環境価値とRE100その4 トラッキング付き非化石証書 | EnergyShift

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環境価値とRE100その4 トラッキング付き非化石証書

環境価値とRE100その4 トラッキング付き非化石証書

2020/06/10

2018年にスタートした「非化石証書」は、最初は電源を特定せず、FIT電源の環境価値を切り出す形だった。しかし、RE100に対応するためには、電源の特定が求められた。また、規模、用途の面でも、「グリーン電力証書」や「J-クレジット」と大きく異なる。今回は、「非化石証書」のとりわけトラッキング付きのものを中心に解説する。

非化石証書はあくまで小売電気事業者向け

非化石証書はグリーン電力証書J-クレジットよりも遅く、2018年に後発で創設された環境価値の証書だ。
非化石証書はグリーン電力証書やJ-クレジットと同様な環境価値の証書なのだが、他の2つの証書と大きく異なる性質がある。それは、「非化石証書は小売電気事業者向けの環境価値証書」であることだ(グリーン電力証書とJ-クレジットは需要家向けの証書だ)。

というのも、非化石証書を売買する「非化石価値取引市場」は、電力システム改革の一環で創設された電力新市場のひとつで、後述するように、本来は別の目的を持ったものだからだ。

経済産業省は2016年4月に実施した電力小売り全面自由化を活性化させるために、新たな参入事業者と大手電力会社をなるべく公平に競争させようと、非化石証書取引市場以外にも「ベースロード市場」「容量市場」「需給調整市場」などのさまざまな新市場を次々と創設している。

エネ高度化法目標達成の手法に

現在の非化石証書の大きな目的のひとつが、エネルギー供給構造高度化法(エネ高度化法)の定めた目標を達成する手法としての活用だ。

エネ高度化法とは、電気やガス、石油事業者といったエネルギー供給事業者に対して、(太陽光発電、風力などの)再生可能エネルギー電源、(原子力などの)非化石エネルギー電源の利用、および化石エネルギー原料の有効な利用を促進するために必要な措置を講じる法律である。

2016年4月の改正で、電力の販売量が5億kWh以上の小売電気事業者は、自ら販売する電力の非化石電源比率を2030年度までに44%以上にすることを義務付けられた。

新規参入者には非化石電源を調達する手段が限定されているため、新たな制度整備なくしてエネ高度化法の目標達成は難しい。そこで経産省は、非化石価値を顕在化し、取引を可能とすることで、小売電気事業者の非化石電源調達義務の達成を後押しする非化石証書を創設した(図1)。

総合資源エネルギー調査会 電力・ガス事業分科会 電力・ガス基本政策小委員会 制度検討作業部会 中間論点整理(第2次) 2017年12月26日 経産省 より

なお、FIT(再生可能エネルギー電力の固定価格買取制度)電源由来の非化石証書の売り上げはFIT賦課金の低減に活用することから、非化石証書はFIT拡大による国民負担を軽減する目的もある。

このように非化石証書は、環境価値を証書化したグリーン電力証書やJ-クレジットと形態は似ていても創設の目的が大きく異なっている

FIT非化石証書の取引スキームを、図2に示す。

総合資源エネルギー調査会 電力・ガス事業分科会 電力・ガス基本政策小委員会 制度検討作業部会 中間論点整理(第2次) 2017年12月26日 経産省 より

低調な取引の起爆剤として期待

非化石証書とは、CO2を排出しない電源の電気から非化石価値を分離し、証書化したものだ。

電源は太陽光発電や風力、大型水力などの再生可能エネルギー(FIT電源含む)由来と原子力発電由来がある。2020年5月末現在で取引されているのは、このうちFIT由来の非化石証書のみだ。

非化石証書の中でも、FIT電源である再生エネ由来で、政府によって発電設備に関する属性情報がトラッキング(追跡)された非化石証書が注目されている。このトラッキング付き非化石証書は、事業で使用する電気を再生エネ電気由来100%にすることを目指す国際企業連合であるRE100加盟企業の目標達成手法に活用できるからだ。

非化石証書の創設当初は、この証書がRE100の条件を満たす再生可能エネルギーの電気として適用されるかについて、実は曖昧なままだった。当初の非化石証書は、RE100に適用する電気の条件である電源種や発電所所在地の証明がされてなかったからだ。

そこで経産省は2018年12月から、非化石証書をRE100の再生エネ電気に適用させる実証実験に取り組んでいる(2020年度も継続)。
具体的には取引される非化石証書について、電源種や発電所所在地などのトラッキング情報を付与する実証実験をしている。実証実験に参加した小売電気事業者には、トラッキング属性情報を付与した非化石証書が交付される(図3)。

トラッキング付非化石証書の販売にかかる事業者向け説明資料 2020年4月1日 資源エネルギー庁 より

この「トラッキング付非化石証書」を活用した電気を、小売電気事業者の販売を通して企業などの需要家が調達した場合、その電気はRE100適用の再生エネ電気として正式に認められる。

2018年11月まで販売されてきた非化石証書はFIT電源に由来する環境価値を証書化したものだったが、あくまで小売電気事業者の非化石電源比率の向上が目的だったために、電源種や発電所所在地などの詳細な情報は明らかにされていなかった。

トラッキング付与の実証実験は、小売電気事業者の販売先である需要家によるRE100の取り組みにも活用できることで大きな効果をあげている。

2018年5月に取引が始まった非化石証書は、2018年5月、8月、11月に3回入札が実施されたが、総販売量は2018年5月が516万kWh、8月が224万kWh、11月が2,102万kWhとどれも総販売可能量の0.1%未満と極めて低調だった。

しかしトラッキング実証実験が起爆剤となり、トラッキング導入後の2019年8月は1億638万kWh、11月が1億8,664万kWhと驚異的に取引約定量は増えている(図4)。2020年度中に実施される4回の非化石証書入札すべてにおいてもトラッキング付非化石証書を発行する予定だ。

トラッキング付非化石証書の販売にかかる事業者向け説明資料 2020年4月1日 資源エネルギー庁 より

手数料は実証実験の段階では不要

経産省は今年(2020年)5月に開催される2019年10~12月FIT発電量分の非化石証書入札においても、トラッキング情報を付与する実証実験を継続すると発表している。
トラッキング付非化石証書取引には、取引する小売電気事業者と発電事業者が事前に事務局へ参加登録しなければならない。参加するための手数料は実証実験の段階では不要だ。事務局は経産省の資源エネルギー庁とIT(情報技術)ベンダー大手の日本ユニシスが共同で務めている。この事務局が発電された電気に付随する属性情報を一括して管理する。

需要家はトラッキング付き非化石証書を直接購入できないので、当然同実証実験に参加できない。したがって、RE100加盟企業に販売している小売電気事業者が、需要家の要望に応えるべく積極的に参加している。

2020年2月に実施した2019年7~9月発電量分のトラッキング付非化石証書取引には、サミット酒田パワーやSGET神栖メガソーラー合同会社など41のFIT発電事業者とエネットやオリックス、東京電力エナジーパートナーなど29の小売電気事業者が参加した。

事務局が小売電気事業者に付与するトラッキング属性情報は、FIT設備ID、太陽光か風力かなどの発電設備区分、設備の所在地、発電設備名、購入量などだ。

トラッキング付非化石証書取引の流れとしては、まず、小売電気事業者が事前にトラッキング情報を受け取る申請をし、その後にJEPX(日本卸電力取引所)の非化石証書入札で証書を実際に購入する。次に実証実験事務局が、参加登録している発電事業者の発電設備をマッチングし、最終的に小売電気事業者へトラッキング情報を付与する。

購入した非化石証書と付与されたトラッキング情報を合わせて初めて、トラッキング付き非化石証書となるのだ(図5)。

トラッキング付非化石証書の販売にかかる事業者向け説明資料 2020年4月1日 資源エネルギー庁 より

トラッキング情報割当には優先順位がある

トラッキング付非化石証書取引には、同一発電所のトラッキング情報を複数の小売電気事業者が取得を希望する場合があることから、トラッキング情報を割り当てる優先順位を定めている。

割り当ての最優先は、特定のFIT発電設備と小売電気事業者が直接調達契約をすでに結んでいるケースだ。
2017年のFIT法改正前まではFIT発電所が発電した電気の買い取り先は、小売電気事業者だった。FIT法改正後の買い取り先は送配電事業者となったが、小売電気事業者は発電事業者と再生エネ特定卸供給契約を結ぶことができた。
FIT法改正後の再生エネ特定卸供給契約を含めた、直接調達契約をしている小売電気事業者と発電事業者が両方取引に参加していれば、他の小売電気事業者が同一の発電設備のトラッキング情報取得を希望しても、当然、契約をしている当該小売電気事業者が最優先に割り当てられるのだ。

ただ2012年7月にFITが開始した時点では、電力小売り全面自由化はまだはじまっていなかったので、小売電気事業者は大手電力会社と一部の参入企業に限られていた。したがって、FIT初期の買い取り価格の高い発電所の供給契約先は、大手電力会社か一部の大手の新電力だ。
こうした経緯があるため、2016年の電力小売り自由化以降に参入した後発の小売電気事業者の多くは、大手電力会社に優位となる現状のトラッキング情報割り当てルールに不満があるようだ。

その次に優先される割り当ては、調達契約を結んでいないが発電事業者と小売電気事業者の双方が特定のFIT発電所のトラッキング情報付与に合意している場合だ。

最後に割り当てされるのは、調達契約も双方の個別合意もなく、事務局の裁量によって割り当てられるトラッキング情報付与になる。

小売電気事業者は、優先順位に関わらず、トラッキング情報が付与されれば非化石証書と組み合わせることができる。JEPXから調達した電気でも、トラッキング付非化石証書とセットで需要家へ販売すれば、再生エネ由来の電気としてRE100に適用される。

ちなみに経産省は同実証実験を続けながら、2020年度から新たに発行する大型水力などの非FIT再生エネ由来の非FIT非化石証書も一元的にトラッキングできるシステムを整備する方針だ。

(Text:土守 豪)

参照

総合資源エネルギー調査会 電力・ガス事業分科会 電力・ガス基本政策小委員会 制度検討作業部会 中間論点整理(第2次) 2017年12月26日 経産省
トラッキング付非化石証書の販売にかかる事業者向け説明資料 2020年4月1日 資源エネルギー庁