多くの企業が2050年までの脱炭素化を目指す中、「安価な再生可能エネルギーが足りない」という声が日増しに大きくなっている。経済産業省は企業が安価な再エネを調達できるよう、これまで直接購入できなかった企業による環境価値の取引を解禁する。実現に向け、新たに創設する「再エネ価値取引市場」の制度設計が本格化した。
脱炭素社会の実現に向けて、日本でもすでに90社を超える企業が「2050年カーボンニュートラル実現」を表明している。なかでもキリンホールディングスや武田薬品工業、明治ホールディングスなどは自社グループのみならず、サプライチェーン全体の脱炭素化を目指している。
また事業活動で使用するすべての電力を再生可能エネルギーに転換することを目指す、国際イニシアチブ「RE100」に加盟する日本企業は50社を超えた。
脱炭素化の流れは大企業のみならず、中小企業にも及んでいる。
サプライチェーン全体の脱炭素化には、取引先である中小企業も含まれるからだ。再エネ転換の要請を受け、中小企業などが100%再エネ転換を目指す、「Re Action」の加盟団体数は120社を超えている。
日本企業による再エネ調達が本格化する中、多くの企業から「安価な再エネが足りない」という声が日増しに強くなっている。
これまで企業が再エネを調達する場合、国民負担のもとで再エネの普及拡大を目指すFIT制度でつくられた再エネ電源から発電された電力であることを示す「FIT非化石証書(FIT証書)」という環境価値を購入することが主流であった。FIT証書を購入した分だけ、CO2を排出しない電力を使っているとみなさせるからだ。
しかし、現行の制度では、FIT証書は電気を販売する小売電気事業者から電気とセットでしか購入できず、小売電気事業者へ支払う手数料などが上乗せされるため、安価な再エネ調達は難しい。
経済産業省は2021年3月、企業が安価な再エネを調達できるよう、これまで直接購入ができなかったFIT証書の直接取引を解禁する意向を表明。さらに、FIT証書の最低価格を現行の1.3円/kWhから大幅に引き下げることで、日本企業による再エネ調達の拡大も狙う。
4月15日には、経産省は制度設計を検討する「第49回制度検討作業部会」を開催し、新市場創設に向けた本格的な議論をスタートさせた。
経産省では、新たに「再エネ価値取引所」を創設することで、電力購入とは別に、企業が直接、FIT証書を購入できる環境を整える。まずは取引対象を「FIT証書」に限り、取引をスタートさせる方針だ。
4月15日の審議会では、主に次の3つが議論された。
欧米などではすでにどの再エネ電源に由来する証書なのか、電源情報や産地などの情報も含んだ「電源証明」として発行されている。脱炭素電源といえども、原子力発電由来なのか、風力発電なのか、あるいは太陽光発電なのか。また産地はどこなのか。電源種や産地ごとに価格の違った証書が流通している。日本も欧米をならうのか。
次に価格水準だが、今のFIT非化石証書の最低価格は1.3円/kWhである。
1.3円が企業にとってどれだけの負担になるのか。たとえば、1年間に1億kWh電気を使用する企業が、脱炭素を目指しFIT非化石証書を購入した場合、その金額は1.3円×1億kWh=1.3億円にのぼる。
証書価格の高止まりは、脱炭素を目指す企業の財務を毀損してしまう。
経産省は、1.3円を大幅に引き下げる意向を表明済みだが、それでは最低価格をいくらにするべきなのか。そもそも最低価格を設定すべきなのか、詳細を決めなければいけない。
3つ目の企業の参加要件は、極論すれば、個々の一般消費者も電力の需要家に含まれる。だが、参加者が膨大にのぼると、取引管理コストが増大してしまう。どこまでの範囲で市場参加を認めればいいのか。
委員からは、電源証明に関して「産地などの詳細まで入れると価格が多岐にわたってしまう。電源種だけでいいのではない」「電種別、産地別の商品をつくることは、必ずしも排除されるべきではない」との声があがり、まだまだ意見の隔たりがあった。
価格水準については、「1.3円の半分程度の引き下げではまだまだ高い。大胆な引き下げを行うべき」との意見があり、欧州並みの0.1円程度になる可能性が浮上している。
参加要件に関しては、RE100の参加要件基準である年間消費電力量1億kWh以上、あるいはパリ協定に沿った温室効果ガスの削減を目的としたSBTやTCFDなどの国際イニシアチブへコミットした企業といった案が提示された。
新市場の取引は2021年度後半からスタートする。経産省では、価格や参加要件といった詳細設計を急ぎ決定していく方針だ。
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