シリーズ 容量市場を考える
2020年度からスタートした容量市場の約定結果(2024年度分)がほぼ上限価格だったことから、制度や約定そのものの見直し論まででている。経産省審議会ではこれに対し、どのような議論や提案が行われているのか、そして、どのような課題が指摘され、あるいは見直されるべきなのか、エネルギージャーナリストの木舟辰平氏が解説する。
上限価格に張りついた約定結果
2020年9月14日に公表された容量市場初取引の結果が波紋を広げている。実質的な上限価格である1万4,137円/kWという約定価格はほとんどの関係者にとって想定外の高値だった。市場への依存度が高い新電力には負担が重くのしかかることになり、経営への悪影響を緩和する措置を求める声が相次いでいる。来年度に向けて検討が必要な項目も、非効率石炭火力フェードアウトとの整合性など多岐にわたる。容量市場は創設初年度にして早くも大幅な制度見直しが不可避な情勢だ。
容量市場とは、発電できる能力(kW価値)を取引する場だ。自由化後も十分な発電容量を日本全体で確実に確保するため、電源の容量自体に経済的対価を支払う仕組みが導入されることになった。今年度が市場創設初年度で、2024年度の安定供給維持のために必要な容量が取引された。
約定価格は、需要曲線と供給曲線の交点として一元的に決まる。事前に公表された需要曲線では、新設電源が固定費を回収できる理論上の額である指標価格を9,425円/kWに設定。その1.5倍である1万4,138円/kWを上限価格とした。容量市場の創設で先行する英国や米PJMでの約定価格は指標価格を下回る傾向にあることから、取引前は日本も同様の傾向になるとの見方が強かった。それがふたを開けてみれば、上限価格に張りつく結果になった。
新電力から相次ぐ、負担の緩和措置を求める声
約定価格と確保量をかけ合わせた約定総額は、1兆5,987億円。発電事業者等に支払われるこの巨額の金は、主に小売電気事業者が需要ピーク時のシェアに応じて負担する。発電と小売の両事業を抱える大手電力は収入と支出が相殺されるが、発電事業を営まず市場からの調達率が高い新電力には大きな負担が追加的にのしかかることになる。
そのため、新電力から懸念が噴出した。9月17日の資源エネルギー庁の電力・ガス基本政策小委員会 制度検討作業部会では、エネットや東京ガスなどが約定処理のやり直しを求めた。経済産業相や環境相への要望も相次いでいる。例えば、10月5日には日本生活協同組合連合会が、自由化の意義を損ないかねないとして「約定結果の白紙撤回と、容量市場制度の再検討」を求める意見書を提出した。
高値の主因は経過措置? 埋没電源? 目標調達量設定?
上限価格に張りついた要因は複合的だが、主因のひとつとして当初考えられたのが、経過措置導入に伴って逆数入札を認めたことだった。経過措置とは、小売電気事業者の負担軽減のため、2010年度末以前に建設された電源への対価を一定期間減額するものだ。ただ、減額された容量収入では維持コストが賄えないと判断された電源は、本来の入札価格に控除率の逆数をかけた入札が認められた。
約定結果とともに公表された電力・ガス取引監視等委員会(以下、監視委)の中間報告では、約定価格近傍の入札電源の多くが逆数入札で、その結果として「入札価格を引き上げることとなった」と指摘した。そのため、逆数入札電源を約定電源から外して約定処理をやり直せば、約定価格は下がると期待されたが、監視委によるその後の分析により、逆数入札ではない電源も約定電源に含まれていたことが明らかになった。つまり、逆数入札電源を別枠の扱いにしても、約定価格は変わらないわけだ。
資源エネルギー庁は約定処理のやり直しには一貫して否定的で、新電力にとっても約定結果を受け入れた上で負担軽減につながる措置を要望する方が得策になっている。新電力にとって突きどころといえるのが、安定供給に必要な量以上の容量を確保した疑いが濃厚になっていることだ。
まず約定価格で札入れした電源が複数あったため、本来の約定量より約300万kW多く落札されている。それに加え、バイオマス混焼の石炭火力など、供給力として見込めるにもかかわらず約定量に含まれていない「埋没電源」が少なからず存在することも判明した。発電出力が不規則に変動する再エネの容量としての評価が過小だとの指摘もある。
さらに言えば、最大需要の113%という目標調達量の設定がそもそも過剰だとの声もある。こうした状況の中で、有識者からは、落札電源の辞退を無償で促すような対応は取れないかといった提案も出ている。
問われる脱炭素化のための「石炭火力フェードアウト」との整合性
目標調達量の設定方法は、来年度へ向けた制度見直しの論点のひとつだ。検討項目は他にも数多いが、なかでも難題なのが非効率石炭火力のフェードアウトとの整合性だ。
容量市場が非効率石炭の温存に手を貸すことのないよう、kW価値を他の電源種と切り分けるべきだとの意見も出ている。だが、そのことは制度の根幹の大きな変更となる。
市場創設前の詳細設計の際には、電源の新陳代謝を促すために新設電源と既設電源でkW価値を分けるべきとの声もあったが、発電する能力という点では新設も既設も変わらないという論理により否定された経緯がある。
改めて振り返れば、非効率石炭のフェードアウトだけでなく、再エネ主力電源化の方針が打ち出されたのも、容量市場の創設が決まった後だ。発電市場の構造は大きな変革の渦中にある。容量市場はその急激な変化にすでに対応できていない可能性もある。この際、市場の在り方について、タブーを設けることなく抜本的な検討を行なうべきかもしれない。