海外で気候変動対策に特化したファンド組成が活発になっている。米大手のTPGキャピタルは7月27日、気候変動に特化したTPG Rise Climate Fundの初回クローズに54億ドルになったと発表した。同ファンドはファイナルクローズまでに70億ドルを目指す。
カナダのブルックフィールド・アセット・マネジメントは28日、脱炭素を支援する新しいインパクト投資ファンドの初回クローズに70億ドルを調達したと発表。こちらはファイナルまでに125億ドルの調達を目指す。
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TPGキャピタルは1992年創業のオルタナティブ資産運用会社で、運用資産額は1,000億ドルを超える。
そのTPGが2021年初頭に立ち上げていたのがTPG Rise Climateだ。TPGにはもともとTPG Riseという2018年に立ち上げた(U2のボノも設立に参画した)気候変動投資専用の枠組があるが、その中に新しいファンドとしてTPG Rise Climateができた格好だ。今回のTPG Rise Climateの54億ドル調達で、TPG Rise全体では110億ドル以上の資産運用になる。
TPG Rise およびTPG Rise Climateは、革新的な気候変動ソリューションを開発した企業、研究者、企業家との協働をめざし、研究家コミュニティ、アーリーステージの投資家、実現可能な気候変動対応技術を成長させることを目的としている。アプローチ先はクリーンエネルギー、脱炭素の解決ソリューション(DXなど)、脱炭素運輸、グリーン化産業、農業と自然ソリューションの5つのセクターにフォーカスしている。
今回のTPG Rise Climateの初回クローズにはオンタリオ教員年金基金、ワシントン州投資委員会、サウジアラビアの公共投資基金(PIF)、フランスのアクサ(AXAF.PA)などの機関投資家だけでなく、3M、AMD、アルファベット(Google)、Apple、ナイキ、日本の三井住友銀行などの企業も参画しているところが注目を集めている。
さらにTPG Rise Climateでは、こうした20社以上の企業と投資家層とを結ぶ「TPG Rise Climate Coalition(連合)」を設立。知見の共有や投資家層との協力関係を構築するという。
TPG Rise Climateのエグゼクティブ・チェアマンであり、もと米国財務長官のハンク・ポールソン氏は、「TPG Rise Climateには、資本力、革新性、説明責任で結ばれたグローバルな機関投資家や企業のユニークなグループが参加しています。TPG Rise Climate Coalitionでは、TPGの厳格な投資プロセスを活用し、技術を引き出し、ソリューションを拡大し、幅広い影響を与えるという共通のコミットメントのもとに、世界の主要企業を集めている」とコメントしている。
カナダのブルックフィールド・アセット・マネジメントは1899年設立。不動産、インフラ、再エネ、PE(プライベート・エクイティ)など6,000億ドルを超える資産を運用している世界最大級のオルタナティブ資産運用会社だ。
すでに再生可能エネルギーに対しては590億ドルの投資を公表しているが、さらに新しく、企業の脱炭素支援のためのインパクトファンド「ブルックフィールド・グローバル・トランジション・ファンド」を設立。初回クローズで70億ドルの調達を果たし、ファイナルクローズまでには125億ドルの調達を予定している。
ブルックフィールドによると、オンタリオ州教職員年金基金(TPGにも参画)とシンガポールのテマセク・ホールディングスが最初の重要な投資家になり、カナダの年金基金であるPSP InvestmentsとInvestment Management Corp.of Ontarioも、このファンドに対して重要なコミットメントをしている。
このファンドを主導したのは元ゴールドマン・サックスで現ブルックフィールド副会長兼トランジション担当のマーク・カーニー氏。同氏は「世界が持続可能性にますます注目する中、必要な資本と投資可能な機会は当初の予想よりも急速に拡大しており、気候変動に対処し、魅力的なリターンを生み出す大規模な投資の機会がさらに増えている」とプレスリリースで述べている。
また、ブルックフィールドの再生可能エネルギーグループのCEOであるコナー・テスキー氏は「このファンドの数字は非常に大きいが、今後数十年にわたる脱炭素対応の資本額からすればかなり小さく、バケツの中の一滴のようなもの」とブルームバーグにコメントしている。
今回のような大型の気候変動関連ファンドは、ブルックフィールドのコナー氏のいう通り、さらに規模は拡大し、各投資家がこぞって参画するだろう。それを後押しするのは、バイデン政権のグリーン・ニューディールやEUのEUグリーン・ニューディール(European Green Deal)などの世界の動きだ。世界各国の脱炭素政策が後押しをして投資が活発になる、一種の官製バブルの様相も呈してきている。
アメリカの投資家は、オバマ時代のエネルギー政策の頓挫をまだ忘れていないだろう。しかし世界の脱炭素の動きは、明らかに4年前とは違うフェーズに入っている。大型の気候変動対策の投資案件はこれからも続くと思われるが、これがバブルとなるかどうか、機関投資家、運用会社の判断もこれから重要になってくる。
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