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脱炭素のカギとなるバッテリーの資源争奪戦 世界の動きに日本は対抗できるのか

脱炭素のカギとなるバッテリーの資源争奪戦 世界の動きに日本は対抗できるのか

EnergyShift編集部
2021/04/19

EVのバッテリー資源確保が各国で活発になってきた。世界経済フォーラムはグローバル・バッテリー・アライアンス(世界バッテリー連合)という組織を作り、将来にわたるバッテリー開発を提唱している。日本では政府が主導で鉱山開発の資金援助を増やす一方、民間でもバッテリーの原材料確保に向けて55社が連携する電池サプライチェーン協議会(BASC)を本格的に始動させた。

脱炭素社会に欠かせないバッテリーの資源確保は現在、どうなっているのだろうか。

脱炭素文脈でなぜバッテリー市場が拡大するのか

バッテリーはもちろん、EV(電気自動車)だけに使われるものではない。充電できる2次バッテリーはIoT機器の拡大、社会のデジタル化(DX)の広がりとともに、さまざまなところにバッテリーは使われており、開発競争が激しくなっている。たとえば、iPhoneひとつとっても世代が変わるごとにバッテリーの持ち、容量が大きくなっていることが実感できるだろう。


Apple, Why Lithium-ion? ウェブページより

脱炭素、カーボンニュートラルはいくつかの要素で構成されるが、大きくわけると発電(供給側)側と需要側になる。さまざまなエネルギーで、カーボンを出さないようにしていこうとすると、突き詰めると自然エネルギーで発電し、安定的に、効率良く使う、となる(もちろん、一気にそうなるわけではないし、課題も多いので、究極には、と言うことだが)。

自然エネルギーを安定的に使うということでは、送電網を配備して、足りないところに電力を融通するのと同時に、需給をコントロールするためにどうしても大容量のバッテリーが必要になってくる。車での輸送や移動も、化石燃料を使わないとなると、EV、もしくはFCV(燃料電池・水素を使った自動車)に移行するのが考え方としてはシンプルだ。

世界経済フォーラムの報告書には、2030年までにバッテリーは運輸/電力分野で必要とされるCO2排出量削減に30%寄与し、6億人に電気へのアクセスを提供し、1,000万人の安定的な雇用が生まれるとしている。一方で、そのためにはバッテリーは10年間で19倍に拡大しなくてはいけないともあり、急拡大が求められている。

Global Battery Alliance :A Vision for a Sustainable Battery Value Chain in 2030より

他のエネルギーで注目されている、たとえば水素だが、これは有望なのは間違いないが、自然エネルギー由来の水素が社会へと行き渡るにはまだ課題が多い。2050年までには間にあってほしいが、楽観視はできない。

ここで簡単にあげただけでも、バッテリーには、IoT機器、電力の安定供給、人の移動(車)という大きな役割がある。短期集中連載で紹介したテスラのバッテリーへの取り組みも、「電力の安定供給」と「車」という両方を手がけていることがわかる。

それだけ、脱炭素を目指すには、バッテリーが要なのだ。バッテリー開発が国家間で大きな問題になっているのも、バッテリーを制することが国交にもからむ問題になりつつあるからだ。

バッテリーの製造に欠かせない原材料の確保に各国は躍起

現在主流になっているバッテリーは、リチウムイオン電池だ。世界初の量産車にバッテリーを組み込んだプリウス(ハイブリッド)は、リチウムイオン電池ではなく、ニッケル水素電池というものだった。しかし、エネルギー密度が高く(ニッケル水素の2~3倍)、電圧も高く、コンパクトで、充放電サイクルの寿命が長いことから、プリウスも2015年からリチウムイオン電池になっている。もっと最近のEV、たとえばテスラやリーフはもとからリチウムイオン電池だ。

このリチウムイオン電池、その名の通り、リチウムが使われている。使われている部分は、負極と電解質になる。正極はコバルトだ。ふたつとも、レアメタルと呼ばれており、世界中で採取できるところは限られている。

このリチウムの価格が高騰している。電池用のリチウム価格は2020年12月から2021年3月までの4ヶ月で約2倍になった。この価格高騰は、アメリカのバイデン政権への政権交代で、世界全体が脱炭素になる=EV/バッテリー需要が増えると言うことを見越してのものだ、とも言われている。

リチウムイオン電池の使用量は2005年から現在までに15%増加しているが、2025年には推定で53%急拡大し、産業規模は650億ドルから2025年に1,000億ドルになると言われている(GBA)。

英ウッドマッケンジー社は「業界全体がEVに移行する中で、自動車の差別化を図るにはバッテリーが不可欠なのです。今は極めて重要な時期です」と述べている。ここで言う「差別化」は、バッテリー容量、つまり、航続距離が大きな差別化になるということを指している。

フォルクスワーゲンなどの自動車メーカーは、バッテリー不足を恐れてバッテリーメーカーにさらに多くのバッテリーを要求するだけでなく、自社製造を推進している。テスラもバッテリーセルを自社生産するとたびたび報じられている。


フォルクスワーゲンの新しい工場ではバッテリーシステムの生産を大幅に拡大 年間最大50万個のバッテリーを供給する 写真:VW

では、このバッテリーと素材の競争に勝つにはどうすればいいのだろうか。

バッテリー素材争奪戦を勝つために 

バッテリーの素材確保を安定的に、しかも拡大していくためには、方法は限られている。新しい鉱山を開発するか、現在の市場にある素材をリサイクルするか、リチウムを使わなくする(少なくする)かだ。

その1 新しい鉱山を開発する

新規鉱山の開発については、各国が動いている。4月12日の日経新聞によれば、日本政府は独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)の出資比率を上げる方針だ。これは、いままでの鉱山開発事業への出資額を、原則50%までだった枠を増やす政策だ。民間への債務保証も拡充するとみられる。

これでわかるように、鉱山開発は初期コストが非常に高い。探査だけで数億、商業化には数百億かかると言われる。開発地であるアフリカなどの地域特有のリスクもある。

新しい鉱山の開発には時間もコストもかかる。だからこそ、今から手を打たなければならないのだが、今すぐに効く対策ではないことも確かだ。

また、民間での動きもある。3月に発足が発表され、4月14日に設立総会が開かれた「電池サプライチェーン協議会(BASC)」は新しい組織だ。

同協議会には、住友金属鉱山、三井金属、丸紅、住友商事のほかに、日産、マツダ、ホンダが加盟する。電池メーカーで参画する、プライムプラネットエナジー&ソリューションズは、パナソニックとトヨタが出資している。3月の発足時の22社からひと月の間で一気に55社に増えた。会長は、三井住友金属鉱山の阿部功・電池材料事業本部長だ。国内で生産されるバッテリーのサプライチェーン強化やリチウム確保を政府に働き掛けるとしている。


電池サプライチェーン協議会(BASC)の参画企業(2021年3月31日現在)

日本ではリチウムもコバルトもとれないから買ってくるしかない。しかし、市場で調達すると高騰リスクがあるため、直接調達する動きもある。トヨタグループの豊田通商はアルゼンチンのリチウム生産事業の権益を25%取得し、現地生産をしている。

その2 リサイクル

一方で、リチウムやコバルトをリサイクルする動きも活発になっている。使い捨てではなく、適切な処理を行えばバッテリーとして再利用できる。

テスラも注目している、カナダのベンチャー企業であるLi-Cycle社は 北米で2つのリサイクル施設を持ち、3つ目の工場建設を計画している急成長している企業だ。新しい工場では年間最大1万トンの使用済みバッテリー、およびバッテリーのスクラップを処理できる。これはEV2万台に相当する。同社ではこれからバッテリーの量は増えると考え、新しい工場もネバダ、テキサス、カリフォルニアにアクセスできるフェニックスに作る予定だ。

前述のグローバル・バッテリー・アライアンスもリサイクルを重視している。「廃棄や埋め立てに頼るのではなく、可能な限り長く経済的価値を維持するために、バッテリーのリサイクル、再利用、そのための一貫した手段の整備が必要です」。

日本でもリチウムイオン電池のリユース・リサイクル市場は2019年度の3億円から2025年には25億円になるという予測もある。


Li-Cycle社のプレスリリースより

その3 リチウムを使わない(少なくする)

3つ目の方法はシンプルだ。鉱山に頼らなければならないリチウムやコバルトをできるだけ使わないような電池を開発すればいい。

たとえば、現在、コバルトを使わないコバルトフリーのリチウムイオン電池の実用化が迫っている。各種研究が活発化しているが、たとえば2020年7月にはテキサス大学の研究チームが完全にコバルトフリーの電池を開発した。スタートアップの米Sparkz社は米エネルギー省が管轄するオークリッジ国立研究所からライセンスを受け、コバルトフリーの正極材料の商業化に乗り出した。韓国TopBatteryもコバルトフリーを商用化するという報道が2020年にあった。

そしてテスラは、以前からコバルトフリーのバッテリーを使おうとしている。テスラの計画では、コバルトではなくリン酸鉄系の電池に徐々に置き換えていこうとしている。

リチウムもそうだ。次世代の全固体2次電池は、リチウムに変わる材料としてナトリウムやマグネシウムも研究されていたり、他のイオン電子も研究されている。研究開発にはもちろん時間がかかるが、リチウムの量を今よりぐっと減らすことを世界の研究者は目標にしている。

米中の国家間の動きと日本

アメリカのバイデン政権が現在進めている247兆円にも及ぶインフラ計画には、送電網や充電ステーションとともに、バッテリーのサプライチェーンの安定供給ももちろん盛り込まれている。これは、世界のバッテリー生産が現在は中国に依存していることによる。

アメリカと中国は気候変動は唯一協調できる国際問題だとしているが、産業、それも脱炭素のカギを握るバッテリーのサプライチェーンとなると話は変わってくる。バイデン政権は中国に依存しなくてもよいようなサプライチェーンの構築を目指している。

日本の動きを見てみよう。

日米首脳会談では菅総理がバイデン大統領に脱炭素の取り組みで協調すると共同記者会見をおこなった。政府の取り組みは前述の鉱山開発支援だけにとどまらず、研究開発支援にまで広がっていくだろう。

自動車メーカーでは、日産は全固体電池を2027年から2028年に商用化すると日経の取材に答えている。パナソニックはテスラの新型4680バッテリー開発に注力するが、テスラは他のバッテリーメーカーにも調達をかけている。東芝は三菱自動車、マツダ、トヨタにも採用された。

日本は脱炭素からのバッテリー資源争奪戦という国際競争の中で、どのように生き残りをかけるのだろうか。

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