これだけは押さえておきたい エネルギー業界 2019年キーワード10 | EnergyShift

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これだけは押さえておきたい エネルギー業界 2019年キーワード10

これだけは押さえておきたい エネルギー業界 2019年キーワード10

EnergyShift編集部
2019年12月27日

2019年は卒FIT開始年ということもあり、エネルギーの世界でも大きなニュースが相継ぎました。今年最後の更新であるこの記事では、今年のエネルギー業界を代表する10のキーワードを編集部が選び、今年を振り返ります。これを読めば今年のエネルギー業界の話題がわかります。(順不同)

ブロックチェーン

ブロックチェーンとは、分散するコンピューターに暗号を組み合わせて取引データなどを記録する技術。仮想通貨に使われていることはよく知られているが、データが分散しているため、改竄が難しいという特質がある。そのため、高級食材などのトレーサビリティにも使われている。また、スマートコントラクトという自動契約のしくみを使うことで、P2Pのような多数が参加する取引が容易になる。
2019年は、実際にブロックチェーンを使ったサービスがリリースされる一方で、その限界も明らかになった1年だったのではないか。
代表的なサービスとして、みんな電力が開発した取引プラットフォームがある。これは、電源と電気のユーザーをマッチングさせるもの。同社の「顔の見える電気」をブロックチェーンで担保したといえるだろう。同様のサービスはエルデザインなども取り組んでいる。
とはいえ、ブロックチェーンは取引データが履歴が溜まるにつれて重くなっていくため、処理速度に時間がかかる。現状では、リアルタイムの電力P2P取引は難しいということもわかってきた。
2020年は、環境価値取引への本格的導入が期待される。RE100企業をはじめ、CO2排出削減のニーズが高まっている。これに呼応するように、デジタルグリッド社では環境価値を持つJ-クレジットの取引にブロックチェーンを導入した。環境価値を取引する場合、CO2削減のダブルカウント防止や削減方法の開示などが必要となり、ブロックチェーン技術に適している。リアルタイムな電力P2P取引はその先にあるだろう。(M)

ESG投資

ESG投資という言葉そのものは比較的新しい。環境、社会、ガバナンスに配慮した投資ということになる。これは、SRI(社会的責任投資)にまでさかのぼることができる。米国で90年代に年金基金のカルパース(カリフォルニア州職員退職年金基金(The California Public Employees' Retirement System))がSRIに舵をきったことで、大きく成長した。
年金のように長期的な運用が必要な基金の場合、短期的収益よりも持続可能な案件への投資、というロジックで、当初は武器やたばこ産業などへの投資が回避される、いわゆるネガティブスクリーニングが適応された。
その後、2006年に当時のアナン国連事務総長が機関投資家にESGを投資プロセスに組み入れる提唱をしたことがきっかけとなって、ESG投資とよばれるようになったという。SRI時代の日本の投資残高は欧米(それぞれ10兆ドルを超える)より二桁少ない5,000億ドル程度の規模だったが、近年は急速に拡大、2兆円を超える規模になっている。
ESG投資に関連してまっさきにやり玉にあがっているのが、石炭火力発電所をはじめとする化石燃料へのダイベストメントである。そもそも、化石燃料の大量消費は地球環境の持続可能に反するし、パリ協定におけるCO2削減目標を考慮すれば長期間の運転が難しい。
しかし、近年は金融機関がネガティブではなくポジティブに投資案件を選ぶ方向にある。例えば再エネ事業などに投資が集まるということだ。
ESG投資で留意されるのは、環境だけではない。社会的影響やガバナンスも評価される。言うまでもなく、ブラック企業は持続可能ではないという点で不適格だ。今後は、こうした点が注目されることも必要だろう。(M)

バッテリー(蓄電池)

太陽光発電や風力発電などの変動する再エネの拡大にともなって、蓄電池の役割が重要となってくることは、論を待たないだろう。とはいえ、リチウムイオン蓄電池はまだまだ価格が高い。
蓄電池の価格そのものは、少しずつ下がることが見込まれる。同時に、より充電密度が高いリチウムイオン全固体電池や、より安価なナトリウムイオン蓄電池などが商品化されることも期待されている。
しかし、下がるのを待っているだけでは普及は進まない。災害対策としての蓄電池導入も期待されている。実際に、蓄電池を販売する事業者によると、住宅用蓄電池が売れ始めているのも、卒FITだけではなく、停電対策に強いニーズがあるという。
また、蓄電池の効率的な運用も必要だ。変動する再エネの「しわ取り」のような、短時間での周波数安定化対策には蓄電池が必要だが、30分単位のDR(デマンドレスポンス)においては、蓄電池で対応するよりも、空調など設備運用で対応した方が効果的だろう。もっとも、短時間の対策が必要になるのはまだ先の話だろう。今は、再エネ発電側で「しわ取り」の実績を積む段階だ。
蓄電池のリソースとして期待されているものに、EV(電気自動車)がある。ただし、これも蓄電池がわりに使うとしても、V2H(EVから住宅への電力供給)に対応した設備が住宅用蓄電池並みの高価格なので、現状では普及は難しい。むしろ充電時刻の制御を通じて需給調整を行っていく技術が当面は必要だろう。(M)

Tesla Powerwall

PPA

ポストFITの太陽光発電事業として急速に進んでいるのが、PPA(電力販売契約)事業である。日本では需要家の屋根上に設置し、電気を供給する第三者保有サービスの形が一般的となっている。
需要側にとっては、電力会社から買う電気よりも安く、CO2削減にもなる。供給側にとっては、託送料金も賦課金も支払う必要がないので、FITの売電価格よりも高く売れる。こうした双方にメリットがあることが、PPAの魅力だ。アイ・グリッド・ソリューションズのように、すでにスーパーなどで200件以上受注している事業者もある。
だが、現在のPPAには課題もある。屋根に乗せられる太陽光発電には限りがあるし、そもそも屋根の強度から設置できないこともある。また、屋根上設置や建物と一体化しているため、抵当権を設定できないというファイナンス上の課題もある。そこで、近隣の土地に太陽光発電を設置し、自営線で供給するようなPPAの計画もある。
PPAの本命は、離れた場所に大規模な再エネ発電所を設置し、送電線を通じて供給するしくみで、欧米ではこの方式が一般的だ。Googleなどもこうした形で再エネを利用している。
問題は、同じ仕組みが日本でも可能なのかどうかだ。すでに多くの事業者が検討に入っているが、託送料金や需給管理が必要なため屋根上モデルよりもコストがかかる。
しかし、使う送電線は特定されるので、個別の見積もりは可能だろう。潮流に合わせて個別の料金設定も可能だ。屋根上PPAといえども、再エネの拡大は需給に影響を与える。その対策も含め、PPA事業者と送配電事業者の協力がこれからさらに必要になってくるだろう。(M)

FIP制度

2019年は、FIT制度の抜本見直しの骨格がほぼ決まった年である。
コスト低減が進む太陽光発電や風力発電は「競争電源」と位置づけられ、電力市場への統合を目指す。2021年4月をめどに、FITから市場価格+プレミアム価格で買い取るFIP(Feed in Premium:フィード・イン・プレミアム)制度に移行する。さらに一般送配電事業者による買取義務を廃止。卸売市場への売買を義務づけ、インバランスリスクを負う仕組みも導入される。
しかし、固定型FIP+変動型FIPというハイブリッド型の導入こそ決まったものの、プレミアム価格がいくらになるのか、インバランス負担軽減のための経過措置の中身など、詳細な議論は2020年に持ち越されたままだ。
また、地域との共生を図り導入を促す「地域活用電源」にはFITが残るが、どの電源種・規模が対象となるのか、こちらも見通せない。国民負担の抑制と再エネの主力電源化に向けた抜本見直し議論は、まだまだ道半ばの状況だ。(F)

環境価値

2020年度から「非FIT非化石証書」の取引が始まる。卒FITなどFIT適用外の再エネが持つ環境価値を証書化したもので、RE100などを目指す企業の再エネ比率の向上に資するのか、注目されている。
環境価値には、J-クレジット、グリーン電力証書、FIT非化石証書の3種類がある。だが、証書価格が安いJ-クレジットの年間供給量は約6億kWh、グリーン電力証書は約3億kWhと供給量に限界がある。
一方、2018年から取引がスタートしたFIT非化石証書は、年間供給量が約700億kWhともっとも多いが、下限価格に1.3円/kWhが設定されており高い(他には下限設定なし)。2018年度の約定量は0.04%と、ほとんどが売れ残った。
安価な環境価値が少ないなか、2020年度から非FIT非化石証書の取引が加わる。非FIT非化石証書には下限価格が設定されず、1.3円を下回る可能性が高い。ただ卒FITが中心となるため、どれだけ供給量を確保できるかが課題だ。(F)

J−クレジットウェブサイトより

発送電分離

2020年4月、発送電分離(送配電部門の法的分離)が実施される。
旧一般電気事業者が発電・送配電・小売部門すべてを独占し続ければ、中立性が損なわれるのではないかと懸念されてきた。例えば自社発電所の系統接続を優先させる、託送制度が適用されない、送配電事業で知りえた情報を自社営業に目的外利用する、などだ。
そこで旧一電から送配電部門を分社化させ、再生可能エネルギー事業者など誰でも自由に送配電網の利用ができるようにする。送配電部門の中立性を高め、懸念を払拭させることが狙いだ。
今後、電力送電網はさらなる安定供給に向け、全国規模での利用が進み、広域化していく。一方、太陽光発電やEVなど、分散型電源が増加する配電網は分散化・オフグリッド化が進む見込みだ。そうした送電・配電の機能分化が明確になるなか、配電事業の免許制導入の議論が2019年に始まった。また、送配電網の適切な投資を促すため、託送料金制度の改革も進んでいる。(F)

洋上風力

洋上風力発電も大きな動きを見せた。そのひとつが10月に閣議決定された「港湾法の一部を改正する法律案」*だ。
これは、国が洋上風力発電設備の基地となる港湾・埠頭を発電業者に長期間貸し付ける制度。国からの認定で占用計画の認定期間も20年から30年に延長された。これにより、大型洋上風力発電の計画が立てやすくなり、導入促進が見込まれる。
この制度が適用されるのは、再エネ海域利用法の促進地域指定の港湾に限られる。指定に有望な区域とされているのは青森県の日本海側、秋田県、長崎県など11区域**となっており、風況が良い東北地方が11件中8件を占めている。
浮体型洋上風力発電も本格稼働し、洋上風力発電は再エネの一つの大きな柱として育ちそうだ。(I)

国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構ウェブサイトより

グレタさんと若い力

今年はまさにグレタイヤーだった。欧米では2018年から注目されていたグレタ・トゥーンベリさんだが、日本にもその名が大きく報道された。米TIMES誌では「今年のひと」に選ばれた。9月と11月のCOPへのプレッシャーを目的にした「気候変動ストライキ」も世界規模で行われた。
グレタさんに関しては、他のメディアでも紹介されるだろうからそちらを参照いただくとして、ここでは、いくつか見過ごされそうな点に言及しておく。
一つは、グレタさんは一人ではないということ。決して彼女ひとりの主張ではなく、次世代の声になっている点。これだけ大きな影響力があったということは、これだけ大きな危機感を世界中の次世代が持っているということを、改めて示している。
もう一つは、彼女の正直さについて。彼女には嘘はない。嘘がないというのがこれほど力を持ち、これほど新しく見えるのか、旧世代に属する筆者にも新鮮な驚きである。その場しのぎの嘘をつき、苦しい言い訳に終始する古い世代には未来がない。
さらに特筆すべきはユーモアだ。トランプやプーチンに否定的に、小馬鹿にされるたびに彼女はユーモアでそれを乗り越えていく。いくら彼女の揚げ足をとったり、冷笑したりしてもこの正直さとユーモアには勝てない。
デモ、ストライキといったオルタナティブな民主主義の行動を世界中に再認識させたことも称賛に値する。しなやかで、力強い言動は2020年も次のグレタさんを産み続けるだろう。私たち古い世代でもグレタになれること、多数のグレタを支援できることを忘れてはならない。(K)

ACES

EVで注目された新しい用語である。AはAutonomous=自動運転。CはConnected=接続。Eはもちろん、Electric=電化。SはSharing=シェア。日本ではCASEと言われているが、米国のACES(エースたち)の方がちょっとかっこいい。Aの自動運転は米国では一般道路でテスト中だ。自動運転のレベルは0から5まであり、レベル2までは運転支援、レベル3からは自動運転となる。レベル5ではハンドルもアクセルも不要になるが、さすがにそこはまだまだ難しい。BMWでは2021年にレベル3、4の実現が目標としている。コネクテッドのCは、普及が加速する5Gと共に、対車、対歩行者などのセンサー、対ネット、対運転者など、車と人とネットがより密接になるだろう。EのElectricは、今年のフランクフルトモーターショーでのドイツ勢の本気を見るまでもなく、すべての車は電化へ加速している。バッテリー技術もご存知のように高く注目されている。Sのシェアリングは、車の共有サービスの充実だ。すでに既存のサービスだが新たな付加価値を加えることで、世界の車の台数を減らすことができるかもしれない。日本は後塵を拝しているが、企業の課題というよりも、日本社会がこれらのサービス・技術を求めているかどうかの問題でもある。(K)

2020年はどうなる?

ここに掲げたキーワードはエネルギー業界全体でみれば、ほんの一部。2020年もエネルギー業界はますますの激動が予想されます。EnergyShiftでは、エネルギーとビジネスの情報をどこよりも詳しく、ビジネスに役にたち、さらには面白い記事をお届けすべく、尽力してまいります。EnergyShiftを来年もぜひよろしくお願いいたします。

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