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新電力が事業継続トラブル 消費者は知らぬ間に契約切り替え

新電力が事業継続トラブル 消費者は知らぬ間に契約切り替え

EnergyShift編集部
2021年04月09日

新電力の熊本電力と、電力卸商社のフラワーペイメントの間で事業継続をめぐるトラブルが起き、契約者そっちのけでそれぞれの正当性を主張する事態が続いている。契約者たちは困惑し、電気料金の支払い通知が届くだけの対応に苛立ちを隠せないでいる。

きっかけは、フラワー社による一通のメールから

熊本電力は2014年3月に設立し、2016年の電力小売全面自由化を機に小売電気事業者に登録、それ以降、北海道、東北、北陸、関東、中部、関西、中国、四国、九州9エリアで小売事業を展開してきた。

一方、2016年3月設立のフラワーペイメントは電力卸業務などを手がけ、熊本電力にも電力を卸供給していた。

両社の間に事業継続をめぐるトラブルが表面化したのは、2021年2月3日だった。フラワーペイメントから熊本電力の契約者に対し、「熊本電力との契約の地位譲渡に関するお知らせ」というメールが送信されていたことが、フラワー社のウェブサイトで公開されたのだ。

その内容は以下のとおり。

「フラワー社は、2021年1月28日までに、熊本電力の代表取締役竹元一真氏から、正当な手続きによらず代表者変更等が行われたため、お客様へのサービス継続が困難であると報告を受けました。さらにフラワー社は、竹元氏より、熊本電力とお客様との間の契約上の地位移転をすることの申し出を受けました。

上記事態を踏まえて、熊本電力のお客様への電力供給におけるサービスを継続するため、熊本電力とフラワー社との契約に則り、熊本電力とお客様との電気需給契約における契約上の地位につき、2021年2月2日付けにてフラワー社へ移転を行う運びになりました」。

フラワー社は、熊本電力の代表である竹元氏が正当な手続きによらず退任したうえ、熊本電力の事業継続が困難だと報告を受けたため、熊本電力の契約者への電力供給を継続するために、契約上の地位移転を実施したという。

さらにフラワー社は翌4日に、「熊本電力との契約の地位譲渡」に関する補足説明を公表する。その中で、「2021年2月1日付にてフラワー社子会社で小売電気事業者であるオンブレナジーの社名を熊本電力(通称:新熊本電力)に変更の手続きを行っている」と表明。

さらに「お客様におかれましては、契約上の地位が移転されることで、なんら不利益が生じるものではなく、現在のサービスの内容、料金等はなんらの変更が生じるものではありません」とし、契約者に理解を求めた。

熊本電力の反論「フラワー社の行為は電子計算機損壊等業務妨害罪および電気事業法違反」

フラワー社による契約上の地位移転などに対し、熊本電力は2月7日、ウェブサイト上に「今回の問題に関しましてのご報告及びご協力について」と題した反論を掲載する。

その内容は以下のとおりである。

「弊社の業務委託先であるフラワー社が、2021年2月2日に弊社より提供されたIDを使い、電力広域的運営推進機関のスイッチング支援システムへログインし、弊社のスイッチング支援システムIDを全て削除したうえ、管理者IDをフラワー社に変更しておりました」。

「電力広域的運営推進機関に対応していただき翌3日には、弊社がログインできるようになりましたが、弊社のお客様の契約をスイッチング(小売電気事業者の切り替え)し、お客様の同意をいっさい得ることなく、フラワー社に移転させてしまっていることを確認いたしました」。

「このような行為は、電子計算機損壊等業務妨害罪および電気事業法違反であると考えますが、同社により、既に違法にスイッチングされ手続きが完了してしまっていることは事実であり、弊社の不徳の致すところであります」。

「地位の移転があったという点を弊社としては認めておらず、フラワー社は上記のような不正な方法でお客様の同意がないままスイッチング行為を行っており、弊社は、違法なスイッチングの取り消しを行うよう各エリアの一般送配電事業者へ申告いたしました。これにより、すでに一部のエリアにおいては、取り消しが完了いたしましたが、取り消しに応じてもらえず、取り消し出来ないエリアも存在いたします」。

「そのため、弊社といたしましては、お客様の意思表示を持ちまして改めて一般送配電事業者へ取消依頼を行いたいと存じます」と熊本電力側の主張を公にした。

つまり、フラワー社によるスイッチングは違法であり、一部のエリアのスイッチングは取り消しができたが、取り消しができないエリアがある。スイッチングの取り消しを一般送配電事業者に改めて依頼するには、契約者からの意思表示が必要であり、契約者に対して「熊本電力と契約するか」、それとも「フラワー社と契約するのか」意思表明をしてほしいと訴えたのだった。

消費者にわずか3日間で「熊本電力orフラワー社」の選択を要請

熊本電力が意思表示を依頼したのが2月7日だったにもかかわらず、回答期限はわずか3日後の2月10日の12時だった。10日12時までに回答しなかった場合、フラワー社に契約が変更されるという。

突然の意思表明の依頼に対し、そもそも気がつかなかった契約者が多数いたと見られ、SNS上では、「4月に入り気づいた」という声や、「知らない間に契約が変わっていた」「契約者はいったいどうすればいいのか」といった不安の声が上がっている。

また、熊本電力、フラワー両社に対し、顧客対応のまずさを指摘し、第三者へ電力を切り替えたという声もあった。

フラワー社「契約者保護と経営危機に陥った熊本電力の救済策だった」

熊本電力の主張に対し、フラワー社は2月8日、時系列をさかのぼって、以下の反論をする。

2020年10月2日
熊本電力は、事業者Aからの借り入れ(100百万円、実質年率170%)に対し、その担保としてすでにフラワー社へ担保設定している債権(熊本電力の需要家向け電気小売契約に基づく売掛債権)を、事業者Aに二重譲渡したことが発覚する。

2020年10月6日
フラワー社代表と熊本電力の代表取締役である竹元氏と話合い、熊本電力の資金繰り及び小売電気事業の継続が困難となる危機的状況であることを確認する。これを解消するため資本業務提携の検討を開始する。

2020年11月25日
フラワー社および竹元氏が、フラワー社顧問弁護士及び監査法人を交え、以下の4つの現状確認をする。

  • 熊本電力とフラワー社の契約関係は、電力卸契約を基本とした契約であること
  • 売掛債権を第三者へ二重譲渡している状況は、契約違反の状況であること
  • 熊本電力の需要家への電力供給の維持を目的とし、地位移転ができる状況であること
  • フラワー社、熊本電力及び需要家のメリットを図ることを目的に、地位移転による方法ではなく、資本業務提携の枠組みで問題を解決していくべきであり、竹元氏も同じ考えであること

2020年12月30日
フラワー社、熊本電力、竹元氏との間で資本業務提携契約を締結。

2021年1月21日
フラワー社が熊本電力の登記情報を確認したところ、2021年1月8日付で、竹元氏が退任(取締役としては残る)し、新たな代表取締役の就任などの事態が発覚する。

2021年1月22日
フラワー社が事実関係を竹元氏に確認。竹元氏は、登記変更を把握しておらず、熊本電力の代表取締役は、自身のままであり、登記を勝手に変更されてしまった旨の説明を受ける。

さらに竹元氏より以下の3つの説明を受ける。

  • 事業者Bなどより借り入れ(70百万円、実質年率120%)を2018年10月以降行い、2020年10月から返済していない。当該借り入れに対し、熊本電力の株式を担保提供した(フラワー社との契約違反事由)。
  • 当該借入金が未払いの状態であることから、株式担保を実行され、当該手続きがなされてしまったと竹元氏は推測。
  • 竹元氏の知らない間に、熊本電力の代表印も変更されている事実も発覚する。

2021年1月28日
事態の緊急性重大性に鑑み、竹元氏より、フラワー社に対し、資本業務提携契約に基づく組織再編等を実行することは事実上困難であり、熊本電力の需要家への電力供給の維持を目的とし、熊本電力と需要家との電気需給約款に基づく電気小売契約における熊本電力の地位をフラワー社へ移転する手続きの申し入れがなされる。

フラワー社はこれを受け入れ合意。移転先は、フラワー社子会社であるオンブレナジーとし、「オンブレナジー株式会社」から「熊本電力株式会社」への商号変更及び10日以内の地位移転手続きを行うことで合意する。
また、竹元氏より、これ以上債務を増やしたくないことから、フラワー社に対して、電力卸供給、託送料金の支払いサービスの停止の申し入れがなされ、フラワー社はこれを受け入れ合意する。

同日1月28日 21:52頃、熊本電力よりフラワー社に対し、オンラインデータ共有サービスを通じて当該手続きに必要な需要家情報が提供される。

2021年2月1日
オンブレナジーを熊本電力へ商号変更実施。

2021年2月2日
フラワー社から旧熊本電力に対し契約の地位移転を通知する。

2021年2月2日(夜)~3日(昼)
フラワー社、旧熊本電力から共有を受けた需要家情報を元に、需要家へ向けて、地位移転のお知らせのメールを配信する。

熊本電力、3月19日から新規申し込みを一時停止

熊本電力は、価格競争力のある電気料金を武器に一般家庭を含む契約者を獲得してきた。業績も拡大し、2018年1月期1億5,562万円だった売上高は、2020年1月期には12億5,367万円まで増え、2020年11月の電力販売量は5,291kWhであった。同社IR情報によると利益剰余金も3,899万円あった。

しかし、フラワー社の主張が正しければ、安値攻勢によって顧客数を獲得し続けたが、実態は薄利多売によって財務は火の車であり、年率170%の借り入れを受けざるを得なかったのだろう。

熊本電力は、フラワー社による一連の対応について、電子計算機損壊等業務妨害罪および電気事業法違反、個人情報保護法違反だと訴えている。しかし、3月19日以降、新規の申し込み受付を一時的に停止しており、4月に入ってからも停止した状態が続く。

契約者そっちのけで、繰り広げられた熊本電力、フラワー社による事業継続トラブルは、完全に解消された状態とはいえない。契約者からは、熊本電力との契約を継続するという声とともに、行く末を危ぶむ声が上がっている。

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