「脱炭素企業分析」シリーズ、第10回は、かつての国内炭による石炭火力と水力発電で日本の電力自給を支えてきたJパワー(電源開発)である。現在、脱石炭が求められているが、それをどのように乗り切ろうとしているのだろうか。
エナシフTV「脱炭素企業分析」シリーズ
2021年4月16日、Jパワー(電源開発)は山口県宇部市で計画していた石炭火力を断念する。
Jパワーの株価は、2004年の上場以来、下降傾向にある。今回の石炭火力断念によりまた株価を下げることとなった。
宇部市で計画していた火力発電の概要は、60万kWの火力発電所を2基製造するというもので、出資比率はJパワー90%、宇部興産10%。もともと大阪ガスも出資していたが、2019年に撤退している。
これだけを見てJパワーは大丈夫なのか、と思う人もいるだろうがその結論は最後に述べたい。
1952年設立、当時の大蔵省と旧一般電気事業者が株主で、民営ではなかった。なぜ設立されたのか。正式な名称である電源開発株式会社が示すとおり、「民間ではリスクが大きい電源を開発する国策会社」で、歴代社長は通商産業省の官僚出身だった。主力の電源は投資回収の長い大規模な水力発電や、国内でも当時は多く掘っていた国内炭を使った石炭火力発電所などだった。
グラフの通り、現在でも水力発電と石炭火力がそれぞれ900万kWを超えており、この二つが電源開発を支えているといっても過言ではない。ただし、石炭については、国内炭鉱はほとんど閉鎖されているため、海外炭を使用している。
その他の火力は600万kW弱で、風力が53万kW、地熱が2.3万kW。
脱炭素といえば再エネだが、水力を除いた再エネが約55.3万kWしかないのは、今後の脱炭素の実現にあたって、心もとないところ。
カーボンゼロの電源としては、この他に青森県の大間町で138万kWの原子力を建設中。しかも、この原子力発電所は使用済み燃料から取り出したプルトニウムを専門に使うという、特殊な原発。国が進める原子力核燃料サイクルという政策に合致した発電所を建設中の電源開発、これが国策会社たる所以なのだが。
Jパワーが上場した理由は、特殊法人の整理の一環だった。そもそも、国内で石炭を掘ることが無くなり、国内炭の供給がなくなる。したがって、大間原子力の開発を除けば、Jパワーそのものが、国策として不要な会社になっていたことも指摘できる。
実際に当時、Jパワー解体論もあった。解体して発電所を各電力会社に引き渡すという発案まであった。しかし、Jパワーの経営状態そのものは、各電力会社と長期契約があり、安定した収入があり、決して悪くはなかった。こうした背景から、2004年10月に上場、民営化となった。
安定した経営基盤があることから、上場当時の市場は好意的に受け止めていた。しかし、石炭火力は将来性がなく、国内の電力需要も伸び悩む。そんな中で何をもって自分たちが成長していくか、その模索の始まりでもあった。
Jパワーの成長の方向は、新規事業と海外案件ということになる。
新規事業については、再エネの分野で、2000年12月には北海道苫前に当時最大規模の3万kWの風力発電所を建設。
また、この他にも小規模な案件で新しい方向を模索する。同じ2000年10月、東京都葛飾区にある金町浄水場に2基のコージェネレーション設備をPFIで建設した。これは。Jパワー初めてのプロジェクトファイナンスを組んだ案件であった。
海外発電事業でも、もともとコンサルティングは行っていたが、1997年ごろから着手、面白いのは2003年にタイで1万kWほどのもみ殻の発電所を建設している。それ以前に10万kWを超える火力を同じタイで建設しているが、再エネの発電所であることには大きな価値がある。
現在、689万kWの持ち分が海外にある。
Jパワーは、なぜもっと早く石炭火力に見切りをつけることができなかったのだろうか。実は、電力自由化が関係している。電力自由化となっても、新規参入者のほとんどは電源を持っていない。もっとも低コストで建設・運営できる発電所といえば、かつては石炭火力だった。何より燃料費が安い。都市ガス会社ですら、調達しやすい石炭火力を建設し、大手電力依存を減らそうとしていた。
新規参入する電力会社にとって、石炭火力の経験があるJパワーは共同で事業を進めたい相手であったし、Jパワー自身も旧一般電気事業者との長期契約が切れた後のことを考える必要があった。こうした利害の一致が、石炭火力からの撤退を遅らせたといえるだろう。
しかし、石炭は持続可能な電源ではないことが明確になり、2050年カーボンニュートラルを目指していくことになり、Jパワーもついに宇部市での石炭火力から撤退した。2030年、温室効果ガス46%削減ということになれば、石炭火力を新たに建設しても、減価償却できるまでの十分な運転はできない。
まず、石炭火力からの脱却が必要だろう。900万kWある石炭火力を、いかに再エネに転換していくかがカギとなる。それには、CCUS(CO2回収・利用・貯留)を導入するのか、燃料を水素やアンモニアに転換していくのか、あるいはさらなる再エネの拡大を目指すのか。経営陣がどのような判断をしていくのかが、肝となる。
現在の計画では、2025年までに再エネを100万kW積み増しする。その先、洋上風力の計画もあり、これらが現実のものとなっていけば、Jパワーは脱炭素していけると考えられる。
一方、大間原子力は非常に大きな問題だ。核燃料サイクルは破綻しているという考えに立てば、大間原子力を切り捨てて身軽になることが必要だが、それができるかどうかが問われる。
KDDIとともに買収したエナリスを軸とした、新しい電気事業を展開していくことは、期待される分野だ。エナリスはVPPをはじめとする電気事業のデジタル化など、今後の再エネで重要になってくる技術を有している会社であり、どのように連携していけるのかが、将来を左右するといってもいいだろう。
大手電力と契約している現在の安定した経営基盤を活用し、将来に向けてどのように業態転換できるのかがJパワー経営陣の腕の見せ所になる。
こうした経営改善を図れれば、積極的な海外展開や新規事業の展開も行っているので、脱炭素も現実のものとなるだろう。
(Text:MASA)
ヘッダー写真:KishujiRapid, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons
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