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洋上風力発電 日本の本当のポテンシャルと開発競争の行方は

2021年10月22日

海底ケーブルでも開発競争

もうひとつ、洋上風力発電の要素技術として重要なのがケーブルだ。こちらは浮体式だけではなく、着床式にも関わってくる。欧州ではケーブル敷設時の事故の割合が多く、ケーブル損傷は洋上風力発電の大きなリスク要因となっている。一方で国内ケーブルメーカーは世界シェアが高く、英国の技術開発コンペにも参加している。

最近話題となった英国の大規模洋上風力ファーム、ドッガーバンクの洋上風力発電所は陸地から130km離れている。また、日本にも洋上風力発電を海底ケーブルで結ぶいわゆる「スーパーグリッド構想」がある。

大型風車に対応できる66kVを超える高電圧の送電ケーブルの技術開発も世界で進む。浮体式ではダイナミックアレイケーブル(海中に浮遊しながら潮の流れなどにも耐性があるケーブル)の開発が進んでいる。将来的には220kV高圧ダイナミックケーブルが期待されているが重く、硬くなるため耐性にまだ問題がある。

もうひとつの課題 日本型セントラル方式

日本における洋上風力発電開発において、技術面ではない大きな課題は候補地の選定だ。

政府はこれを日本版セントラル方式で解決を図ろうとしている。セントラル方式とは、国が開発調査や系統協議などをおこなう方式。複数事業者は入札で買取価格を決め、全体の導入コストを低くすることが狙い。つまり、国が率先して洋上風力の案件形成を促進する。

今年8月にはその第一段階である調査をおこなう地域を決めた。「洋上風力の地域一体的開発に向けた調査研究事業」で、NEDOが調査事業者に調査を委託する。

今年5月の候補地域受付期間には都道府県から9海域、事業者から19海域の情報提供がそれぞれあった。今回決まった3海域は以下の通り。

  • 北海道岩宇及び南後志地区沖(着床式)
  • 山形県酒田市沖(着床式)
  • 岩手県洋野町沖(浮体式)

今後、風況調査、海底地盤・気象海象、環境影響評価(アセス)のうち、初期段階で事業者が共通しておこなう項目、漁業実態の4つの調査をおこなう。

こうした日本版セントラル方式がうまく機能することで、国による導入牽引が進むだろう。それに応じて入札をおこなっていくなどのやり方はある。


出典:再エネ等に関する規制等の総点検タスクフォース

洋上風力発電のポテンシャルを引き出せ

 洋上風力発電のポテンシャルは、1にその発電量、そして開発競争に勝った際の経済波及効果がともにある。

開発競争と導入は電力業界の雇用にもからんでくる。洋上風力発電の部品量は1〜2万点、さらに港湾の整備やO&Mなどの雇用も生む。部品メーカー、風車メーカー、建設業者はそれぞれ導入増による事業拡大を見込む。

先頃JREの買収で話題になったENEOSも洋上風力案件を多く持つ。JREは秋田市能代市沖、長崎県西海市江島沖、北海道石狩市沖で3事業のアセスを進めている。一方、戸田建設の五島市の洋上風力にはENEOSとしてコンソーシアムに参加している。

日本の洋上風力は、導入ポテンシャルは相当なものだが、これまで日本の開発は後れを取っていた。

法的処理の問題は再エネ海域利用法で、漁業を含む地域理解は日本型セントラル方式で、他に技術への投資などが課題だったが、それぞれ一定の解決を見いだしている。

2021年10月20日、経済産業省の総合資源エネルギー調査会の第4次中間整理でも洋上風力の競争力強化は、前政権から変わらないことが確認された。まずは、2030年、洋上風力10GW導入を目指す。

2040年への政府目標の達成ができるかどうかは、日本の洋上風力のポテンシャルをどれだけ引き出せるかにかかっている。それには国の大胆な施策も必須だ。

ポテンシャルはある。あとは、どう引き出すかだ。

 

Offshore Wind Technical Potential in Japan GWEC
https://gwec.net/wp-content/uploads/2021/06/Japan_Offshore-Wind-Technical-Potential_GWEC-OREAC.pdf
GLOBAL OFFSHORE WIND REPORT 2021 GWEC
https://gwec.net/global-offshore-wind-report-2021/
GWEC | GLOBAL WIND REPORT 2021
https://gwec.net/global-wind-report-2021/
「日本の洋上風力は全電力需要の8倍を発電可能」と世界風力会議 日経クロステック 2021年10月19日
https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/00001/06155/
洋上風力の産業競争力強化に向けた官民協議会 第1回会合 洋上風力の主力電源化を目指して 日本風力発電協会
2020年末日本の風力発電の累積導入量:443.9万kW、2,554基 2021年2月12日 日本風力発電協会
http://log.jwpa.jp/content/0000289778.html
2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略 令和3年6月18日 経済産業省
https://www.meti.go.jp/press/2021/06/20210618005/20210618005-4.pdf
洋上風力の産業競争力強化に向けて 令和2年7月17日 経済産業省 国土交通省
https://www.meti.go.jp/shingikai/energy_environment/yojo_furyoku/pdf/001_03_00.pdf
洋上風力の産業競争力強化に向けた技術開発ロードマップ 洋上風力の産業競争力強化に向けた官民協議会 NEDO 2021年4月1日
https://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/saiene/yojo_furyoku/dl/roadmap/roadmap20210401.pdf
洋上風力産業ビジョン  (第1次)
https://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/saiene/yojo_furyoku/dl/vision/vision_first.pdf
「洋上風力発電の低コスト化」プロジェクトの研究開発・社会実装計画(案)の概要 資源エネルギー庁
https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/green_innovation/green_power/pdf/001_04_00.pdf
長崎県五島市沖における洋上風力発電事業者の選定について 経済産業省
https://www.meti.go.jp/press/2021/06/20210611004/20210611004.html
World’s Largest Floating Offshore Wind Farm Fully Operational
https://www.offshorewind.biz/2021/10/19/worlds-largest-floating-offshore-wind-farm-fully-operational/
日本の浮体式洋上風力発電に対する期待と展望 浮体式洋上風力発電推進懇談会
https://www.toda.co.jp/assets/pdf/fowvs_j.pdf
欧州で加速する浮体式洋上風力の商用化に向けた動き 三井物産戦略研究所
https://www.mitsui.com/mgssi/ja/report/detail/__icsFiles/afieldfile/2021/07/13/2107t_zhao.pdf
環境省 令和元年度再生可能エネルギーに関するゾーニング基礎情報等の整備・公開等に関する委託業務報告書
https://www.renewable-energy-potential.env.go.jp/RenewableEnergy/report/r01.html

小森岳史
小森岳史

EnergyShift編集部 気候変動、環境活動、サステナビリティ、科学技術等を担当。

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