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驚異の低価格で世間を騒がせた洋上風力発電入札 三菱商事が語った3つのテーマとは

2022年03月23日

3.運転開始時期と入札価格について

今回、最も言及が多かった話題は、三菱商事による洋上風力発電の運転開始時期が、3海域とも遅いのではないか。さらには、あえて運転開始時期を遅らせたことによって、価格破壊ともいわれる低価格での入札を為しえたのではないか、という批判に対するものだった。

まず三菱商事の入札価格に目を通すと、能代市、三種町及び男鹿市沖が13.26円/kWh、由利本荘市沖が11.99円/kWh、銚子市沖が16.49円/kWhとなっている。このラウンド1(洋上風力では公募・事業ごとに「ラウンド」と称するのが一般的となっている)の入札上限価格は29円/kWhとなっており、この額も従来の36円/kWhから大幅に引き下げた厳しい基準であったことを思うと、如何に低価格で入札したかがわかるだろう。実際、由利本荘市沖ではレノバ、千葉県銚子沖では東京電力HD系列のグループなどが開発プロセスで先行していたが、評価に大きな差がつけられる形となった。

下図は、経済産業省及び国土交通省にて昨年12月に発表された内容を再編纂したもので、三菱以外の具体的な企業名は明らかになっていないものの、2位以下に大差をつけて選定されたことが伺える。

洋上風力発電事業者ラウンド1の入札に対する選定結果

秋田県能代・三種・男鹿沖(47.88万kW)

事業者合計
(240点満点)
価格点
(120点満点)
事業実現性
(120点満点)
三菱208120
(13.26円/kWh)
88
事業者①160.5287.5273
事業者②157.7793.7764
事業者③149.3571.3578
事業者④127.0459.0468

秋田県由利市本荘沖(81.9万kW)

事業者合計
(240点満点)
価格点
(120点満点)
事業実現性
(120点満点)
三菱202120
(11.99円/kWh)
82
事業者⑤156.6583.6573
事業者⑥149.7358.7391
事業者⑦144.278.266
事業者⑧140.5862.5878

千葉県銚子市沖(39.06万kW)

事業者合計
(240点満点)
価格点
(120点満点)
事業実現性
(120点満点)
三菱211120
(16.49円/kWh)
91
事業者⑨185.687.698

出典:経済産業省、国土交通省発表の「「秋田県能代市、三種町及び男鹿市沖」、「秋田県由利本荘市沖」、「千葉県銚子市沖」における洋上風力発電事業者の選定について」をもとに編集部再編集

では、この圧倒的な価格点を得るに至った、低価格入札は如何にして可能となったのか。その理由について、これまで報道などでは運転開始時期の遅れとの相関性が指摘されてきた。

洋上風力が先行する欧州とは違い、日本でコスト低下を目指すには官民協議会を経てサプライチェーンを構築する必要があり、その時間を得るために運転開始時期を遅らせたと考えるためだ。いわば、現状からはじき出した試算ではなく、将来性にかけた形で低価格を提示したのでないかという見方である。

三菱商事のグループは運転開始時期が2028年9月(銚子市沖)、12月(能代市、三種町及び男鹿市沖)、2030年12月(由利市沖)となっており、レノバ・大林組・日風開等の競合他社より2年以上遅いと目されている。

しかし、本議連ではその考えに対して真っ向からの反対意見が出た。

それは、今回成しえた低価格入札は、欧州で他社に先行して積み上げてきた知見があってのもので、そこへ2020年に買収したオランダの再エネ企業Enecoのノウハウや技術が加わったことが最大の理由である、というものだ。Enecoと三菱商事は10年間にわたって欧州での洋上風力開発に協働し、プロジェクト遂行におけるリスクの洗い出しにも精通するようになったことは、過去にも報道されている。

さらに、価格については驚くべき意見も出た。それは運転開始時期がもっと早められたら、今以上に低価格での入札が可能になったはず、というものだ。

柴山氏を通した話によると、確かに、今回は確実に運転開始が可能となる時期を見込んだため遅めとなった。しかし、海域の占有期間はあらかじめ決められている。そのため、三菱商事としてはもっと早く運転開始が可能であれば、操業期間が延びて利益を上げられるため、さらに低価格を提示できていた可能性があるという。そして、運転開始時期については政府から明確な開始時期が知らされていれば、安全策としての遅い開始時期を見込む必要がなく、より早い時期から運転開始の見込みが立ったかもしれないというのだ。


自民党の再生可能エネルギー普及拡大議員連盟の様子
出典:編集部撮影

無論、これらの話はあくまで三菱商事側からの意見であるが、その内容を信頼し、実際に11.99~16.49円/kWhという低価格で採算がとれるなら、今後の再エネ事業に大きな影響を与えることとなるだろう。それは、再エネの調達費用を下げて日本の産業全体を盛り上げる一方で、入札への参入ハードルを上げることにもつながりかねない側面も持つ諸刃の剣だが、いずれにせよ、選定された以上は今後の動向を見守るほかないだろう。

その他、同社は今後の洋上風力事業の展開について、今回の3海域は中規模の風車で発電することとなったが、将来的には大きな風車の開発や海底電線の改良、より遠洋での浮体式大規模風車の検討もしていきたいとした。再エネ・脱炭素全般というところに関しても、蓄電池や水素利活用の方面に向けても事業展開を示唆しており、再エネ事業全般への思いを語る形となった。

また、再エネ議連では今後、菅義偉前首相を招くことも視野に入れているとのことで、より一層目が離せなくなりそうだ。

  

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高橋洋行
高橋洋行

2021年10月よりEnergyShift編集部に所属。過去に中高年向け健康雑誌や教育業界誌の編纂に携わる。現在は、エネルギー業界の動向をつかむため、日々奮闘中。

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