カリフォルニア州の公営電気事業者、サクラメント電力公社(SMUD)は、決して大規模な事業者ではないが、米国のエネルギー業界の脱炭素をリードしてきたという点では、注目に値するだろう。“米国初”のグリーン施策を数多く輩出しており、気候変動対策をリードするカリフォルニアにおいても突出したその事業展開は、日本の電力会社も大いに見習いたい。
"イケてる" 米国の電力会社(2)−2
SMUDの家庭向け電力プランは、時間帯によって単価が異なる標準プラン(Time of Day)と固定料金プランの2つに大別される。どちらのプランとも「従量料金」と「システムインフラストラクチャ料金」そして「税金」などがふくまれている。「システムインフラストラクチャ料金」は、いわば送配電線を利用するための基本料金で、毎月22.25ドルの固定額だ。
① 標準プラン(Time of Day)
季節や時間帯によって異なる従量単価が設定されている。1月1日から5月31日までの「夏季以外」と6月1日から9月30日までの「夏季」とで単価が異なる(2021年10月1日以降の記載がないのは単価変更が予定されているためで、2%アップとなる見通し)。
「夏季以外」では、平日の17~20時がピークで14.65セント/kWh、それ以外の時間帯と週末・日祝(全日)が10.61セント/kWhだ。「夏季」では、平日17~20時のピーク時が31.05セント/kWhで、平日12~17時、20~24時がミッドピークで17.65セント/kWh、それ以外の時間帯と週末・日祝(全日)が12.77セント/kWhだ。日本の高圧・特別高圧向け季節別時間帯別メニューの料金体系とよく似ている。
SMUDが時間帯別の単価設定をする理由は、ウェブサイト上の動画でわかりやすく解説されている。ピーク時の電力は火力発電でまかなうことや、それに伴いCO2が排出されること、したがってオフピーク時の電気の利用が推奨されることなどが数分で理解できる。
標準プランでは、EVユーザーは深夜0時から午前6時までの従量料金単価が1.5セント/kWh割引になるオプションを選択可能だ。
Time of Dayの解説ビデオ
② 固定料金
標準プランよりは少し割高になるが、24時間単価が変わらない固定料金プランもある。季節ごとに単価が設定されている。1月~5月は11.30セント/kWh、6月~9月は18.06セント/kWh、10月~12月は11.53セント/kWhだ。標準プランより平均4%ほど高く設定されており、顧客に標準プランの選択を促していることが読み取れる。
標準、固定、いずれのプランにも「Greenergy」というカーボンフリーのオプションを付帯できる。
「Greenergy」とは、毎月プラス4ドルで50%のカーボンフリー、もしくはプラス8ドルで100%カーボンフリーにできるサービスだ。追加コストを支払うことでカーボンフリー化する全米初のサービスとされ、開始されたのは1997年だ。SMUDの環境対策関連サービスの中でもっとも古い。
カリフォルニア州では2020年から、新築住宅への太陽光発電の設置を義務づけている。単世帯住宅や3階建てまでの複数世帯住宅が対象だ。だが、この制度では同地域内の太陽光発電所による電気を使用すれば、パネルの設置義務が免除される特例が認められている。
「Solar Shares」とは、自宅に太陽光設備を設置することなくバーチャルで太陽光によるクリーンな電気を調達できる仮想ソーラーサービス。住宅向けには「Neighborhood Solar Shares」という名称で展開している。
「Neighborhood Solar Shares」はこの特例を認められたカリフォルニア州初のサービスだ。SMUDの供給エリア内の太陽光発電所で発電された電気を、各家庭にバーチャルで届ける。利用者はあたかも太陽光の自家消費のように電気代を削減できる。
エリア内の発電所はすべてSMUDが建設、運営、所有し、利用者は「Solar Shares Charge」という運営費用を毎月支払う。このコストを考慮しても年間の電気代を10~40ドルほど節約できるという。
一方、住宅の太陽光発電の余剰電力買取価格も変更される。これまで12セント/kWhだったが、SMUDはあらためて太陽光発電の電気の価格を試算し、7セント/kWhとして、買取価格が値下げされる。太陽光発電を設置していない世帯が不当に大きい負担をしているということだ。今後、太陽光発電の価格が下がる見通しで、買取価格もそれにしたがって下げられることになるだろう。
カリフォルニア州ではEVの普及拡大のために、2020年11月から購入もしくはリースの際に1台あたり1,500ドル(約15万円)の補助金を支給している。
SMUDはこれを受け、2020年12月にPlug In Americaとの提携による「SMUD EVサポートプログラム」をスタートした。専門の担当者が補助金から充電システムに至るまで電話やメールできめ細かいサポートを行う。
Plug In Americaとは、次世代自動車の普及を目指す消費者団体で、SMUDと共同でEVのショッピングサイト「SMUD.PlugStar.com」を運営している。
ところで、アメリカの家庭における使用電力量は概して日本よりも大きい。一般的に、アパートなどの集合住宅では月に500~1,000kWh、比較的小さな戸建て住宅では1,000~1,500kWh、プール付きの大きな住宅だと2,000~6,000kWhになることもあるという。家電の数や大きさ、エネルギー効率や断熱性能など原因はさまざまだが、日本人の筆者からみると少々使い過ぎの印象だ。
SMUDはユニークな方法で家庭の省エネを促しており、植樹もそのひとつだ。「Free Shade Tree Program」では、顧客ひとりあたり最大で10本の植樹ができる。顧客は事前に電話またはウェブで植樹する日時を予約し、植えたい木を40種類の中から選択するだけでよい。植樹によって日光がさえぎられると、室内の冷房効率が上がる。また、環境美化や炭素貯留にも効果がある。
また、オンラインストアの「SMUD Energy Store」ではサーモスタッドやLED照明、音声認識リモコンなどの販売を行い、省エネを推進している。ダウンサイジング・マネジメントというSMUDの真骨頂が、ここでも実践されている。
SMUDは電気事業者としては、決して大きな会社ではない。それでも、市民による市民のための電気事業者として、積極的に新技術を取り入れ、持続可能な事業を推進している。今後も小さくともきらりと光る事業者でありつづけるだろう。
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