日本自動車工業会の豊田章男会長(トヨタ自動車社長)は4月22日のオンライン会見で、「温室効果ガスの排出をゼロにするカーボンニュートラルの実現は、ガソリン車の新車販売禁止だけでは実現できない」と述べた。実現には、7,800万台とされる保有車の脱炭素化がカギを握り、ガソリン車で使用可能な水素と二酸化炭素の合成液体燃料「イーフューエル(e-fuel)」が大きな役割を果たすと語った。
自工会の豊田会長は、2020年12月にカーボンニュートラルに全力で取り組むと述べる一方、エネルギー政策ぬきには実現できないと、これまでも政府に苦言を呈してきた。
だが、世界ではEV(電気自動車)シフトが潮流となり、追い風が吹く。4月19日から始まった上海モーターショーもEV一色。欧州メーカーのみならず、アメリカのGMやフォードなどもEVシフトを鮮明にしている。
世界的なEVシフトに、日本の自動車産業だけが取り残されてしまうのではという懸念は強い。
豊田会長はオンライン会見で、「われわれが目指すゴールは、EVの販売促進やガソリン車の禁止、燃料電池自動車(FCV)推進ではなく、カーボンニュートラルだ」と強調。そのうえで「カーボンニュートラルとは何か?クルマをつくる。つくったものを運ぶ。運んだものを使う。それをリサイクルし、廃棄する、すべての工程で発生するCO2をゼロにするものだ。これはEVにシフトすれば実現できるものではなく、全産業、全国民が取り組まなければならない」と述べた。
会見資料より
日本におけるハイブリッド(HV)車などの電動化率は新車販売で35%だが、保有自動車7,800万台ベースでは1割にも満たない。保有期間も長期化しており、豊田会長は「保有自動車に対して手を打たない限り、カーボンニュートラルは達成できない」とも述べる。
既存自動車の脱炭素化に向けたカギが、水素と二酸化炭素の合成液体燃料「イーフューエル(e-fuel)」などのカーボンニュートラル燃料だ。「イーフューエルをガソリン車に使うとHV並みになる。HVに使うとプラグインハイブリッド(PHEV)並みに、PHEVに使うとEV並みになる」という。
日本がこれまで培ってきたモーター×エンジンという複合技術に、イーフューエルなどのカーボンニュートラル燃料が加われば、今のインフラ、物流システムを使うことができる。またEVの充電インフラが整備されていない地域でもCO2削減が可能となるとし、「単純にガソリン車禁止など、ある内燃機関だけに軸足をおいた規制や法律で、出口のところで既存技術を制約して幅を狭めるのではなく、カーボンニュートラルへのあらゆる選択肢を広げていくことこそ先ではないか。施策の順番は間違えてはならない」と指摘した。
会見資料より
自動車産業は550万人の雇用を抱え、15兆円の外貨を稼ぐ、日本の屋台骨だ。「15兆円の外貨を失えば、日本は危機的状況に陥るだろう」(豊田会長)。
それだけに豊田会長は、自動車産業をカーボンニュートラルのど真ん中において欲しい。カーボンニュートラルに対して、自動車産業の進化をペースメーカーにして欲しいと何度も訴えた。
「カーボンニュートラル戦略は欧州の方が2周、3周先に行っている。先を走る電車に乗りたい気持ちはわかる。しかし、すぐにその電車に乗れば脱炭素を実現できるのか。電力事情も違えば、日本には安価で大量の再生可能エネルギーもない。日本には日本が取り組むべきカーボンニュートラルの道筋があるはずだ」と述べた。
そのうえで、政府に対し、EVを中心に製造する企業への再エネの優先的な供給や、脱炭素実現に向けたR&Dや設備投資に対する税額控除、洋上風力や地熱発電などの普及拡大を要望した。
豊田会長は、「イーフューエルなどのカーボンニュートラル燃料は非常に大きな役割を果たすことができる。ガソリン車禁止ではカーボンニュートラルは達成できない。自工会は日本に適した方法をこれからも模索していく」と語った。
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