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2℃シナリオでは鉄鋼部門の排出量を75%削減する必要がある 水素による製鋼に需要増も

2℃シナリオでは鉄鋼部門の排出量を75%削減する必要がある 水素による製鋼に需要増も

2021年08月13日

地球温暖化を2℃以内に抑えるためには、鉄鋼部門の炭素排出量を現在のレベルから75%削減する必要があるとの報告を英調査会社のウッドマッケンジーが発表した。

世界の鉄鋼による二酸化炭素排出量は2020年に30億トン以上の二酸化炭素換算(Mt CO2)だが、これを2050年にはわずか780Mt CO2に減らすことを意味する。

ウッドマッケンジー社のシニアアナリスト、ミヒル・ヴォラ氏は次のように述べている。「これは非常に難しい目標です。鉄鋼業界は、需要の増加と脱炭素化への圧力との間で適切なバランスを取る必要があります。2℃の世界への道のりは、我々のベースケースの見解に比べて障害が多いのです」。

一方、鉄鋼の需要は、2020年から2050年にかけて23%増の2,300Mtになると予想されている。インド、東南アジア、南米などの発展途上国が需要の伸びを牽引する一方、中国や欧州は消費を縮小すると予想されている。

ヴォラ氏は「現在、鉄鋼は世界のCO2排出量の7%を占めています。世界がパリ協定の目標に沿った2℃の温暖化経路を達成するためには、この業界は脱炭素化を優先する必要があります。先進国は、水素利用などの革新的な新しい鉄鋼製造経路を通じて、排出量を抑制するためにより多くのことを行う必要がありますが、発展途上国は採用が遅れ、排出量削減への貢献度は小さいでしょう」とコメントした。

ウッドマッケンジーは、鉄鋼セクターが2℃の温暖化経路を達成するために必要な5つの主な目標をまとめた。具体的には以下の通り。

  1. 製鋼用スクラップの使用量を2倍にする
  2. 直接還元鉄(DRI)の生産・使用量を3倍にする
  3. 電気炉(EAF)の排出強度を世界平均で70%削減する
  4. 高炉-塩基性酸素炉(BF-BOF)の排出強度を30%削減し、理論上の最小値に近づける
  5. 残留炭素排出量の45%(年間約500Mt)を回収・貯蔵する

鉄鋼業界で2℃という厳しい温暖化経路に合わせることは、鉄鉱石や冶金用石炭の市場に混乱をもたらすが、製鉄における水素需要や炭素回収・貯留にとっては好材料となりえる。

鉄鉱石リサーチ部門の責任者であるロハン・ケンダル氏は「2℃シナリオにおける鉄鋼の極端な脱炭素化の可能性は、直接還元鉄の生産量を3倍にすることを意味します。これは、プレミアム鉄鉱石のサプライヤーにとって大きなチャンスとなります。スクラップ消費量の増加により、鉄鉱石の総需要はベースケースより24%減少するものの、ペレット製品の市場は35%拡大するでしょう」と述べた。

このシナリオでは、鉄鋼セクターの脱炭素化が直接還元鉄の貿易を促進することになる。オーストラリアとブラジルは、輸出用の水素による直接還元鉄の生産に適しているといえる。グリーン水素を還元剤として使用した直接還元鉄は、CO2排出量がほぼゼロの鉄鋼を製造することができる。中国とヨーロッパがDRIの主要な輸入国になると思われる。

また、スクラップ使用量の増加を達成するためには、スクラップのリサイクル率を80~85%から95%に向上させる必要があり、インドと中国のスクラップのサプライチェーンは、大幅な開発が必要となり、特に2030年以降の輸出入の鉄鉱石需要と置き換わるだろうとしている。

冶金用石炭の主席アナリストであるアンソニー・ナットソン氏は「2℃の世界では、中国では2040年代に船上からの輸入がほとんどなくなる一方、インドでは、鉄鋼需要が上昇し、輸入量が2倍の1億2,300万トンに達する」としている。

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EnergyShift編集部
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