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テスラ サイバートラックの納品が2022年に延期された理由は産みの苦しみ?

テスラ サイバートラックの納品が2022年に延期された理由は産みの苦しみ?

2021年08月11日

発表時に話題をさらったテスラのサイバートラック。納車時期の遅れがオフィシャルになったが、その裏にはテスラならではの理由があったようだ。

ひっそりとしたアナウンス

テスラのサイバートラックは2019年11月に発表されたピックアップトラックだ。そのサイバースペースを突っ走る外観と、外側を覆う高強度ステンレス鋼(鉄のボールを投げつけても大丈夫だったがガラスは割れた)で多いに話題になった。

発表会では2021年後半に生産を開始するとされ、2021年末までに市場に投入するとされていたが、オフィシャルページの納品時期がひっそりと「2022年の生産」に書き換えられていたのだ。

もちろんすぐにテスラマニアに見つかり、世界中のニュースとなり、その理由をみんなが知りたがったが、テスラからのコメントは今のところない。イーロン・マスクのツイートはこのところロケット関連ばかりだ。


2019年11月の発表会でガラスが割れたがボディはびくともしなかった

予約台数は100万台

サイバートラックはトラックといっても荷台つきのピックアップトラックで、モーターの数により3種類が用意されている。シングルモーターは6.5秒以内に時速96kmまで出すことができ、航続距離は402km以上。最高機種のトリプルモーターは96kmまでは2.9秒で達し、航続距離は805kmになる。

シングルモーターは39,900ドル(440万円)、デュアルは49,900ドル(552万円)、トリプルは69,900ドル(773万円)。もちろん、フル・セルフ・ドライビングのオプションもある(1万ドル)。予約するには今日100ドルだけ払えばいい。

2019年の発表時には5日間で25万台の予約が入った。現在、非公式だが100万台以上の予約が入っているという(ソースによっては125万台とも)。

予約した100万人のうち、何人ががっかりし、何人が「やっぱりね」と思ったかはわからない。しかし、テスラが発売時期を遅延させるということ自体は、不名誉ではあるがいつものことだとも言える。7月にはセミトラックの「Tesla Semi」をバッテリー不足により納車を2021年末から2022年に延期した。

なぜ遅れているのだろうか

サイバートラックの遅延の兆候もすでにあった。

今年の第2四半期の決算発表(7月27日)で、テスラの車両エンジニアリング担当副社長(VP)のラース・モラヴィ氏のコメントだ。「サイバートラックは現在(7月当時)、試作のアルファ段階。車両の基本的なエンジニアリングとアーキテクチャは完成している。2021年後半にはベータ段階に移行させる予定だが、現在はモデルYに注力している」といったのだ。

そして、そのモデルYが好調なこともサイバートラックの遅延に影響しているとの見方もある。今年4月の第1四半期決算発表でのイーロン・マスクによれば、モデルYは2022年に売上高において、世界でトップになり、2023年には販売台数でも世界トップになるという。

未来のことは誰にもわからないが、確かにモデルYの販売は好調なようだ。米ヤフーによれば、モデルYロングレンジが第3四半期販売分は完売したと報じている。また、モデルYのアップデートにも注力している。

モデルYは現在、カリフォルニア州のフリーモントと中国・上海で作られている。これを、テキサス州オースティンのギガファクトリーで作る予定だが、サイバートラックの製造はそのあとに、同じテキサスでおこなわれるという。つまり、今売れているモデルYを優先的に生産ラインに乗せ、サイバートラックはその後だというので、年内の納車は無理になったのだという。


テスラ モデルY

新しいがゆえの遅れ

イーロン・マスクはサイバートラックについて、開発段階から生産への移行も困難だということを認めている。

「試作や少量生産は簡単でも、大量生産は(本当に重要ですが)それぞれ異なる1万点もの部品やプロセスがあるため、その中の最も時間がかかることに合わせた速度で進むのです」という。

つまり、どこかひとつでも大量生産に引っかかる部品があればそれはできないというのだ。新しい設計思想、新しい車を開発するがゆえの苦労をわかってほしいとイーロン・マスクは訴えている。

超高強度の車全体を覆うステンレス鋼のボディにもまったく新しい製造プロセスを必要とする、とイーロン・マスク自身はコメント。自慢のギガプレスでうまく作ることができるには「新しいやり方」を編み出す必要がある。

サイバートラックが街を走り抜けるにはもう少し時間が必要

これまでテスラは、フルEVのピックアップトラック発売の一番乗りとなるかと思われていたが、それは怪しくなってきた。GMは2021年末までにハマーEVトラックをアメリカで発売する予定で、フォードも2022年にF-150 Lightningという電動ピックアップをデビューさせる予定になっている。

とはいえ、ピックアップトラックのフルEVの納車が遅れているのはテスラだけではない。Rivian社のR1Tも生産開始を9月に延期している。

テスラは今年5月、ニューヨークの街を走り抜ける動画を公開した。このサイバー感あふれる光景が現実のものになるにはもう少し待つ必要があるようだ。

小森岳史
小森岳史

EnergyShift編集部 気候変動、環境活動、サステナビリティ、科学技術等を担当。

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