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世界で再び脚光浴びる原子力 不信感が根強い日本の原子力発電の実情とは

2021年11月19日

新規受注ゼロ、見通し立たず、原子力事業から撤退相次ぐ

原発の長期稼働停止が続き、日本の原子力産業も冷え込む。

原子力産業は、プラントメーカーである日立GEニュークリア・エナジー、東芝エネルギーシステムズ、三菱重工業の3社を頂点に、原子炉圧力容器、タービン、冷却材ポンプなどの一次サプライヤー、その他部品、素材を製造する二次サプライヤーなど、年間1.7兆円(2020年)、約8万人が従事するサプライチェーンが構築されている。近年は再稼働に向けた安全対策工事が増え、原子力産業界の売り上げ自体は横ばいで推移するが、設備や機器、燃料、材料は著しく減少し、原子力事業からの事業撤退が相次いでいる。

神戸製鋼所と旧住友金属工業の合弁で、国内唯一の沸騰水型軽水炉(BWR)向け原子力燃料被覆管メーカーであったジルコプロダクツは2017年、会社を解散、生産を停止した。これにより、燃料被覆管は国内調達ができなくなった。

旧新日本製鉄と三菱製鋼が合弁で設立した日本鋳鍛綱は、圧力容器や蒸気発生器、タービン用部材を製造していたが、2020年3月に自主廃業した。圧力容器の部材を供給できる企業は日本製鋼所M&E1社になった。

川崎重工業は蒸気発生器など主要部品を製造していたが、2021年4月、原子力事業を、原発の保守管理や除染を手掛けるアトックスに譲渡した。

新規受注の低迷、さらに中国などの国産化の進展により、国内大手の原子力部門の売り上げも大幅に減少している。国内で唯一、圧力容器部材を供給できる日本製鋼所M&Eは震災後、売り上げが10分の1に低迷したままだ。蒸気発生器の伝熱管で世界シェア33%を持っていた日本製鉄も、2020年の製造実績が100トン超(年間生産能力1,600万トン)まで低下し、震災後、売り上げが10分の1程度にまで落ちている。

新規受注が減り、見通しも立たない中、人材流出も止まらない。特に、溶接や組み立てなど高い技術を持つ技能職は2019年時点で、2010年度比マイナス46%とほぼ半減した。


出典:経済産業省

日本製鋼所M&Eは、今年4月の原子力小委員会において、原子炉圧力容器、蒸気発生器部材の生産実績について、「国内新規案件向けとしては約15年前が最後の実績。供給量は2011年対比でおよそ半分以下となった。このままでは技術や技能の伝承が途絶えてしまう」と訴えた。

原子力産業が日本から消失するのではないか。産業界では人材・技術基盤の維持に強い危機感が広がっている。


出典:日本製鋼所M&E

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藤村朋弘
藤村朋弘

2009年より太陽光発電の取材活動に携わり、 その後、日本の電力システム改革や再生可能エネルギー全般まで、取材活動をひろげている。

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