蓄電池ならぬ蓄熱池 太陽光の課題解消に冷凍冷蔵庫が一役 ―米国で普及する、冷熱を蓄熱する冷凍冷蔵倉庫 | EnergyShift

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蓄電池ならぬ蓄熱池 太陽光の課題解消に冷凍冷蔵庫が一役 ―米国で普及する、冷熱を蓄熱する冷凍冷蔵倉庫

蓄電池ならぬ蓄熱池 太陽光の課題解消に冷凍冷蔵庫が一役 ―米国で普及する、冷熱を蓄熱する冷凍冷蔵倉庫

2021/09/10

日本に限らず、太陽光発電や風力発電など、変動する再生可能エネルギーの普及にあたって、蓄電池などエネルギー貯蔵のしくみが必要だ。しかし、なにも溜めれるのは電気だけではない。電気ではなく熱として蓄えることも重要な選択肢だ。こうした中、米国スタートアップが、冷熱を蓄えて、冷却設備の稼働を止めても一定の温度に保つ冷凍冷蔵庫を普及させている。どのような技術なのか、YSエネルギー・リサーチ代表である山藤泰氏が解説する。

冷凍冷蔵庫が抱えるエネルギーコストという課題

膨大な冷凍・冷蔵食品の流通を支えているのが、コールドチェーンと言われる冷凍冷蔵倉庫だ。日本に限っても、冷凍倉庫で検索すると411社という数字が出ている。さらに日本冷蔵倉庫協会には1,180社ほどの会員がいるようだから、この数以上の冷凍・冷蔵倉庫が日本全国に散らばって営業をしていることになる。この他にもコンビニなどで使われる小規模の冷凍冷蔵庫があるのを考慮すれば、営業用冷凍冷蔵庫の数は膨大となる。

冷凍冷蔵倉庫業界最大の関心事は、倉庫の低温を維持する冷凍装置で消費される電力コストをできるだけ低くするということだが、夏と冬、昼と夜の外気温の変動のために、どうしても昼間の電力消費が大きくなってしまう。

エネルギー効率の高い冷凍システムの導入や高断熱構造、照明のLED化、太陽光発電の設置などで工夫をしているようだが、四季を通じて昼間に消費する電力が夜より大きくなるのは避けられないことだった。標準的な冷凍倉庫は1,000kW相当の冷熱を保持しているそうだから、それを維持する電力量は膨大になる。

高性能な保冷剤で冷却設備の稼働を効率化

だが、この常識が変わる可能性のある冷凍新技術を開発したベンチャーがアメリカに出てきた。フロリダで立ち上げたが現在はテキサスに本拠を置くViking Cold Solutions(以下、Viking Cold)だ。同社は水と塩の水和物を組み合わせた冷熱保存材を開発したのだが、これに冷熱を加えても、水和物の相変化(液体と固体の間で変化するときは温度が一定となるしくみ)が起こることによって、一定の温度を保ちながら冷熱エネルギーを吸収してくれる。

逆に、貯蔵品を冷やすために冷熱を放出させても、その保冷剤の温度はやはり相変化によって一定に保たれる。

つまり、どんな状況下でも放出する熱量を一定にできるのであって、冷却したいときにどんどん冷却をすれば、そのキャパシティの上限まで冷却熱を溜めることができる。いわば蓄電池ならぬ蓄熱池だ。

これをViking ColdはTES(Thermal Energy Storage:熱エネルギー貯蔵)と称している。保冷剤の温度はマイナス28℃から0℃までの間で設定できる。

このTESの場合、冷却設備の稼働は昼夜を問わずほぼ一定になる。外気温度が下がる夜にも通常の稼働をさせて冷熱を蓄熱する。昼になると、夜蓄えた冷熱を放出させることによって、冷却設備の稼働を夜とほぼ同じレベルで行っている。

ということは、昼間にも冷却設備はフル稼働していないから、先ほど言及したように、もし必要があれば、稼働率を上げて電力消費を増やしても、発生する冷熱は蓄熱されるため冷却材の温度を一定に保つことができる。

これによって冷却設備のエネルギー効率が平均して25%は上がり、35%以上エネルギーコストを下げることができるとしている。既存の冷却設備に新方式の保冷剤を取り付けるだけだから、投資額も少なくて済む。

冷熱の保存を通じて、太陽光発電の設置を促進

Viking Coldは、これまで5年間、毎年食品流通業界から地球温暖化を防止するグリーンプロバイダーとして表彰を受けている。ただ電力消費を大きく抑制できたことだけでグリーンと言われるのは変だと思い調べて見た。冷熱の保存法が従来のものとは基本的に異なるため、天候によって出力が変動する太陽光発電の設置を促進する効果があるからのようだ。

この方式の営業用冷凍冷蔵庫が、カリフォルニアを始めとする風力・太陽光発電といった変動性再エネの設置量を増強している州にある多数の発電事業者から、出力変動を抑制する極めて有効な手段として注目を集め、系統用大規模蓄電池に代わる機能を持つ設備として設置に向けた奨励策がとられるようになっている。

具体的に言えば、快晴の昼間には太陽光発電がフル稼働するが、電力需要がそれを消費できるほど大きくなく、余剰分を蓄電するだけの蓄電池がなければ、発電事業者としては太陽光発電の出力抑制で対応せざるを得なくなる。

しかし、この時にViking Coldの冷却方式TESを持つ冷凍冷蔵倉庫事業者が余剰分に相当する冷却設備を稼働して電力を消費してくれれば、再エネの変動を完全に吸収抑制できることになる。

いわゆるデマンドサイド・マネジメントという方式だ。低温倉庫事業者は、発電事業者の要請に協力すると、電力料金が安くなるなどの報酬を得ることができる。

Viking Cold関連の資料では、日本でもクロネコヤマトが同じような蓄熱方式を開発し、コンビニのローソンがその利用を検討中だという。

冷凍冷蔵倉庫で、再エネの出力抑制回避を

冷凍設備の稼働レベルを変えても一定の低温を保つこのような方式を、いま太陽光発電の出力抑制を頻繁に行って問題視されている九州電力に利用させて、抑制をなくすことは出来ないだろうか。

環境エネルギー政策研究所(ISEP)がこの7月に出した資料によると、九州電力管内の太陽光発電事業者は2021年4月以降、2ヶ月間で最大20%もの出力抑制を受けているようだ(ISEPプレスレリース2021年7月29日号)。再エネ比率を高めることが至上命令になっている日本で、これは大きな問題だ。

この対応策として、九州の冷凍冷蔵倉庫事業者にTES方式を広く導入すれば、出力抑制を避けることが出来るだろう。福岡県冷蔵倉庫協会だけでも会員数は約70事業所あり、設備能力は約77万トンだというから、新しい方式の保冷材の導入に向けた促進策を検討すべきではないだろうか。

地域に広く分散して営業しているコンビニの冷凍庫も含めることができれば、太陽光発電の余剰電力を全てなくすシステム構築が出来るはずだ。政府施策として検討する価値があるだろう。


青い部分が保冷剤容器
Viking Cold Solutions™ | Innovative Thermal Energy Solutions™ across the global cold chain

山藤泰
山藤泰

1961年大阪ガス株式会社入社。1980年代に40kWリン酸型燃料電池のフィールドテスト責任者、1985年ロンドン事務所長、1994年エネルギー・文化研究所長を経て2001年退社。2006年YSエネルギー・リサーチ代表。 最近の訳書に「スモール・イズ・プロフィタブル」(省エネルギーセンター 2005年) 「新しい火の創造」(ダイヤモンド社 2012年)。最近の著書では、「よくわかるスマートグリッドの基本と仕組み」(秀和システム2011年改訂)など、訳書・著書多数。