ロシアによる領空侵犯 その裏側から、なぜ脱炭素が重要なのかを紐解く | EnergyShift

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ロシアによる領空侵犯 その裏側から、なぜ脱炭素が重要なのかを紐解く

ロシアによる領空侵犯 その裏側から、なぜ脱炭素が重要なのかを紐解く

2021/09/13

9月12日、防衛省はロシアの航空機が日本領空を侵犯したと発表した。実は、ロシアによる領空侵犯は安全保障上の懸念だけでなく、脱炭素にも関わる論点がある。脱炭素がいかに環境や経済だけにとどまらない論点であるのか。ゆーだいこと前田雄大が解説する。

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なぜ、ロシアは領空侵犯したのか

今回は、ロシアの領空侵犯について解説した上で、脱炭素の観点から次の2点を論じていきたい。

  1. なぜこのようなことが起きるのか、どういう事態が最悪想定されるのか
  2. 脱炭素のもつ大きな意義、特に脱炭素はロシア対策にもつながる

まずは、ロシアの領空侵犯について解説していこう。

今回のニュースは、かなり深刻だ。

防衛省は9月12日、北海道知床岬沖でロシアの航空機An26が2回、領空侵犯したと発表した。

領空侵犯やその懸念があるときは、自衛隊が出動する。空での侵犯であるため、航空自衛隊が出動するわけだが、その出動を、日本語では緊急発進、横文字でスクランブルと言う。そうやって、航空自衛隊は国を守ってくれている。

今回ももちろん、航空自衛隊の戦闘機がスクランブルして対応した。

こうしたスクランブルは、非常に緊迫する。もしかしたら、向こうから撃たれるかもしれない。その観点では、2018年12月、韓国海軍艦艇が、日本側の警告に対して火器管制レーダーを照射したという言語道断な事件があったが、実際に照射を受けたパイロットは相当プレッシャーがかかっただろう。命がかかっている中、「これから撃つよ」というような形になったわけだからだ。

あのときの映像はネットに広く出ており、いかに日本のパイロットが優秀で、冷静に対応したかがよく分かる。もし見たことがない人がいれば、ぜひご覧いただきたい。

そうした緊迫する行為のスクランブル、それを9月12日、日本側もロシアの領空侵犯に対して実施した。そして、ロシア側に対して、通告や警告を実施したものの、午前9時37分ごろと同58分ごろの2回にわたって、ロシア側が領空を侵犯した。

近くを通るだけでもスクランブルするわけだが、領空に入ってくる、これは本当にありえない話だ。今回、防衛省は相手側の機体写真も公表した。


出典:防衛省

領空侵犯したのはAn26という機体で、用途は、主に輸送に使われることが多い。もちろん、戦闘メインではなくて、輸送だからいいというわけではない。領空は意図的にしか基本、侵犯しないので、ロシアが意図的に「国際法で守られている日本のテリトリーに不法に侵入した」ということになる。

今回に関しては、民間機の可能性もあり、防衛省が飛行の意図などを分析しているとのことだが、どうなのだろうか。なんといっても警告をしても2回、入って来ている。

実は、2020年にもロシアは領空侵犯している。昨年10月にロシアのMi8ヘリが同じ知床岬沖を飛んで以来の領空侵犯となる。どれだけやっているんだという話だ。

こうしたこともあって、実は、防衛省は、ロシアの活発な軍事動向を踏まえ、北方方面の警戒体制を強化しているところだった。

中国の脅威は良く耳にされると思う。実際、中国は近年、軍備強化を急速に進めており、沖縄県・尖閣諸島周辺の領海侵入が常態化している状態だ。こうしたこともあり、与那国島や宮古島、石垣島といった南西諸島に拠点を整備するなど、「南西シフト」を進めてきた。

そんな中、無視できないのがロシアだ。ロシアの軍事活動も非常に活発化している。

さきほどスクランブルの話に触れたが、このスクランブル、統計によれば、2020年度に725回、航空自衛隊は行っている。このうち、1位は中国の458回。毎日1回以上はスクランブルしている計算だ。次いで多いのが、ロシアで258回。

どれだけ中露、やっているんだという話だ。

しかも、6月23日には、ロシア軍が北方領土で軍事演習も実施しており、ロシアは、かなり圧力を高めてきている。もちろん、定期的にこうして圧力を高めては、という行動を繰り返してきたわけだが。

こうしたこともあって、防衛省は今年度、電子戦部隊を北海道の留萌市(るもいし)にある陸上自衛隊の駐屯地に新設するなど、ロシア警戒の体制整備を急ぐ方針を示していた。

西も北も警戒しなければいけないという状況だ。

では、ロシアの狙いはどこにあるのか。次に、なぜこのようなことが起きるのか、どういう事態が最悪想定されるのかについて解説していきたい。

ロシアの狙いはどこにあるのか

領空侵犯は、もちろん挑発の意図があるが、日本の力をはかっているというのが本当のところだ。

つまり、どれくらいの速さでスクランブルしてくるのか、パイロットの操縦能力はどうか、こうした点から日本の実力をはかっている。

ただ、こうした実力測定は、領空侵犯までしなくとも、スクランブルさせさえすれば見えてくる。

領空侵犯をするのは、どこまでの挑発なら、日本は反撃してこないのか、その線引きをしている、と見ていいだろう。

なぜ、そんなことをするのか。実力をはかりながら、そうした線引きをしつつ、いけそうだったら、仕掛けるつもりだからだ。

特に日本がかなり中国に力を注がないといけない現状をロシアも熟知しているわけで、リソースを北の方に割けなくなったというようなことがあれば、いつでも、仕掛けられるようにしておきたい。

ここに関しては、「実際に仕掛けてくるわけないじゃない」という人もいると思うが、正直、その見立ては甘いと、元外交官の筆者としては、断言したい。

現状、本当に気をつけなければいけないのは、ロシアである。なぜなら直近で、国境線を変える試みをしたのがロシアだからだ。

2014年に、何が起きたか覚えているだろうか。

日本を取り巻く周辺環境のことではなかったため、あまり覚えていないかもしれない。例えば、先日の9月11日は、9.11から20年が経った節目の日だった。同盟国のアメリカで起きたこと、また、そこからテロとの戦いがあったという意味でも、多くの人々の記憶に残っているだろう。

ただ、国際社会を揺るがす大きな出来事であったという意味では、2014年にロシアが国際法的にも正式にウクライナの領土であったクリミアを併合した事件は非常に大きい。

もちろん、クリミア内部で政変があり、それらを端緒にということではあるが、事実として、プーチン大統領はロシア系住民の保護を理由に、ウクライナへのロシア軍投入の承認を議会に求め、これを取り付け、武力介入。そしてクリミアを実効支配し、併合を宣言した。

ウクライナの状況を、日本の例で、例えるならば、ロシアが北海道に武力侵入してきて、併合する、そのような話となる。もちろん、ウクライナと日本の置かれた状況は全く異なる。クリミアに歴史的経緯もあることも事実で、単純な比較はできない。

ただ、例えばロシアは、シリアにも介入をしている。そういう国でもある。手段は問わない。国際社会はもちろん、事前に、クリミアがロシアに併合されるなど予想していなかった。こうした事態はあるとき、突然に起こる。

こちらが隙を見せたら、仕掛けてくる、そういう隣国である、という認識を日本国民は持つべきではないか。

そんな相手が北に、そして、西に中国がいる、そういう地政学的ポジションに日本はある。

その隙をいつもロシアはチェックしに来ている。領空侵犯の気配を見せながら、日本の武力状態をチェックする。毎日に近い頻度でそれを行って、日本の自衛隊がずっと緊張した状態を作り、その中で隙が出ないか、うかがっている。

もちろん、もっと専門的な意図もあるだろう。

そして、それに付き合わされながら、日本の航空自衛隊は、毎回、有事が起こるかもしれないという緊張の中、日本を守っている。

さて、その中で、なぜ、実際の領空侵犯をしてくるのか。それも様々な意図があると思われる。先述したように、線引きもあるだろう。

しかし、実際に、領空侵犯をするときは、たいてい、ロシアが日本と何か政治的な駆け引きをしたいときだ。

こうした北にある脅威という論点を見せながら、それをカードに、日本から何か取れたらいい、このように考えているのがロシアだ。

例えば、菅総理は9月下旬に訪米する予定だが、日米協力の強化で何かロシアで嫌な論点がある。あるいは、ロシアが日本を揺さぶるといえば、経済面だ。なにか経済的に困ったことがロシアにはあり、日本を金づるにしたてあげ、何か経済的なインセンティブを引き出したい、そうした思惑がある。

こうしたことが、外交交渉の要素、駆け引きにもなってきている。

さて、ここまでロシアによる領空侵犯および、その脅威を中心に解説してきたが、脱炭素の何が関係するのか、まだはっきりとは見えてこないだろう。それでは、外交官であった筆者がなぜ、ここまで脱炭素を重視するようになったのか。

一つは、もちろん、経済的覇権争いの観点がある。しかし、もう一つが脱炭素のもつ大きな意義、特にロシア対策にもなる、という点について解説をしていきたい。

なぜ、脱炭素がロシア対策になるのか

ロシアが仕掛けてきているといった。スクランブルするにも、また、電子戦部隊の増強などをするにも、防衛費がかかる。

そして、自衛隊員の人数も、そして質も重要になる。しかし、日本の国力はいま下がってきているフェーズだ。労働人口も減ってきており、それはいずれ、自衛隊員の人数にも、そして質にも影響を及ぼすだろう。

その辺りをロシアは、ずっとうかがっている。

そうした観点からも国力の維持、というのは非常に重要だ。その観点で、経済的覇権争いから日本が置いて行かれたらどうなるのか、国力の維持という観点から脱炭素は繋がっている。

しかし、実は、この論点はロシアも同じだ。ロシアも国力が弱まれば、死活問題になる。そして、経済が傾いたとき、ロシアは如実に弱くなる、ということは歴史が示している。

さて、いまのロシアの収入源は何か。ロシアは産業基盤がものすごく脆弱な国だ。国内経済を潤しているのは、石油・天然ガスなどの資源である。

この図を見てほしい。


出典:経済産業省

鉱物性燃料が圧倒的なのが分かる。

つまり、脱炭素の影響を、ロシアはもろに受ける国だ、ということだ。日本の比ではない。今年5月、国際エネルギー機関(IEA)が出したレポートを解説したが、そのレポートには衝撃的な「もう化石燃料セクターは儲からなくなる」という予測があり、ロシアに直撃するといってもいいだろう。

脱炭素が進展した先に、ロシアの経済基盤の弱体化があるということだ。

ロシアが経済的に最も困窮した時期に何があったか。当時のエリツィン大統領が、何の話を日本に持ち掛けてきたか。記憶にある人もいるかもしれない。北方領土が最も返還の可能性が高かった、あの時期に、ロシアは何に困っていたか。

筆者もずっとそこを、外交官として、忘れていない。

ロシアの脅威、クリミアの二の舞を防ぐのは、何も積極的な自衛能力の強化だけではない。なにも直接的なアプローチだけがアプローチではない、そう考えている。

脱炭素を本格的に仕掛けることができれば、産業基盤のないロシアは、必ず窮地に陥る。それは日本にとっての脅威を減らすのみならず、日本がカードを持つ、そういう展開になる。

脱炭素の潮流の中、様々な国がカーボンニュートラル宣言をしている。しかし、そこに隠れて、ロシアはしていない。否、できるわけがない。先述したような経済モデルである限り。

そして、ロシアがいま、領空侵犯を仕掛けてきているのは、ロシアが何か困ってきているからかもしれないと述べた。ロシアの最大の貿易相手は中国だ。そして、その中国はいま、何に力を入れているか。それは、2060年カーボンニュートラルを掲げた脱炭素である。世界トップのシェアをとった太陽光パネルを引っ下げ、そして、風力もいれながら、ここのボリュームを一気に増やしに来ている。

車についても新エネルギー車というカテゴリーを作り、2035年新車電動化を打ち出し、そして、いま世界最大のEV市場となっている、それが中国だ。

それはつまり、ロシアから購入しているもの、それに依存する比率がこれから減っていくことを意味している。

中国がなぜ、脱炭素をやるのか。もちろん、経済的覇権もある。しかし、念願のエネルギー自給率が上がる、それは国家安全保障にもつながる。自国で自給できるエネルギーを確保できれば、外部依存性が減る。

そして、それはまったく同じことが日本にも当てはまる。この脱炭素時代の中で、ここで奮起をして、日本の再エネ比率が高まり、そして、その不安定さをバッテリーや、水素などを駆使しながら、克服した、その先には、国際的な覇権争いでの勝ち残りも、エネルギー自給という観点での外部依存性の低下も、それからいま説明したようなロジックでの安全保障上のメリットも、様々出てくる。

脱炭素というものが、多面的に見えてきたのではないだろうか。と同時に、なぜ世界各国がこんなにも脱炭素というのかも。特に環境などに一見、興味がなさそうな中国が脱炭素の御旗をあげたのかも。

だからこそ、脱炭素が重要である、国益である、そう思い、筆者は、外交よりも自分自身が日本で追求して貢献するべき論点だと思っている。

色々な考えがあるだろう。ただ、少しでも共感していただけるのなら、ぜひ取組みを進めてほしい。一緒にこの国を、守っていきたい。

今回は、ロシアのニュースを取り上げた。最後は脱炭素の論点になったが、忘れてはならないのは、今日、この瞬間も、どこかで日本の自衛隊はスクランブルをしているかもしれないということだ。

アメフトの選抜で一緒だった防衛大学の友人は、航空自衛隊でパイロットになり、日本の空を守ってくれている。そういう人がいて、われわれの知らないところで日本を守ってくれているから、いまの平和な暮らしがある。

そこをぜひ多くの人々にも認識していただければと思う。

今回はこの一言でまとめたいと思う。
『日本はみんなで守っていくものだ』

前田雄大
前田雄大

YouTubeチャンネルはこちら→ https://www.youtube.com/channel/UCpRy1jSzRpfPuW3-50SxQIg 講演・出演依頼はこちら→ https://energy-shift.com/contact 2007年外務省入省。入省後、開発協力、原子力、官房業務等を経験した後、2017年から2019年までの間に気候変動を担当し、G20大阪サミットにおける気候変動部分の首脳宣言の起草、各国調整を担い、宣言の採択に大きく貢献。また、パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略をはじめとする各種国家戦略の調整も担当。 こうした外交の現場を通じ、国際的な気候変動・エネルギーに関するダイナミズムを実感するとともに、日本がその潮流に置いていかれるのではないかとの危機感から、自らの手で日本のエネルギーシフトを実現すべく、afterFIT社へ入社。また、日本経済研究センターと日本経済新聞社が共同で立ち上げた中堅・若手世代による政策提言機関である富士山会合ヤング・フォーラムのフェローとしても現在活動中。 プライベートでは、アメリカ留学時代にはアメリカを深く知るべく米国50州すべてを踏破する行動派。座右の銘は「おもしろくこともなき世をおもしろく」。週末は群馬県の自宅(ルーフトップはもちろん太陽光)で有機栽培に勤しんでいる自然派でもある。学生時代は東京大学warriorsのディフェンスラインマンとして甲子園ボール出場を目指して日々邁進。その時は夢叶わずも、いまは、afterFITから日本社会を下支えるべく邁進し、今度こそ渾身のタッチダウンを決めると意気込んでいる。