省エネガイドライン改訂、注目すべきポイントと省エネの課題とは | EnergyShift

脱炭素を面白く

EnergyShift(エナジーシフト)
EnergyShift(エナジーシフト)

省エネガイドライン改訂、注目すべきポイントと省エネの課題とは

省エネガイドライン改訂、注目すべきポイントと省エネの課題とは

日本の小売電気事業者は、2016年4月の電力小売り全面自由化以降、価格競争とセット販売しかしてこなかったといってもいいだろう。その結果、十分な節電や省エネが進んでいないという現状がある。しかし、省エネ法に基づく指針では、小売事業者に省エネ情報を提供する努力義務が定められている。2022年度から「省エネコミュニケーション・ランキング制度」がスタートすることから、省エネガイドラインが改訂され、情報提供だけではなく省エネになるサービスや料金メニューの提供についても、留意が求められるようになった。

省エネ支援が不十分だった日本の小売電気事業

2019年に「エネルギー小売事業者の省エネガイドライン」が制定されたが、実際には小売電気事業者をはじめとするエネルギー小売事業者の省エネ情報の提供はあまり進んでいない。そのため、2022年度から「省エネコミュニケーション・ランキング制度」の本格的運用を開始するが、これに先立ってガイドラインの改訂について、2021年5月から、経済産業省の「エネルギー小売事業者の省エネガイドライン検討会」での議論がすすめられ、2022年3月31日に取りまとめられた。

日本の小売電気事業で消費者の省エネが進まない背景には、独特の料金制度がある。一般的な大手電力会社(旧一般電気事業者)の標準的な料金メニューは3段階となっており、電気を使うほど単価が高くなる(図1)。この料金メニューは消費者に省エネをうながすしくみとなっている。しかし、小売り全面自由化によって新電力が参入するにあたって、新電力が優位性を出せる料金メニューは単価の高い3段階目の電気を多量に使う消費者だった。したがって、新電力としてはそうした消費者ほど大手電力よりも割安にすることができた。

図1:三段階料金設定

基本料金に加えて、使った分を従量課金

基本料金  第三段階料金
 第二段階料金
第一段階料金

出典:経済産業省HPをもとに編集部再編集

また、新電力の主な電気の仕入れ先である日本卸電力取引所(JEPX)のスポット価格は30分単位で変動し、近年は昼間が安いといった傾向にあるにもかかわらず、季節別時間帯別料金メニューへの取組みは少なかったことも指摘される。

こうした点について、例えば米国ではそれぞれの自治体が電力会社に対し、省エネになる料金メニューやサービスの提供を義務付けており、省エネに対する減収については何等かの形で補填している。

今後、CO2の排出削減に加え、LNG価格の高止まりなども考慮すれば、小売事業者は料金メニューではなく省エネの提供で、消費者の光熱費を安くすることが求められるだろう。その意味では、これまで以上に小売事業者における省エネの情報提供やサービスの提供は重要なものとなっている。

省エネの主役はWebサービス

元々、電力会社を含むエネルギー供給事業者は、「エネルギーの使用の合理化等に関する法律(省エネ法)」によって情報の提供が努力義務とされており、2006年には「一般消費者に対するエネルギー供給の事業を行なうものが講ずべき措置に関する指針」として、エネルギー消費量の前年との比較や削減の目安、省エネ機器に関する助成制度等の情報などの提供といった努力義務についても規定されている。さらに顧客件数が30万件を超える場合は情報提供の状況についても公表することが努力義務となっている(図2)。

図2:指針が定める努力義務の対象範囲の概要

  A事業者 B事業者 C事業者
⓪エネルギー供給
事業者条件
 エネルギー供給事業者 発電のみ行う事業者」又は「ガス製造のみ行う事業者
    
指針第1、2、3項の
情報提供努力義務
 対象 対象外
    
①エネルギー種別
小売契約件数条件
 30万件超 30万件以下 
    
情報提供状況の
公表努力義務
 対象 対象外 対象外

出典:経済産業省HPをもとに編集部再編集

実際に、多くの事業者はスマートフォンアプリやWebページ、あるいは検針票などとセットでの紙による情報提供を行ってきている。しかし現実にはあまり省エネにはつながっていないのではないだろうか。

効果的な情報提供を行うためには、さまざまな工夫が必要だ。そのため、ガイドラインでは留意事項として、情報提供者の信頼性の獲得、分析やフィードバックなど消費者の理解を深める工夫、分かりやすさと内容の充実、長期的または社会全体の利益についても考えた情報提供、中立性や客観性の担保といったことが示されている。

紙による情報提供を排除するものではないが、ガイドラインの別紙でしめされたベストプラクティス集では、東京電力エナジーパートナーによる世帯人数など顧客情報に応じた省エネ提案、中国電力による消費電力予想のゲーム、KDDIによる待機電力の注意喚起など、アプリとの相性が良いコンテンツが示されている。

いかに効率よく消費者への省エネを喚起させていくのか、デバイスの普及状況を考えれば、主要なツールはスマホアプリとなっていくことがうかがわれる。さらに言えば、優れたアプリの開発が小売事業者の競争力にもつながっていくのではないだろうか。

省エネを促進させる為の重要なポイントとは・・・次ページ

もとさん(本橋恵一)
もとさん(本橋恵一)

環境エネルギージャーナリスト エネルギー専門誌「エネルギーフォーラム」記者として、電力自由化、原子力、気候変動、再生可能エネルギー、エネルギー政策などを取材。 その後フリーランスとして活動した後、現在はEnergy Shift編集マネージャー。 著書に「電力・ガス業界の動向とカラクリがよーくわかる本」(秀和システム)など https://www.shuwasystem.co.jp/book/9784798064949.html

エネルギーの最新記事