、もうすでに、新たなステージにあります。それらに旺盛な投資を行っているファンドやその裏側にいる巨大資本も存在しています。
さらに、周知のとおり、分散型エネルギー取引には、すでに今話題のブロックチェーンが組み込まれたサービスも確立され、実用化されております。再エネを通じて、未来を創造する世界の力は素晴らしいといえます。

ただ、私が、ここで、声を大にして言いたいことは、未来の子供たちに綺麗な地球を残したいと心から願い、日々、再エネの関連職務に取り組んでいる新興勢力がある一方で、金儲け主義でメガソーラー発電所の乱開発を行っている企業や、再エネベンチャーへ入りこんでいる巨大資本側の存在が、いささか残念に感じてしまうわけです。

なぜならば、再エネの市場において、綺麗な地球を子供たちに残したいという信念のあるプレイヤーたちへ、(市場の)主導権のチェンジが起きにくいのではないだろうか? とも感じるからです。
過去に、原子力や火力で稼いで、資金を蓄えてきた各国の巨大資本側が、その豊富な資金力にものをいわせて、再エネのベンチャー企業に、またもや、唾をつけ出し始める。やがて、法律・規制・規格・個別ルールまでも、巨大資本側が作っていってしまうのではないのか? という懸念があります。

(次回に続きます)

参考文献

安達愼
安達愼

織物関係の町工場と着物販売会社のせがれ。子供のころから中小企業経営に興味。初アルバイトは5歳の時、亡父と数えた機械部品の袋詰め。大阪市立大学大学院経営学研究科修士取得。大学院時代にITベンチャーを起業し、IPOではなく、事業譲渡で完了。その後、上場企業数社のプロジェクトワークに参戦。海外駐在ベトナム、カナダ、フィリピン合計6年。 現役プロフェッショナルロングドライバー(ドラコンプロ)。元プロキックボクサー。 現在、afterFIT社でエネルギーシフト実現の夢を追いかけて素敵な仲間たちと挑戦中。一緒に活動をしてくださる方がいらっしゃれば、お声をかけていただきたいです。 afterFIT社は、高度技術者、工事専門家、ドローンパイロット、システムエンジニア、データ解析者まで、充実した自前体制を構築しております。ぜひ、賛同者、個人投資家、小中学校の先生、大学教授、エンジェル、ファンド、CVC、銀行···お声がけをいただければ幸いです。大歓迎いたします。一緒に、草の根レベルから、日本の再エネの明るい未来を創り出したいですね。

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