ロールスロイスのマイクログリッド / 風力発電のO&M / アメリカは2035年に90%ゼロエミ電力に / テスラのヨーロッパ電力市場参入 / アメリカは天然ガスをスキップ / ドイツの鉄道網拡大 / ハンガリー国営エネ企業が再エネIPO | EnergyShift

脱炭素を面白く

EnergyShift(エナジーシフト)
EnergyShift(エナジーシフト)

ロールスロイスのマイクログリッド / 風力発電のO&M / アメリカは2035年に90%ゼロエミ電力に / テスラのヨーロッパ電力市場参入 / アメリカは天然ガスをスキップ / ドイツの鉄道網拡大 / ハンガリー国営エネ企業が再エネIPO

ロールスロイスのマイクログリッド / 風力発電のO&M / アメリカは2035年に90%ゼロエミ電力に / テスラのヨーロッパ電力市場参入 / アメリカは天然ガスをスキップ / ドイツの鉄道網拡大 / ハンガリー国営エネ企業が再エネIPO

日本ではあまり紹介されない海外のエネルギー業界最新ニュース。EnergyShift編集部が厳選してお送りする。

ロールスロイスはドイツ・ベルリンにマイクログリッド・コンピテンス・センターを設置。

ロールスロイス、ベルリンにマイクログリッドセンターを設置

ロールスロイスは2020年1月に、電力貯蔵システムのスタートアップであるQinousを子会社化したが、現在はドイツのベルリンにあるQinousの拠点をマイクログリッド・コンピテンス・センターとして拡大した。
センターは、シンプルなストレージ・ソリューションから、蓄電池と再生可能エネルギー、およびディーゼルやガスの発電機をインテリジェントに組み合わせる複雑なマイクログリッドに及ぶという。
Qinousはすでに、世界各地で50件に及ぶマイクログリッドの実証試験に参加している。今回のセンターの設立によって、マイクログリッドの専門知識を拡大することで、ロールスロイスにおいては、太陽光発電や風力発電を含む分散型エネルギーの製品とソリューションが完成するという。今後は、ロールスロイスとして、再生可能エネルギーのソリューションをテーラーメイドで提供していく。

Rolls-Royce expands Berlin start-up into microgrid centre (Power Engineering International:2020/06/22)

風力発電のO&Mはもっと効率的になる

風力発電のO&Mのソリューションを提供するONYX InSightの調査によると、風力発電の所有者やオペレーターの75%は、風力発電のO&Mに十分な投資をしていないため、余分なコストがかかっていると感じているという。
100MWの風力発電所は、平均して年間200回の誤ったアラートを発する可能性があるという。その対応のために、年間約16万ポンドの損失が見込まれるということだ。
風力発電所のO&M事業者の50%以上は、AIによる機械学習を取り入れている。しかし、それによる分析には限界があり、現状では経験を積んだエンジニアによる分析が不可欠ということだ。それにより、間違ったアラートの93%の削減が可能となり、O&Mの予算を30%削減できるという。

Owners and operators are wasting thousands on unnecessary O&M costs(Renewable Energy Magazine: 2020/06/24)

米国は2035年までに電力の90%を脱炭素化することが可能

米カリフォルニア大学バークレー校の研究者は、2035年までに米国の電力の90%をゼロエミッション電源にすることができるというレポートを公表した。また、再エネ開発にあたっては消費者への追加費用はなく、90%のうち70%が再エネ、残り20%が原子力と大規模水力になるということだ。
2010年から2019年の10年間に、風力発電は70%、太陽光発電は90%、バッテリーは90%もコストが下がっているという指摘がある。特にバッテリーはゲームチェンジャーになる可能性がある。しかし、技術開発に対する過小評価が、将来の予測を見誤らせている。
その一方、化石燃料に対しては、健康被害のコストが反映されていないとも指摘されるという。
レポートの執筆者の1人でGridLabのエグゼクティブプロデュサーであるRic O’Connell氏は、「研究者は(2050年の)100%ゼロエミ電源の実現可能性ではなく、まずは(2035年の)90%への到達に焦点を合わせるべき」だという。「100%ゼロエミ電源にする技術は進んでおり、米国の電力網はそのためにオーバーホールするという段階まできている」のが現実であるということだ。

USA Could Hit 90% Clean Electricity By 2035(Clean Technica:2020/06/25)

テスラ、Autobidderでヨーロッパの電力市場に参入

テスラは、再生可能エネルギーや蓄電池などの電気をリアルタイムで取引することができるプラットフォームとして、Autobidderを開発し、提供している。すでに南オーストラリアの電力市場に実装され、運用されているほか、米国でも導入されている。
2020年6月から、EPEX(ヨーロッパ電力取引所)ともリンクした。実際に参入したのは、EPEX SPOTで、中央・西ヨーロッパおよび英国の電力スポット取引市場だ。蓄電池を所有するエネルギー事業者や電力会社は、Autobidderによって、充電や売電を制御し、収益を最大化することができる。
テスラは今回の参入を足掛かりとして、将来はヨーロッパ市場でも電力会社の一角を担うことを目指している。

Tesla's Autobidder Enters the European Energy Market (Tesmanian:2020/06/29)

Tesla enters Europe energy market with its Autobidder platform

石炭から再エネへ、天然ガスをスキップする米国の電気事業

2020年6月に、米国の3つの州で石炭火力を廃止し、再エネ発電所を建設するという計画が発表された。
3つの州とは、アリゾナ州、コロラド州、フロリダ州。例えば、アリゾナ州のTucson Electric Power (TEP)は、1,073MWの石炭火力と225MWのガス火力を廃止する一方、1,703MWの太陽光、846MWの風力、1,430MWの蓄電池を整備する予定だ。2035年には、電力の70%が太陽光と風力によってまかなわれる。他の州のケースについても、ガス火力という選択肢はあるものの、全体としては、ガス火力に頼ることなく、石炭から再エネに移行するという方針だ。

Coal loses out to solar, wind and storage in Arizona utility plan (PV Teck:2020/06/29)

U.S. Utilities are now skipping the gas ‘bridge’ in transition from coal to renewables(IEEFA:2020/06/30)

ドイツは鉄道網拡大に毎年30億ユーロを投資

ドイツ政府は、鉄道インフラへの投資を倍増しており、2020年には30億ユーロ(約3,600億円)を投資する。政府はすでに鉄道輸送マスタープランを作成しており、2020年6月30日には、Andreas Scheuer運輸大臣と鉄道協会の代表が協定に署名をする。
Scheuer運輸大臣によると、この協定の背後にあるのは、気候変動とデジタル化だという。「鉄道は気候に中立な輸送形態であり、道路から鉄道に交通を移動させる必要がある」ということだ。
主な目標は、2030年までに乗客数を2倍(現在は年間約26億人)に増やすことや、貨物輸送の大幅増など。約10万人の雇用が、国営鉄道事業者のドイツ鉄道だけで創出されると予想されている。
しかし、懐疑的な見方もある。例えば、ドイツ鉄道は2038年までに100%再生可能電力を使用したいとしている。その一方で、鉄道貨物の利用率は低迷しており、航空機やトラックによる輸送はコロナ危機以前には着実に増加していた。これを鉄道貨物にシフトさせるのは簡単ではないということだ。

Germany to invest 3 billion euros annually in railway expansion (Clean Energy Wire:2020/06/30)

ハンガリー国営エネルギー企業が再エネIPOを計画

ハンガリーの国営エネルギーグループMVM Zrt.は、バルカン諸国のエネルギー事業や自然エネルギー関連事業の買収や取引を計画しているという。
MVNはハンガリーではMol Nyrtに次ぐエネルギー企業で、ハンガリー国内ではE.ONのユニットの買収などを進めている。
MVNは2020年6月に、セルビアの電力会社と協力締結を結び、9月にはベオグラードに支社を置く予定。この拠点を通じて、バルカン半島のエネルギー事業を買収していくという。また、年間30億m3のLNG購入契約を持っているが、あわせてクロアチアのLNGハブの株式を取得し、インフラの問題を解消している。
ハンガリー国内ではすでに150MWの太陽光発電を開発したが、1年で倍増させ、最終的には500~600MWにまで拡大するという。この他、600台のEV用充電設備を展開。今後は、再エネ投資拡大のために、グリーンボンドの発行も検討しているという。

Balkan Deals Mark Road to IPO for Hungarian Energy Champion (Financial Post:2020/07/01)

(Text:本橋 恵一)

もとさん(本橋恵一)
もとさん(本橋恵一)

環境エネルギージャーナリスト エネルギー専門誌「エネルギーフォーラム」記者として、電力自由化、原子力、気候変動、再生可能エネルギー、エネルギー政策などを取材。 その後フリーランスとして活動した後、現在はEnergy Shift編集マネージャー。 著書に「電力・ガス業界の動向とカラクリがよーくわかる本」(秀和システム)など https://www.shuwasystem.co.jp/book/9784798064949.html

エネルギーの最新記事