再エネ普及拡大を加速させるために、河野太郎行政改革担当大臣の下で再エネ規制改革の議論が本格的に始まった。その「再生可能エネルギー等に関する規制等の総点検タスクフォース」第2回会合では、ついに農地制度が取り上げられた。この議題について、日本のソーラーシェアリング(営農型太陽光発電)を率いてきた、千葉エコ・エネルギー代表取締役の馬上丈司氏による緊急寄稿を掲載する。
菅総理による2050年のゼロエミッション目標の宣言が行われた後、再生可能エネルギーの普及拡大を加速させるために、河野太郎行政改革担当大臣の下で再エネ規制改革の議論が本格的に始まりました。
私もソーラーシェアリング推進連盟や太陽光発電事業者連盟として規制改革の意見を提出してきた中で、2020年12月25日に開催された再生可能エネルギー等に関する規制等の総点検タスクフォースの第2回会合では、ついに農地制度が取り上げられました。この会合で、タスクフォースの委員連名により提出された意見書の内容を目にして、この記事を緊急寄稿しています。
本タスクフォースのミッションは、その名の通り「再生可能エネルギー等に関する規制等の総点検」です。従って、再生可能エネルギー普及拡大の観点から、現在ある規制が障害と言えるかどうかを各論として議論するのは当然です。
ただ、こと農地・農業というのはエネルギーと並んで国家における重要資源である食料の生産基盤であることを、議論の大前提に置かなければなりません。
例えば、荒廃農地の問題では新たな活用方法の模索や自然に還すという議論が重ねられている中、既に山林化している農地の適切な非農地認定というのは重要ですし、農地行政における不透明な手続きの長期化や不明確な審査基準は整理されていくべきです。
一方で、農地所有者や農業者が耕作放棄地や荒廃農地を農業生産のために再生することよりも、荒廃農地化をより進行させて再生可能エネルギー事業用地として売り払うインセンティブを与えてしまうようなことも防いでいく必要があります。FIT制度における太陽光発電の拡大期には、農地を完全転用して発電所用地として売却すれば農地として売るよりも10倍以上高い値段でも売れていたのが現実です。
営農型太陽光発電も同様で、既にFIT制度による売電収入目的で設置され、そもそも農業が行われていなかったり、行政の指導を受けても適切な農業改良がなされなかったりする事例が頻発しています。
本来の営農型太陽光発電は、農業の継続を前提に太陽光発電事業による収入増加を享受できるようにする仕組みです。まずは、こうした不適切な事例が生じている背景を検証した上で規制緩和を考えるべきであり、いきなり転用許可を不要とするのは野放図な開発を助長する結果を招くことは自明です。
再生可能エネルギーの拡大には資するでしょうが、その結果として農地・農村が荒廃するという結果が起きないようにすること、それを防いだ上で再生可能エネルギーの拡大を図る規制改革とはどういうものか、そうした視点が今回の意見書には欠落していました。
こと太陽光発電事業においては、FIT制度下で農地転用以外にも様々な場面で地域との軋轢を生じさせてきています。
そうした過去に起こした問題の総括・検証がないままに、追加的に規制緩和を進めても不適切な発電事業を更に増やすことになり、いずれその是正に無用な社会的リソースを投じることになるほか、「エネルギーか食料か」という農地・農業と再生可能エネルギー発電の不毛な対立を生み、いたずらに時間と労力を消耗する結果になることが懸念されます。
しかし、こうした大局的な視点を個別分野の専門家に持てというのは酷な話ですから、そこに責任を負うべき政治の議論と判断が必要になります。
将来世代のために個別分野の利害を超えた包括的な議論を
再生可能エネルギーの普及は手段であって目的ではありません。豊かで持続可能な国を作り、将来世代へより良い社会を残すための手段です。
農山漁村における再生可能エネルギー導入が遅滞しているのも、そもそもの再エネの大量導入を進めるFIT制度の導入に併せたエネルギー政策の国家方針が定まらない中で、農地行政全体の見直しもないままに個別の政策手段ばかりが積み重ねられたことによって、制度の歪さが拡大したことが一つの要因だと考えます。
太陽光発電が、そして再生可能エネルギーが、その普及拡大のために農地・農村環境を破壊するというような負の遺産を将来世代に遺さないためにも、まず政治が主導してエネルギーと食料という2つの資源を確保していくための国家方針から議論していくべきです。その段取りと方針の提示があって初めて、実効性のある規制改革が果たされるのだと考えます。
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