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エナリス:VPPの実装で脱炭素社会を

エナリス:VPPの実装で脱炭素社会を

EnergyShift編集部
2020年10月29日

小売電気事業者だけでなく、需給管理業務などで豊富な経験を持つエナリスが、VPP(バーチャルパワープラント)プラットフォームサービスを展開する。今回は、エナリスみらい研究所 カンパニーヴァイスプレジデント兼アグリゲーションビジネス プロジェクトマネージャーの平尾宏明氏に、VPP事業を中心に話をうかがった。

VPPは実証から実装へ

―最初に、エナリスの事業について簡単に教えてください。

平尾宏明氏:電気料金の削減や再エネ供給など、法人需要家のニーズに応えるエネルギーエージェントサービスと、小売電気事業の新規立ち上げから日々の需給管理業務代行までトータルにサポートする新電力事業者向けサービスを提供しています。

市場の新設や制度変更などの電力業界の変化や気候変動問題に代表されるような社会課題への対応など、お客さまの課題は変化しており、最近では環境問題やBCPに対応する提案なども求められるようになってきています。

私たちは、お客さまの課題に寄り添って最適なソリューションを提供できるようにサービスを進化させていますが、その進化を加速させる大切な要素としてVPPなどに取り組んでいます。

―御社のこれからの事業として、VPP事業というものが、とても重要な位置づけにあると思います。具体的にどういった事業を進めているのでしょうか。

平尾氏:VPPの実証事業は今年で5年目に入ります。
2020年6月1日に「VPP実証が最終年度へ突入 2021年度需給調整市場参入へ向けた準備を加速化」というプレスリリースを出しましたが、いよいよ、実証から実装へ、というフェーズに入ったところです。

来春には、小売電気事業者などのVPP事業を支援する、VPPプラットフォームのSaaS提供サービスを開始する予定です。このサービスによって、小売電気事業者の方は、例えば自社の調達コストを下げたり、将来的にはインバランスの解消にVPPを活用することが可能になります。

―需給調整市場では、三次調整力②が対象となってくるのでしょうか。

平尾氏:我々も2018年から、調整力公募の電源I´に取り組んできました。その入札実績も踏まえ、来年4月に開設される需給調整市場への参加を計画しています。市場開設とともに募集がはじまる三次調整力②は、FIT電源となっている太陽光発電などについて、発電量の予測が外れた場合に45分以内に応動するもので、自家発電機や産業用蓄電システムでの対応を考えています。

多様なリソースをアグリゲーション

―御社のVPPプラットフォームの特長はどのようなものでしょうか。

平尾氏:当社のVPPプラットフォームは、オートグリッド社による電力系統のフレキシビリティを管理するソフトウェアをベースに、当社でカスタマイズしたものです。このソフトウェアは他国でも多く使われており信頼性が高いものです。

実証事業ではこのシステムを通じて、自家用発電設備や大型蓄電池、家庭用蓄電池、電気自動車、エネファーム、エコキュート、冷凍機、空調などのさまざまなリソースを扱っています。

―事業所におけるDR(ディマンドレスポンス)によるVPPはすでに調整力公募の電源I´でも使われており、実績があります。その点、家庭のリソースを使ったVPPは事業化が難しいといわれていますが、どう思われますか。

平尾氏:残念ながら、来年4月時点では家庭用リソースを用いて需給調整市場に参加することはできません。とはいえ、日本において家庭用蓄電池は普及しはじめていますので、脱炭素社会に向けて再エネの普及拡大を進めていくには、重要なリソースとなり得ます。


DR実施イメージ

需要側と供給側のBGを管理

―VPPにおいては、DRだけではなく、再エネのアグリゲーションなど、多様なリソースをまとめていきます。実証事業で、いろいろなリソースを扱ったということですが、サービス全体の将来像というのはどのようになっていくのでしょうか。

平尾氏:VPPを使ったサービスには、いろいろな展開の可能性があると思っています。例えば、再エネ発電事業者向けサービスです。

今後、再エネは、いわゆるFIPや卒FIT、PPAとして運用されている非FITの発電設備が増えてきます。これらの電源は発電計画値同時同量のFIT特例制度が適用されないため、発電インバランスペナルティの対象となります。

FITでは発電事業者が発電を予測する必要がありませんでしたが、これからは1日30分48コマの発電量予測をする必要が出てくるということです。再エネ発電事業者は、その予測精度を高め、発電計画と実績の誤差を減らしていくことになりますが、この誤差解消にVPPのノウハウを役立てることができると考えています。発電側でBG(バランシンググループ)を組成し、発電誤差をならすといったサービスです。

他社の代行も含めて需給管理の実績を重ねてきた当社の強みを生かすことができると考えています。旧一般電気事業者以外でこのような事業ができるのは、当社くらいではないかという自負もあります。

こうしたサービスの実現に向けて現在、実証事業を進めていますが、JREオペレーションズやレノバ、会津電力にご協力いただいています。

―VPP事業の将来像、あるいはビジネスモデルとはどのようなものでしょうか。

平尾氏:まずは現在、我々に需給管理を委託していただいている小売電気事業者の皆さまに、VPPプラットフォームサービスを提供できるようにしていきます。その先には、ブロックチェーンプラットフォームと連動させた電力のP2P取引なども展開していきます。小売電気事業者や需要家、VPP事業者など、あらゆる事業者がVPPを自社の事業に活用していただけるように、さまざまな形でサービスを提供していきたいと思います。

再エネ100%の電力供給でもリード

―エナリスとしてもすでに再エネ100%の電力の供給を行ってきた実績がありますね。

平尾氏:環境意識の高まりから、RE100を表明する企業様向けに実質再エネ100%電力を提供する「RE100メニュー」などへの問合せも増えています。再エネ供給だけでなく、今年4月に丸井グループが立ち上げた、100%再エネを供給する新電力の立ち上げをお手伝いしました。

―再エネということでは、非化石価値取引市場への対応も求められます。

平尾氏:非化石証書を含めた環境価値はいろいろな形で事業に組み込んでいきたいと考えています。
今まで見過ごされてきた電気の自家消費分の環境価値を顕在化し、グリーン電力証書やJ-クレジットに変換していくことにも、実証や実案件で取り組んでいます。

―現在、エナリスはKDDIの子会社で、Jパワーも出資する会社となりました。こうしたことによって会社そのものの変化はあったのでしょうか。

平尾氏:2019年末に、企業理念を新しくしました。エナリスのIdentityは、「“当たり前”を変革する」です。実はこれは社員みんなで決めた、いわばボトムアップによってできたものです。私たちは、このIdentityを持って、エネルギー業界にイノベーションを起こしていきたいと思います。

プロフィール


平尾 宏明 (ひらお ひろあき)

エナリスみらい研究所 カンパニーヴァイスプレジデント
兼 アグリゲーションビジネスプロジェクト プロジェクトマネージャー
1996年4月、サムスン電子日本法人に入社。半導体事業の事業企画、太陽電池モジュール・蓄電システムの事業開発・営業に従事。SBエナジーのVPP事業推進室長を経て、現在はエナリスのP2P(ブロックチェーン)とVPPのプロジェクトマネージャとして同社の新規事業開発を担う。

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