水素ステーションを展開する岩谷産業は、国内の液化水素メーカーとしてシェア100%を誇る企業である。しかし液化水素の2020年度の出荷量は中期経営計画を下回り、脱炭素社会の実現に欠かせない水素の需要はまだ本格化していない。国内での水素需要がどのタイミングで本格化するのか、岩谷産業の業績の行方とともに注目される。
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岩谷産業<8088>は全国で水素ステーションを展開しており、2021年3月期末時点で全国に累計53ヶ所が設置されており、今期も最低10ヶ所の整備を予定している。2021年4月時点で他社含め全国146ヶ所に水素ステーションがあり、同社の水素ステーションの国内シェアは約35%である。
ただし水素ステーションを利用する燃料電池自動車の普及はこれからのため、水素ステーションは先行投資としての位置付けであり、2021年3月期は水素ステーションで▲4.6億円の赤字が計上されている。
全国で水素ステーションの設置を進める岩谷産業だが、産業・家庭用ガス専門商社(本社:大阪市)であり一般消費者にはそれほど馴染みがない企業だ。尚、個人向け事業としてアウトドアで利用するガスカートリッジなどを「IWATANI-PRIMUS」ブランドで展開しており、アウトドア愛好家にはガスカートリッジなどの企業として知られている。
イワタニ水素ステーション群馬高崎 写真提供:岩谷産業(株)
水素ステーションを拡大させる岩谷産業だが、実は国内の液化水素メーカー(圧縮水素含む)としてシェア100%を誇る企業である。
2018~2020年度の中期経営計画「PLAN20」では、2017年度59百万m3の液化水素販売数量を2020年度90百万m3に拡大させる計画であった。
しかし「PLAN2020」の最終年度にあたる2021年3月期の液化水素販売数量は67百万m3(前期は59百万m3)に留まり中期経営計画は未達となった。前期の59百万m3に比べ伸びてはいるが、水素事業は予想ほど伸びていないのが実態だ。同社の液化水素国内シェア100%という状態を考えると、国内の水素需要は本格化するに至っていない。
国内の水素需要の拡大は同社水素事業の拡大に直結するため、国内の水素需要本格化のタイミングが注目される。
岩谷産業の直近3期の業績推移と2022年3月期予想は下記である。
売上高 | 営業利益 | 当期純利益 | |
2019年3月期 | 7,150億円 | 264億円 | 192億円 |
2020年3月期 | 6,867億円 | 287億円 | 209億円 |
2021年3月期 | 6,355億円 | 299億円 | 232億円 |
2022年3月期(予想) | 6,261億円 | 320億円 | 243億円 |
2021年3月期は新型コロナウイルス問題の発生による工業向けガスの販売額の減少により前期に続き減収が続いたが、テレワーク普及を背景に家庭用LPガス(同社はLPガス国内首位)の販売増などで着実な増益が継続した。2022年3月期も増益を予想しており、営業利益で300億円台の到達予想である。
尚、水素事業は産業ガス・機械事業セグメントに属しており、現状では単独の事業セグメントでの開示はない。しかし水素事業の本格的な立ち上がりの前から同社全体では増益が続いており、水素事業の本格的な立ち上がり後は更なる増益が期待できる状態だ。
岩谷産業の株価は2020年10月以降急騰しており、それまでの4,000円を前後する水準から2021年1月には7,000円を超えるまでに急騰した。現在は若干下落した6,000円台半ばで取引されている。
直近10年の株価を見ると、2012年までは1,000円台半ばの水準、2020年秋頃までは4,000円を上限とする水準で取引されており、現在の6,000円を超える水準は過去10年では歴史的な高値である。
ただし予想PERは約15倍であり、東証1部平均(約16.07倍、2021年5月24日終値)並みの水準である。これまで割安に放置されていた銘柄が買われて、平均的な株価水準まで上昇した状態だ。国内水素銘柄として、水素事業の本格的な立ち上がりがなされる際の上昇余地は十分残されている。
脱炭素のかけ声が大きくなる一方で、脱炭素社会実現に必要不可欠な水素について、岩谷産業の液化水素出荷量の推移を見ると本格的な水素社会実現のはるか手前の段階だ。
しかし国内液化水素の市場シェア100%を持ち、水素ステーションの設置など水素事業に積極的な取り組みを見せる岩谷産業は、今後の水素社会実現とともに成長が期待できる立ち位置にある。
国内水素社会の実現の動きがどのタイミングで本格化するのか、岩谷産業の業績推移とともに注目される。
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