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強烈な寒波による電力需要の増加、天候不順による太陽光発電の発電量低下、そしてLNG(液化天然ガス)の在庫減少によるガス火力発電の一部稼働抑制によって、日本卸電力取引所(JEPX)の取引価格が異例の高騰を続けている。市場価格に連動する料金プランを契約する利用者の電気料金が10倍に跳ね上がる可能性もあり、提供する新電力たちは対応に苦慮している。
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全国的な電力需給のひっ迫によって、2020年12月下旬以降、3週間にわたってJEPXのスポット価格が異例の高騰を続けている。
2021年1月に入ると、一日平均でkWhあたり100円を超えた。13日には一時、251円/kWhという最高値を記録。市場価格は落ち着く気配がない。一日平均100円/kWhの価格は、今の制度がはじまった2005年の取引開始以来、初めてのことだ。
直近の電力需要を見ると、例年に比べて約1割増加している。
大手電力各社は10年に一度程度に起きる厳しい寒さを想定したうえで、最大需要を見込んでいるが、1月8日は東北、中部、北陸、関西、中国、四国、九州7エリアで厳寒想定を上回る最大需要を記録した。1月12日には、中部、関西2エリアで最大需要を上回る。
日別電力量の推移(沖縄エリア除く)
資源エネルギー庁 電力需給の状況について 2021年1月13日
このような想定を超える電力需要に対し、電力各社は老朽火力も含めたあらゆる発電所をフル稼働させている。
経済産業省では、ガス会社に対し、LNG在庫の減少といった燃料制約を抱える電力会社に余剰在庫を融通するよう要請。電力広域的運営推進機関(OCCTO)は、全国の発電事業者に対し、発電設備の最大出力運転を指示するとともに、連日、大手電力会社間での電力融通を指示してきた。
1月14日になると、ようやく寒気は緩やかになり電力需要は落ち着きつつあるが、スポット価格は高騰したままだ。
JEPX スポット市場 ─ 2021年1月15日受渡分の取引情報(1月14日20時キャプチャ)
市場価格の高騰を受け、市場価格に連動する料金プランを契約する一般消費者の間で、混乱が生じている。SNS上では、「このまま市場連動型プランを契約し続けると、2021年1月の電気料金が10倍に跳ね上がってしまう」といったコメントがあふれ、市場連動型プランの切り替えを急ぐ消費者が多数いる模様だ。
電力・ガス比較サイト「エネチェンジ」は1月13日、プレスリリースを発表。その中で、一部新電力が提供する市場連動型プランに関する相談件数が平常時の約3倍を超え、切り替え件数は前年同期比で3倍以上にまで増加しているという。
エネチェンジによると、「市場連動型プランを契約した想定件数は約80万件であり、市場価格の高騰影響を受ける可能性がある人は、全体の1.86%」だとし、「新電力の料金プランで契約する大多数は、電力取引価格高騰の影響はない」という。しかし、「自分の電力プランが市場連動型プランに該当するのかわからないという問い合わせ」も増えており、市場連動型プランの解説ならびに各社の対応策を紹介している。
市場連動型プランには下記の2種類がある。
①燃料調整費型
②従量料金型
まず①の燃料調整費型は、基本料金や従量料金ではなく、燃料調整費にJEPX価格が大きく変動した際の独自調整項目として「調達調整費」を加減し、電源調達調整費として算出するプランとなる。
提供する主な新電力は、ハルエネでんき「シンプルプランHプラス」、エフエネでんき「基本プランB」など。
一方、②の従量料金型は、JEPX価格に連動して30分ごとの従量単価が変動し、従量料金を算出するプランとなる。
これを提供する主な新電力は、自然電力のでんき「SEデビュープラン」、エルピオでんき「市場連動型プラン」、ダイレクトパワー「ダイレクトSプラン」、ジニーエナジー「みどりプラン」、テラエナジーなどだ。
エネチェンジによると、「燃料調整費型は従量料金ではなく、電源調達調整費に組み込まれるため、「市場連動」と明記がないことが多い。そのため、市場連動型プランと認識しづらく、注意が必要だ」と呼びかけている。
一般消費者の混乱を避けるため、市場連動型プランを提供する新電力各社は、さまざまな救済措置を講じている。
例えばエルピオでんきを提供するエルピオは、市場連動プランから他のプランへ、緊急のプラン変更の受付を始めている。
自然電力は1月11日に、30,000円を上限として電気料金を値引きし、さらに事業運営費をゼロにする取り組みを発表した。その中で、「1月中は市場価格高騰の状況が継続する可能性が高く、また、2月以降も、余談を許さない状況」だとしたうえで、「この度の価格高騰によりご面倒、ご迷惑をおかけする事態となりましたことを真摯に受け止め、市場調達に頼らない電源調達体制の構築を急ぎ進めております」と述べる。
さらに、「新しい電力会社への切り替えを検討される際、このたびの市場価格高騰による影響があるかについては、切り替え先の電力会社に問い合わせください」とし、解約を受け入れる姿勢を鮮明にしている。
ダイレクトパワーも解約手数料2,000円(税別)を無料とし、他の電力会社への切り替えを案内している。
このように、新電力各社は対応に苦慮しているのが現状だ。
スポット価格の異常な高騰は、自社電源を持たない新電力各社の利益をも毀損している。この状態が2月まで続けば、撤退・倒産という深刻な状況に陥りかねず、経済産業省・資源エネルギー庁も対応を迫られている。
2021年1月13日に開催された、経済産業省の再生可能エネルギー大量導入・次世代電力ネットワーク小委員会(第23回)/ 再生可能エネルギー主力電源化制度改革小委員会(第11回)合同会議において、電力需給の状況が議論された。
岩船由美子 東京大学生産技術研究所 特任教授は、「市場連動型プランを契約する需要家にとって、市場価格が200円/kWhレベルになると、電気料金が10倍くらい上昇してしまう。契約件数は80万件とも言われており、大手の電力比較サイトが一時、安い料金メニューとして上位掲載したこともあり、内容をよく理解せずに、電気料金が安くなると思って契約した人もいるだろう。
かつ、今の電力ひっ迫の状況を知らず、1月の電気料金が昨年12月の10倍になってしまった、ということが実際、起こりうる。こうした事態が起こらないよう、エネ庁などは早期にアナウンスするべきだ」と述べた。
そのうえで、「今回の電力ひっ迫によって、2050年カーボンニュートラル実現に向け、今後進めていくべき電化や、ダイナミックプライシングによる電力需要の調整などに対し、ブレーキがかかってしまわないか懸念している。今回の事態をしっかり振り返るとともに、長期的なリスクヘッジについても議論すべき」だと語った。
また、オブザーバー参加した新電力大手のエネットは、「現在の市場価格は、連日、広域融通を要請されている状況の中、数少ない売り札を、供給力確保義務を求められる買い手が競って購入し、想定しえないような高騰した価格が3週間以上も継続している。異例の状況だ。特に自社電源が少ない新電力の利益を大きく毀損し、事業継続にかかわる深刻な状況に陥っている。
このような制約がかかった状況にある市場取引に対する速やかな措置、あるいはインバランスの精算方法について、単なる厳気象だけではない、今回の本質的な要因をしっかり分析したうえで、合理的な仕組みを検討し、適応するよう、強く要望する」と述べた。
エネ庁事務局は、「新電力中心に意見をヒアリングし、検討する」と述べたが、市場価格の高騰は3週間続いている。利益を毀損する新電力たちに経営的な余裕はなく、早期の対応が求められている。
(Text:藤村朋弘)
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参照
経済産業省 再生可能エネルギー大量導入・次世代電力ネットワーク小委員会(第23回)/ 再生可能エネルギー主力電源化制度改革小委員会(第11回)合同会議
梶山経済産業大臣の閣議後記者会見の概要(1月8日)
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