情報を提供するだけでは省エネは進まない。省エネ促進となる製品やサービスは不可欠だ。ガイドラインでは、「省エネに効果がある製品・サービスの普及や市場の健全な発展には、エネルギー小売事業者が省エネに訴求した営業行為を適切に行うことが重要である」とされている。
具体的には、自社で提供する料金メニューや製品・サービスに加え、第三者を通じた省エネ製品・サービスの提供、およびこれらがもたらす省エネ効果の適切な算定、表示を検討することが望ましいとされている。
また、増エネを促しかねない表現の回避にも留意することが示されている。具体的には「使い放題プラン」や単価が使用量に反比例するプランなどを提供し、「使えば使うほどお得」といった紹介をしていくことは望ましくないということだ(表1)。
表1:各社の料金プラン照会における表現の例
社名 | プラン名称・説明文 | 内容 |
A社 | 使いたい放題プラン | 使用量一定まで定額料金 |
B社 | 使うほど割安になるプラン | 使用量が増加するほど料金単価が低下 |
C社 | 使えば使うほどお得 | 従量料金が他社と比較して低額 |
D社 | たくさん使うほど電気代がお得 | 従量料金が他社と比較して低額 |
E社 | 使えば使うほど安くなる | 従量料金が他社と比較して低額 |
出典:経済産業省HPをもとに編集部再編集
効果がある料金メニューとしては、ガイドラインでは時間帯別料金メニューの普及拡大が重要だとしている。料金が安い時間帯に電気を使うことは、正確には省エネではないが、太陽光発電が活発に発電している時間帯と重なることで、CO2排出量を削減することにつながる。
こうしたことに加えて、クールシェア(例えば冷房需要の多い時間帯に商業施設などに足を運んでもらい、家庭の需要を減らすことなど)やデマンドレスポンス(電力需給がひっ迫した時に需要側で節電するしくみ)についても、有効性を評価し、検討実施していくことが望ましいとしている。
ガイドラインでは、本格的運用が開始される「省エネコミュニケーション・ランキング制度」についても解説している。
エネルギー小売事業者により一層の省エネに関する情報提供を促すことが目的だ。
今年度についていえば、エネルギー小売事業者は7月末に、消費者との共同での省エネとして「共同省エネルギー事業の報告」を国に提出し、秋にはランキングの結果を資源エネルギー庁のホームページで公表することになっている。
小売電気事業者の評価項目と配点は表2の通り。
表2:小売電気事業者の評価項目及び配点
提供方法▶︎ ▼提供内容 | 基礎点(指針で規定) | 加点 | |||||
提供有無 | 指針3. 集約性 | 追加項目1. 省エネ意識の 高まるタイミング でのプッシュ型の 情報提供 | 追加項目2. 顧客属性を基にした 情報提供方法の工夫 | 追加項目3. 提供する情報の 閲覧率を高める工夫 追加項目4. 提供する情報の 閲覧率の測定 | 追加項目5. その他提供方法に関する創意工夫 ※以下のいずれかを実施
| ||
基 礎 点 ( 指 針 で 規 定 ) | 指針1.(1) 毎月の消費量の前年同月値 | 基礎点【90点】 ○提供の有無: 15点×5項目 =75点 ○集約性:15点 | 加点【10点】 ○実施の有無: 5点×2項目=10点 ※各内容ごとに1つでも 実施していれば5点 | 加点【15点】 ○工夫の有無:10点 ○閲覧率の測定:5点 | 加点【5点】 ○実施の有無:5点 | ||
指針1.(2) 過去一年間の月別消費量及び料金 | |||||||
指針1.(3) 機器の使用方法の工夫による 削減量及び削減額 | |||||||
指針1.(4) 省エネ設備の性能と助成制度 | |||||||
指針2. 類似世帯比較 | |||||||
加 点 | 追加項目1. 時間毎にきめ細やかに エネルギー消費量を見える化した情報 | 加点【15点】 ○提供の有無: 4点×3項目=12点 ○集約性: 1点×3項目=3点 | |||||
追加項目2. 電力需給状況に応じたエネルギー消費 (デマンドレスポンス等)を促す情報 | |||||||
追加項目3. 供給する電気の電源構成に関する情報 | |||||||
指針1.(5) その他、エネルギー供給事業者の 創意により実施する一般消費者が 行うエネルギーの使用の合理化に 資する情報の提供 ※以下のいずれかを実施
| 加点【5点】 ○提供の有無:5点 |
※この表は左右にスクロールします
出典:経済産業省HPをもとに編集部再編集
また、ランキングに応じて、ロゴ(図3)を使用することができる。
図3:省エネコミュニケーション・ランキング制度のロゴ(カラー版)
出典:経済産業省HP
ランキング制度を導入したことで、小売事業者の省エネへの取組みを促進させていくということだ。また、取組の方向性を示したということも評価できるだろう。
とはいえ、今回のガイドライン改訂で省エネへの取組みが促進されるとは考えにくい。
改訂されたガイドラインが物足りないのは、英米の政策と比較するとよくわかる。
米国では前述のように小売事業者に対して、省エネとなるサービスの提供を義務付けてきたが、そのことによって小売事業者の利益につながる、そうした情報も開示されている。また、LED電球の無償提供からサーモスタットの販売、さらには共用型太陽光発電(住宅の屋根に太陽光発電を設置できない顧客向けの太陽光発電のシェアサービス)など、多様な製品・サービスが提供されているケースもある。
英国では消費者に電力やガスの消費量などの情報を提供することは義務化されている。スマートメーターを設置すれば、アプリなどで見ることができるし、HEMS(Home Energy Management System)を提供する会社もある。さらに、最近では、家庭用ガスボイラからヒートポンプへの置き換えを進めている。
背景としては、英米のエネルギー小売事業者には電気とガスの両方を扱う会社は少なくないということに加え、エネルギー供給よりも住宅へのエネルギーサービスという面が強いということがあるのではないか。その点、日本のエネルギー小売事業者は、自由化によって電力とガスのセット販売ができるようになったにもかかわらず、大手事業者は電気ないしはガスを売る会社であるということから変わることができず、政府もまた事業者に対して総合エネルギーサービス会社になっていくことを実質的に求めていない、ということがあるのではないだろうか。
とはいえ、現在は電気料金やガス料金の値上げが続いており、今後も安くなる見通しはない。こうした状況にあっては、省エネサービスを展開していくことは、チャンスだともいえるだろう。
ランキング制度の結果には注目したいが、それ以上に、エネルギー小売事業のビジネスモデルを総合エネルギーサービスに転換していくような政策が求められるのではないだろうか。
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