日産とテスラの明暗 EVサバイバー 第6回 | EnergyShift

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日産とテスラの明暗 EVサバイバー 第6回

日産とテスラの明暗 EVサバイバー 第6回

2021/10/03

前回まで2回に分けてトヨタのソフトウェア戦略とエネルギー戦略を考察してきましたが、掲載後1週間も経たぬ9月7日、トヨタはバッテリー戦略について、記者やアナリストに対する説明会を行いました。内容は他の記事に譲りますが、トヨタのフルモデルチェンジが道半ばであり、まだまだ世界最大級の自動車メーカーとしてのトヨタ自動車として戦闘力を維持し続ける必要はあるわけですから、HV(Hybrid Vehicle)およびBEV(Battery Electric Vehicle)のバッテリー技術の蓄積や生産体制を整えるのは、もはや義務と言っても良いと思います。会見に出席した役員の顔ぶれを見ても、ビジョナリーというよりも実務能力に秀でていそうな面々でした。

一方で、9日に行われた自動車工業会の会見で豊田章男会長は、欧州の流れに沿った目標設定を政府が行おうとしていることを指摘して、内燃機関を持つクルマへの制限を行うなと牽制しました。削減目標はCO2であり内燃機関ではないだろ、という指摘です。

11月のCOP26を前にして、自民党総裁選や総選挙のために政治家が国民向けのリップサービスで業界の計画をおじゃんにしないよう、雇用を文字通り人質にして迫る自工会。これら興味深い会見はYouTubeでその会見の様子を見ることができます。

日産とテスラの10年

さて、今回のEVサバイバーは日産自動車にフォーカスしてみたいと思います。ご存知のように、日産は2010年に本格量産電気自動車としては世界初として「リーフ」を発売し、2017年にはモデルチェンジも果たしています。2020年12月には発売10周年を迎えて、かつ世界販売50万台を達成。カルロス・ゴーン元CEOの彗眼とリーダーシップ、日産の技術力があったからこそ生まれたエポックメイキングなクルマです。

ところが、リーフとともに歩んだ日産の10年は残念ながら飛躍の10年とはなりませんでした。一方でこの10年間で飛躍した自動車メーカーはテスラだったのではないでしょうか。

EVメーカーとして2003年に設立されたテスラも2008年に少量生産のスポーツカー「テスラ・ロードスター」から4年を経た2012年に大型量産セダンである「テスラ・モデルS」を発売します。

その後は大型SUV「モデルX」、中型セダン「モデル3」「モデルY」というようにラインナップを拡大しつつ、世界のBEVの主役に躍り出ました。現在の時価総額は80兆円を越えており、対する日産は約2.4兆円の時価総額。これほどまで期待値に差が開いてしまいました。

同じようにBEVに先行し、自動運転技術を磨いてきた両社。私は日産の失敗はリーフを引っ張りすぎたことにあると考えています。


■初代ニッサンリーフは2010年12月に販売開始された。政府の補助金を勘案すると299万円から。購入時に240万円を支払った場合、 その後は低い月々の負担額でゼロエミッション車を買えるというバリューのある購入プランも用意されてはいたが・・・。

リーフはCセグメントのハッチバックセダンです。世界のベストセラーカーである、カローラ、ゴルフ、そしてプリウスと同様の使い勝手を求めるユーザーに向けた究極のゼロエミッションエコカーとして登場しました。日本での価格は376万円。約77万円の政府の補助金を合わせると299万円というターゲットプライスに届きます。カタログでの航続距離は200kmで実際にエアコンをつけて走ると150km程度だったと云われています。

プリウスの亡霊がリーフに固執した原因か

当時も今も私はリーフの商品企画に大きな影響を与えたのは、トヨタプリウスの成功だったと考えています。「エコカーは台数が出なければ効果は限定的になり意味がない」として量販モデルでの販売に拘りました。感度が高い消費者と地方自治体などの公用車の需要を当て込んだエコカー推しです。

CMタレントも初代プリウスを宣伝した伊達公子、坂本龍一が初代リーフのCMにも起用されました。プリウスに乗るような高感度エコライフユーザーをごっそり連れてこようという作戦です。

ガソリン車との価格比較

同クラスのガソリン車に対して同等の支払額(6年間)
CO2排出量ゼロという圧倒的な環境性能

 日産リーフガソリン車(Mクラス)
希望小売価格3,760千円2,440千円
補助金▲770千円0
車両購入金額(補助金繰り入れ後)2,990千円2,440千円
燃料代 (6年間)*186千円670千円
車両購入金額+燃料代 (6年間)3,076千円3,110千円
CO2排出量(6年間)*20約10.41

*1 燃料代概算(社内試算値)
 日産リーフ:電気代9.17円/kWh(東京電力夜間電力算出)、1,000km/月走行
 ガソリン車:ガソリン代148円/L  1,000km/月走行、燃費16.0km/L
*2 CO2排出量:ガソリン車 145g/km(燃費16.0km/L換算)

■2010年3月30日の発表会でプレゼンされた資料を元に作った、当時の比較価格表の再現。ガソリン車との経済的かつ脱炭素的な目線での比較表だ。正しい表なのだが、革新が必要なときの購買力においては、ユーザーが求めているのはそこではなかったのかもしれない。

一方のテスラ・モデルSはラージサイズの高級セダンとして登場しました。全長とホイールベースは当時のBMW5シリーズとほぼ同じ。価格はBMW5シリーズやメルセデスベンツEクラスが5〜6万ドルに対して、モデルSも5万ドル半ばからの展開。補助金を加味するとライバルよりも安くなるという設定です。

当時テスラはまだ大衆車を量産する設計スキルも、サプライヤーチェーンも、工場設備もなく、必要に迫られて高級車から参入したのだと思います。プリウスのライバルをBEVで作ろうという野心も実力もなく、嗜好性が高い高級車市場に対して、2,960mmのホイールベースと1,964mmというダントツの車幅を活かして床下に大量の電池を敷き詰めることと、大容量バッテリーの高出力を活かして「インセイン(狂気)モード」での強烈な加速を演出しました。

テスラは高級車の商品付加価値をEVによってハックしました。エンジン車の同ボディでの価格グレードは、排気量や過給器による出力によって大きく変わります。インセインモードの加速はM5のような高級グレードを凌駕します。また、高級車に求められるNVH(ノイズ・バイブレーション・ハーシュネス)はエンジンの音や振動がなく、重い電池を積むEVでは元々有利です。

明らかにBEVの特性は大型高級車に有利だったわけです。この市場で台風の目となって暴れまくるテスラと、小排気量ターボ車やハイブリッド車がひしめき合うミドルサイズセダン市場で苦戦するリーフが、BEVの市場を切り拓いたテスラと日産の明暗を分けました。

もうひとつ、テスラが巧妙なのはサイバー演出です。手を近づけると自動でポップアップするドアノブや、充電ポート。シンプルな内装にドカンと鎮座する17インチの大型縦モニタ、オートパイロットモードの機能アップがオンラインアップデートで提供されるなど、デジタル世代やハイテク企業に勤務する、新富裕層に対してドストライクな高級車像を提供しました。


初代テスラ モデルS、2012年に発売。価格は5万7,400ドル~だった。
写真出典:Respose Copyright © 2021 IID, Inc. 

本来ならば日産はこのことに気がついて、さっさとインフィニティブランドに乗り換えて高級化、大型化していくとか、リーフの派生車としてクロスオーバーSUVにシフトして付加価値が高いマーケットを攻めるべきでしたが、結局リーフは地道な改良を重ねて電池容量と航続距離を増やしてゆき、全くのキープコンセプトで2017年のモデルチェンジを行なってしまいました。

ルノー日産企業連合のさまざまな台所事情はあったのでしょうが、私にはリーフがプリウスの成功の亡霊に取り憑かれているようにしか見えませんでした。少し脱線しますが、2014年の初代「MIRAI」も私にはプリウスアゲインを狙った商品企画に思えました。車格としてはせいぜい「カムリ」程度のMIRAIに対してレクサス以上の価格設定をしてしまう過ちをしてしまっています。

新しい日産のEV戦略に期待

2019年の東京モーターショーで日産は「アリア・コンセプト」を発表しました。ホイールベースや全長を見ると、アリアはリーフ・クロスオーバーです。日産もなぜテスラだけが、ウケるのかを研究してきたとみえて、内外装にサイバー演出が品良く納められています。

今年6月に発表された製品版アリアもほぼコンセプトカー通り。これが5年前に発売されていたらと思うと悔しさもあるのですが、是非とも成功して日産のEVプロジェクトに勢いがついてくれることを望みたいものです。

同時に展示された「IMk」も軽規格に収まるブランニュー車両のようですが、吹っ切れた商品企画がとても楽しみです。日産が元気であれば、EVトヨタ待ちになる必要は無くなるわけで、皆がこぞって日産や三菱のEVを買って一気にマーケットが活性化してくれることを個人的にも期待しています。

EV市場を執念で切り拓いた先駆者である日産には、これからのEV普及時代においても主役になり、成功を掴み取る資格があると思うのです。

つづく 次回は10月中旬予定

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三浦和也
三浦和也

⽇本最⼤級のクルマ情報サイト「レスポンス」編集⼈、社⻑室⻑ アスキーにてWEBメディア編集を経て、1999年に⾃動⾞ニュースサイト「オートアスキー」(現レスポンス)を⽴ち上げ。2000年にはiモードでユーザー同⼠の実燃費を計測する「e燃費」を⽴ち上げる。IRIコマースアンドテクノロジー(現イード)に事業移管後は「レスポンス」の編集⻑と兼任でメディア事業本部⻑として、メディアプラットフォームの構築に尽⼒。2媒体から40媒体以上に増やす(現在は68媒体)。2015年にイードマザーズ上場。2017年からはレスポンス編集⼈、社⻑室⻑として次世代モビリティアクセラレーター「iid 5G Mobility」を開始。既存⾃動⾞産業へのコンサルティングと新規モビリティベンチャーへの投資や協業を両⾯で⾏い、CASE/MaaS時代のモビリティを加速させる⽴場。最後のマイカーはプリウスPHV。現在はカーシェアやレンタカーを利⽤するカーライフ。