第1回では、どのようなスタートアップに投資するのか、また投資を判断するポイントについて、環境エネルギー投資代表取締役の河村修一郎氏におうかがいした。第2回となる今回は、ESG投資やグリーン投資の現状についてお話しいただく。(全3回)
― 最近の卸電力取引市場の高騰など、エネルギー事業には確かに通常以上に困難な場面は少なくないと思います。
河村修一郎氏:電力の高騰といった問題が起きるかどうかに関わらず、スタートアップが成功するには、どういった顧客のハートを掴むかが大事です。
顧客の拡大が至上命題である最初期の段階は別としても、どういった顧客にフォーカスするのかを考えることが必要です。そして、対象となる顧客が何を求めているのか、その声に耳を傾けなければいけません。
大手電力会社は、いわば全方位に顧客がいます。しかし、スタートアップはリソースが限られていることがほとんどですから、どこかに照準を固めて一点突破していくスタイルがよいでしょう。どのセグメントが適しているのかは、正直、やってみないとわからないものです。その試行錯誤のプロセスは決して無駄にはなりませんから。
今回の価格高騰についていえば、乗り超えた企業にとっては、今回の経験を活かして、次の手をどう打っていくかが大事です。今後も頻度は少ないと思いますが、起こる可能性があります。リスクにどのように対応するのか、そのことをあたり前に考える時期に入ったということでしょう。
例えば、市場連動料金メニューのように、お客様にもリスクを背負ってもらうということもあるでしょう。この場合、市場価格が下がったときのメリットをお客様に享受してもらうことや、小売価格に上限を設定することなども考えるべきでしょう。いずれにせよ、それぞれの企業が進化をとげるきっかけになると思います。
環境エネルギー投資・河村修一郎代表取締役
― 次に、日本におけるグリーン投資の状況についてお伺いします。
河村氏:先ほど申し上げたように、今、グリーン投資に限らず資金があふれかえっている時代です。そんな中、グローバルレベルでグリーン投資へと資金が流れ込んでいます。インパクト投資やESG投資、SDGsが加速していることはその一例です。
一般的に、これらの資金の流れには、ある種の順番があるとされています。
まずは、流動性の高い対象である東証一部などの上場株式です。ビッグ・テックと呼ばれるGAFAやマイクロソフトなどが投資対象として最初のターゲットとなりました。
次のターゲットとして、徐々に流動性のない対象に移行していきます。デット(債券)に近いものだとREIT(不動産投資信託)やインフラファンド、プライベートエクイティなどがあります。
もっとも流動性のないスタートアップへの投資にたどり着くのは最終プロセスです。こうした大きな順番そのものはグリーン投資でも変わりませんが、流れるスピードが加速していくと考えています。
― 日本でもグリーン投資は増えていくのでしょうか。
河村氏:欧州と比較すると、日本ではグリーン投資がまだ少ないですが、これからどんどん増えていくと予想しています。
おととし(2019年)の秋口くらいから、機関投資家からESG投資とリターンとの間に正の相関関係がみられるようになってきたという話を聞くようになりました。流動性が高い株式の中で独自にESGの採点をしながら投資したところ、ESG経営に力を入れている企業ほど多くのリターンを得られるようになってきたというのです。
その頃から、ESG投資についての報道が出始めましたが、新型コロナの影響によって、一旦マーケットが崩れてしまいました。
しかし、コロナ禍でもESG経営に意を用いた企業の方が崩れなかったのです。ESG投資を行うのは投資家の責務ですが、それに加えて、ESG投資の方がもうかるという認識が広がってきました。
環境(Environment)・社会(Social) ・ガバナンス(Governance)のESG投資が常識に
― 日本でもグリーン投資が拡大する素地ができてきたということでしょうか。
河村氏:先ほど申し上げたように、社会的課題が先鋭化してきたことで、それを解決しなければならないという共通の言語ができてきたのだと感じられます。言い換えれば、社会の課題に対して解決策を見出すことが商売になるようになったのです。
しかも、我々のように、政府や自治体の補助金なしに課題解決に取り組むことに対してお金を出す主体も存在します。これは、再エネ発電設備の導入拡大にもいえることです。
課題に対して、具体的な解決策をきちんと提示できる企業こそが、ESGに貢献しつつ収益を上げていく時代がやってきました。ESG投資とリターンとの間に正の相関が現れてきたことは、このような時代の到来を意味します。
今までは、政府主導で再エネの導入目標を掲げ、進捗しないためにFIT制度で後押しをしてきた訳ですが、その時代は過去のものになりつつあります。
むしろ今は、国の制度に頼らず、民間の中で社会的課題に対応しないといけないという動きが生まれてきました。社会的課題を解決するプレーヤーに対してお金が支払われる時代になったということでしょう。
― そうした点でモデルケースになるような企業はいかがでしょうか。
河村氏:当社が最近投資した中に、シューマツワーカーという企業があります。この会社は、新型コロナもあって働き方が変わる中、大きく伸びています。
多くの企業が副業を奨励するようになりましたが、いざ副業を始めようとしても、どうしていいかわからない人は多いでしょう。例えば、日本酒の酒蔵がECを始めたいと考えたとします。社内にはシステムを作れる人がいないし、大手に頼んでもコストが高い。そんなとき、日本酒好きのエンジニアが副業でECサイトをつくれば、きっといいものができます。こうした新しい働き方ができる時代になったのです。
新しい働き方が示すように、先鋭化された社会問題があり、それにどのように解決の道筋をつけていくのかが、わかりやすい時代になってきたということです。
シューマツワーカーウェブサイト
(明日更新の第3回に続く)
(Interview:本橋恵一、Text:山下幸恵、Photo:関野竜吉)
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