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バイデン政権の中東政策はどうなる

バイデン政権の中東政策はどうなる

2020/11/27

日本も含む世界が脱炭素社会に向かうとはいえ、短期的には石油依存の時代は続く。その大部分を中東に依存している日本にとって、米国のバイデン次期大統領の中東政策については、注目せざるを得ない。清和大学講師でオオコシセキュリティコンサルタンツ アドバイザーの和田大樹氏が、バイデン政権の中東政策について解説する。

バイデン政権誕生で外交・安全保障政策は大転換

混乱を極めた米国大統領選挙の結果、民主党のバイデン氏が勝利した。既にバイデン氏は来年(2021年)1月の政権発足に向けて本格的に動き出している。バイデン政権はどのような外交・安全保障政策を進めていくのだろうか。

1つ言えることは、トランプ政権の外交・安全保障政策からは大きく転換するということだ。

バイデン政権は対中国では厳しい姿勢を取ると言われている。また、トランプ大統領のように北朝鮮の金正恩氏と積極的に会ったりはせず、欧州との関係修復に努めるであろう。

そして、バイデン政権の誕生によって大きく情勢が動く可能性があるのが中東だ。では、トランプ政権からバイデン政権に変わることで、具体的にどんな変化が見られるのか。

トランプ政権下の中東はどうだったか

まず、簡単にトランプ政権下での中東情勢を振り返ってみたい。2017年からトランプ政権が始まったが、トランプ大統領は2015年のイラン核合意から一方的に離脱し、敵視するイランへ経済制裁を課してきた。

そして、今年(2020年)初めには、イラン革命防衛隊のソレイマニ司令官がイラクで米軍の攻撃により殺害され、米イランの間で軍事的緊張が高まる事態となった。

トランプ大統領は就任当初からイスラエル寄りの政策を積極的に進め、パレスチナの立場が大きく揺らいでいるだけでなく、最近ではイスラエルとアラブ諸国の国交正常化で仲裁役を積極的に務めるなどの動きを見せている。

既に、UAEとバーレーン、スーダンがイスラエルとの国交正常化を発表している。サウジアラビアも対イランでトランプ政権と共同歩調を取るだけでなく、武器供与など両国間の経済関係も緊密化した。

バイデン政権誕生で、中東情勢は大きく変わる

しかし、バイデン政権の誕生でトランプ時代の中東政策は大きく変わることになろう。

まず、バイデン氏はイラン核合意へ戻る姿勢を示している。今後イランが核問題をどう進展させていくかは別問題として、トランプ政権下で生じた緊張はなくなると考えられる。

イランのロウハニ大統領は11月4日、「次期大統領が誰であろうと米国が国際協調路線に回帰することを願う」、「不公平な経済制裁が解除されれば対米関係で変化があるかもしれない」などとの認識を示した。バイデン政権と仲良くしたいと明確に言ったわけではないが、米国の制裁により国内経済が逼迫し、国民の反発が政府に向かうなか、ロウハニ大統領としてもバイデン政権で制裁が緩和され、オバマ政権時の関係に戻したい思惑はあることだろう。


イランのロウハニ大統領

米国-サウジアラビア間に政治摩擦か

また、イスラエル寄りの姿勢もなくなる可能性が高い。イスラエルのネタニヤフ首相は11月8日、バイデン氏を「イスラエルの素晴らしい友人」と呼び、「両国の特別な同盟関係をさらに強化していくことを楽しみにしている」と述べた。

だが、ネタニヤフ首相の本音としてはトランプ大統領再選の方が都合は良く、バイデン政権がどうイスラエルに接してくるかを注視しているものと考えられる。

一方、パレスチナ自治政府のアッバス議長は、「パレスチナと米国との関係を強化するため次期政権と積極的に協力する」と、バイデン政権誕生への期待感を示した。トランプ政権下において、パレスチナの米国への不満はこれまでになく高まった。バイデン氏は今年5月、パレスチナへの支援を回復させると主張していることから、今後バイデン政権はパレスチナ問題を重視する一方、イスラエルとの間で距離や政治的摩擦が生じてくる可能性がある。

サウジアラビアのムハンマド皇太子やサルマン国王も11月8日、バイデン氏を祝福するメッセージを発表したが、ネタニヤフ首相と同じようにバイデン政権がどう接してくるかを見極めていることだろう。トランプ政権とサウジアラビアは非常に親密な関係だったが、バイデン氏はトランプ政権下での関係を見直し、サウジアラビアによるイエメン内戦への加担停止、2018年のジャーナリスト(ジャマル・カショギ氏)殺害における説明責任追及などを求めてくることが考えられる。サウジアラビア政府がバイデン氏の要求にすぐに答えることは考えにくく、バイデン政権ではサウジアラビアとの間でも距離や政治的摩擦が生じてくる可能性がある。

いずれにせよ、トランプ政権下での「米国、イスラエル、サウジアラビアVSイラン」の対立軸はなくなり、「イスラエル、サウジアラビアVSイラン」の構図に加え、米国とイスラエル、米国のサウジアラビアの関係がギクシャクしそうな感じがする。

トランプ支持者という“内なる脅威”との対峙が課題?

最後に、バイデン政権がどこまで中東に関与できるかも大きな問題だ。バイデン氏は勝利したものの、2020年11月25日現在の獲得総数は約8,001万票、トランプ大統領が約7,380万票となり、両者とも12年前にオバマ氏が記録した6,950万票(歴代最多)を上回る結果となっている。トランプ大統領も、4年前に自身が獲得した票数6,200万票から1,000万票以上増やしており、バイデン政権はトランプ支持者、また白人至上主義など極右勢力など”内なる脅威”に対峙せざるを得ず、対外政策にどこまで力を入れられるかが大きな課題になる可能性もある。

和田大樹
和田大樹

清和大学講師/ オオコシセキュリティコンサルタンツ アドバイザー 岐阜女子大学特別研究員、日本安全保障・危機管理学会主任研究員を兼務。専門分野は国際政治学、安全保障論、国際テロリズム論。日本安全保障・危機管理学会奨励賞を受賞(2014年5月)、著書に「テロ、誘拐、脅迫 海外リスクの実態と対策」(同文館2015年7月)、「技術が変える戦争と平和」(芙蓉書房2018年9月)、「2020年生き残りの戦略 ー世界はこう動く!」(創成社2020年1月)など。